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光輝石を求めて

ティグ・フィー・クレインの依頼

 アレクラスト大陸有数の大都市・オラン。ヴァトルダーがリーダーを務めているパーティは、この街の行きつけの冒険者の店で、何をするでもなくただただ暇に飽かして酒を飲んでいる。そんな彼らに突然仕事の依頼が舞い込んできた。
 依頼主の名はティグ・フィー・クレイン。大陸の随所に名前の知れ渡った巨大ネットワークのトップである。ヴァトルダーたちは以前、この依頼主の兄が引き起こしたとある事件(通称クレイン・K事件)へ巻き込まれ、酷い目に遭わされた経験がある。その際、パーティは代償としてティグより多額の見舞金を受け取ったのだが、とにかく彼自身ははこの一族を快く思ってはいない。
 ……ここの北北西に位置する比較的低い山に、ガゼッタ遺跡なる場所があり、そこには俗に『光輝石』と呼ばれる、魔力を秘めた石があると言われている。この石を手に入れてもらいたい。
 これが、依頼の内容だった。
 帰ってきた者がないということもあり、パーティリーダーでもあるヴァトルダーは最初のうち渋った。しかし仲間の説得もあって、パーティはこの依頼を受けることにしたのだった。
 ただ、受けるに差し当たって多少(?)のトラブルがあった。
 依頼主のティグとしては報酬として合計二万ガメル、つまり一人頭四千ガメルを用意していたのだが、この『光輝石』、実は行くところへ行けば百万ガメルは下らない代物だったりする。
 さんざんもめた挙げ句、ヴァトルダーを除く者は一人五千ガメルで手を打つところで妥協した。しかしリーダーだけは、五万ガメルを主張して断固として譲らない。
 ティグはしばらく思案し、五万ガメルの報酬を出す交換条件として、一度自分の料亭で食事することを提案した。たかが料亭と高を括ったヴァトルダーは一も二もなく承諾したのだが、さて、どうなることか……。

 依頼を受けた翌日。
ヴァトルダー「お前らー、準備はいいかー!」
 『めざせ、5万ガメル!』のヴァトルダーは、朝っぱらから快調である。
一同「おー……」
 に対し、他の連中の声は低く、虚しい。やはり、五万ガメルで通したヴァトルダーのことが羨ましいようだ。その声にやる気などまるで感じられない。
ヴァトルダー「なんだぁ、お前ら、その声は。もっと気合いをいれろ」
ローゼン「そんなことどうでもいいけどさ」
 明らかに気分を害された表情のヴァトルダーを尻目に、至高神ファリスの神官ローゼンは地図を取り出して広げて見せた。
ローゼン「……まずは北へ進んで、『マティキ宅』を経由していくことにしよう。多少遠回りになるけど、その方が安全だと思うから」
 ローゼンの提案に、一同は頷いた。
 ここで注釈。『マティキ』なる人物は、パーティの一員であるドワーフ・ダッシュの父、『故・クスキ』の舎弟である。以前に一行が北の方の山へ冒険したときに世話になったことがあり、今回の目的地は彼の家にやや近いため、厄介になろうというわけだ。
 比較的整理された道を、鼻歌を歌いつつ歩いているのは戦士ヴァトルダーだ。その少し後ろにつき、馬上から周囲を見渡しているのはローゼン。パーティの残り三人は、歩きながら欠伸を噛み殺している。
 何が辛いかといって、この移動するときの「暇」ほど辛いものはない。彼らに感性の欠片でもあれば、まだ景色を愛でることもできようが……これ以上は言うまい。
 一同は黙々と歩を進め、その夜は野宿し、翌日、日が暮れかかってきた頃にマティキ宅へと到着したのだった。
ダッシュ「ごめん下さい!」
 パーティの中でもっとも関係の深いダッシュが、小屋の戸を叩く。
マティキ「誰じゃ……?」
 中から、年老いたドワーフが出てくる。そのドワーフは、ダッシュの顔を見るなり歓喜の声を上げた。
マティキ「おお……ダッシュではないか! よう来たのぉ。
 これはこれは、お連れの方々も。ささ、君たち、遠慮せずに上がりたまえ。どうせそのつもりで来たんじゃろう?」
 最後の方は意地悪い笑みをこぼしながらの台詞だ。
ローゼン「あはは、とっくにお見通しでしたか。じゃ、お言葉に甘えさせていただきます」
 その夜、マティキ宅は、久方ぶりに若い活気で満ち溢れたのであった。
マティキ「するとお前さん達、今度はあの山に登るのかね?」
ローゼン「ええ」
 マティキが特別に拵えたスープを口に含みながら、ローゼンは頷いた。
マティキ「あの山には変わった遺跡があったのぉ。鍵となる石がないと、中には入れん仕組みになっとるんじゃ」
フィップ「へぇ、そんなのがあるんだ」
 好奇心旺盛なグラスランナーのフィップが身を乗り出す。
マティキ「かくいうワシが、その問題の鍵を持っているんじゃが……」
ローゼン「え?」
 スープを運ぶ手が止まった。
フィップ「ねぇねぇ、どうしてそんなもの、持ってるの?」
 首を傾げながら訊ねる。
マティキ「うむ……。
 あれはいつのことだったかの。ワシは一度、あそこの探索を行ったことがあるんじゃ」
ダッシュ「ほう」
 ダッシュも興味深そうに耳を傾ける。
マティキ「遠い昔にのう、ワシは兄者(=クスキ)と共に、あそこまで行ったんじゃ。確か30年程前になるか。
 あの時、鍵となるこの石を見つけたまではよかったんじゃがのう。臆病風に吹かされ、思わず逃げてしまったんじゃ」
 どこか遠くを見ているような目つきである。
ローゼン(今まで、行った者は誰も帰ってこない……そう、ティグさんは言っていたけど……もしかしてそれって、鍵がなかったから……?)
ヴァトルダー「はあ、しかしまあ、そういうことなら好都合です。それ、貸していただけますか?」
マティキ「ん? ……あぁ、構わんよ。どうせ持っていても仕方がないし、お前さん達にやろう」
 マティキは奥の引き出しをしばらく探ると、奇妙な形をした石を手に戻ってきた。
マティキ「さ、これじゃ。持っていくがいい」
ヴァトルダー「では、ありがたく」
 「鍵」の受け渡しをしているその横で、ローゼンがフィップをつついた。
ローゼン「な? ここによって、正解だっただろ?」
フィップ「うん。ついてるね、僕たち」

 夜が明け、十分に睡眠を取った一行はマティキに別れを告げて出発した。
 ここからはローゼンも歩きである。道が舗装されておらず、馬が歩けないのだ。
 北西へ進路をとり、また歩くだけの旅が再開される。影が徐々に短くなり、そして伸びていく。遂に消えようかとする頃、パーティはようやく山の麓にたどり着いた。
ヴァトルダー「よし、今晩は俺一人で見張りをしてやろう。お前ら、安心して眠れ」
 ……正気なのか、お前?

山頂を目指して

フィップ「先に行くよー」
 身の軽いフィップが、ダルスといっしょに先に進んでいく。後を追うようにローゼンが、その後をダッシュとヴァトルダーがついていく。
ヴァトルダー「はぁ、はぁ……。ま、待って……」
 ダッシュが遅いのは単に敏捷度が低いだけのことだ。だが、ヴァトルダーの場合はこれとは勝手が違う。彼の今日のこの遅さは、「不眠」&「グレート・ソードを二本担いでいること」の賜物である。不眠はさておき、グレート・ソードを二本も背負うなど、正気の沙汰ではない。当の本人はそれをそれと自覚していないのだが。
 やがて一同は急な斜面に出食わした。フィップ、ダルス、ダッシュは無事にそこを抜けることができた。が、しかし……。
 ツルッ!
ローゼン「どっしぇー!」
ヴァトルダー「うおおー! た、助けてくれぇー!」
 重装備の二人が、滑り落ちてしまったのである。ローゼンはロング・スピアの刃の方を地面に突き立て、50メートルほど滑ったところで止まった。
 しかし悲惨なのはヴァトルダーである。突き立てるものは何もない(背中のグレート・ソードはとてもではないが抜くことができない)。加えて、グレート・ソード二本の重さは半端ではない。落ちる、転がる。爪を立て、100メートルほど落ちてようやく止まることができたのだった。これは痛い。
ローゼン「あーあ、ロング・スピアの刃が……。これじゃあ使い物にならないや」
 結局、それを捨てていくことにし、力任せに麓の方へ投げつけた。
 ひゅ〜るるる……。
ローゼン「おー、飛んだ飛んだ」
 上の方ではフィップがパチパチと拍手している。

 同時刻、はるばる山の麓まで山菜を取りに来ていたマティキ。
マティキ「うおおおおーっ!!」
 絶叫をあげるマティキ。その足元には、突然空から降ってきたロング・スピアが突き刺さっていた。
マティキ「きょ、今日は厄日かのう……」
 彼はその場にへたり込んで呟いた。

 ローゼンは、その後無事に仲間と合流した。が……。
ヴァトルダー「おーい、ロープを投げてくれ!」
 ヴァトルダーはまだであった。下からロープを頼んでみたものの、何百メートルものロープを持ち歩く奴などそうそういない。
ダッシュ「無茶を言うな。待っててやるから、早う上がってこい」
ヴァトルダー「ぐぞー、白状者ー!」
 待つこと小一時間。ヴァトルダーはやっと追いつき、一行は再び上りだした。
 それから三時間ほどで日は暮れた。ちょうどひらけた場所に出たので、そこにキャンプを張ってことにした。ヴァトルダーは着いた途端倒れ込む様に寝てしまった。今日はよほど疲れたのだろう。

ローゼン「もう朝、か……。はあ、昨日はえらい目にあったんだよな……」
 朝起きるなりグチをこぼす。
ローゼン「みんな、朝だぞー。……おーい、ヴァトルダー。起ーきろー。起きろったらぁ」
 しかし、起きる気配はまるでない。早く出発したいローゼンは、とっておきの手(でもないけど)を使うことにした。両方の掌をヴァトルダーの瞼の上にあてる。そして……。
ローゼン『ホーリー・ライト!』
 ホーリー・ライトとは神聖魔法の一つで、手から光を放射する魔法である。基本的な使用法はアンデッドに用いてダメージを与える、もしくは弱らせるというものだが、こういう使い方もある(と思う)。言わずもがな、しばらくは何も見えない。
ヴァトルダー「うっぎゃあー!!」
 絶叫が、朝の山々にこだました。
ヴァトルダー「な、何だ……!? 何も見えないっ! ひいいいー!!」
 彼の目の前はが真っ白状態である。
ヴァトルダー「うう……。やっと見えてきた……」
 ややあって、ようやく視力が回復してきた。少なくとも、目は完全に覚めたようだ。当初の目的は達成されたが、ややリスクが大きすぎる。
ローゼン「ようし、起きたな。さ、みんな、食事を取ってさっさと出発しよう」
 何事もなかったかのように、平然と言うローゼン。
 一同は食事をとって、早速出発した。と、ものの30分ほどで山頂へ着いた。そこには噂通り、遺跡があった。中心には窪みのある石柱がある。
ヴァトルダー「ダッシュ、あれをはめるんじゃないか、ここ」
ダッシュ「そのようだな。では、これをはめるという重要な役目を、お前に任せよう」
 安全と思えない役目はヴァトルダーの仕事であった(笑)。
ヴァトルダー「また俺か?」
 しぶしぶ鍵となる石を受け取る。そしてそれを窪みにはめた。
 ゴゴゴゴゴ……
 石柱が下に沈み、回りにあった遺跡が左右に動き、下から巨大な宝箱が上がっていた。それだけならよかった。
 ついてきたおまけが問題である。スケルトン・ウォリアーが付録として上がってきたのだった。骸骨の騎士は蹲った姿勢から立ち上がり、こちらへ襲いかかってきた。
ローゼン「どえええっ! おいっ、な、何とかしろ、ヴァトルダー!」
ヴァトルダー「わかったっ!」
 ヴァトルダーは聖なる(呪われているという説もある)グレート・ソードを引き抜いた。
これは非常に強力なのだが、「T敵意を表していないものを攻撃できない U一度抜くと、相手を殺すまで攻撃を止められない V抜いたが最後、逃げることができない W動きが鈍くなる」という欠点を持っている。
 そのグレート・ソードを抜いた途端、ヴァトルダーの目が血走る。彼は一気にスケルトン・ウォリアーに突っ込んでいった。
 ヴァトルダーは大きく振りかぶると、渾身の力で剣を叩きつけた。しかし、相手はその攻撃を難なくかわした。
ヴァトルダー「うおぅっ!?」
 慌てて体制をたて直し、再度突っ込む。スケルトン・ウォリアーは楯でその攻撃を防ごうとした。
ヴァトルダー「ふっ、甘いー!」
 ヴァトルダーは構わず剣を振り下ろした。
 グワシャッ!
 グレート・ソードは、楯をやすやすと打ち砕き、ついでに右腕をもへし折った。
ローゼン『フォース!』
 神聖魔法で、ローゼンが離れた位置から援護する。
 スケルトン・ウォリアーは多少蹌踉けたものの、すぐにヴァトルダーへ切りつけてきた。しかし、その攻撃は彼の左腕にわずかな傷を負わせたに過ぎなかった。
ヴァトルダー「終わりだーっ!!」
 鈍い音が響いた。
 ヴァトルダーは軽く剣を振り回し、それを背中に収めた。彼の足下には粉々に砕かれた骨が散らばっている。
フィップ「いよっ、お見事!」
 終わってから、口々に褒めつつ悠々と出てくる連中。こういう仲間と組むのはできれば御免被りたかったと、ヴァトルダーは今更ながら思う。
ヴァトルダー「よぉし、じゃあ宝箱を開けるぞ!」
 舌なめずりをしながら、ヴァトルダーは期待に胸を膨らませて宝箱を開けた。
 ギギ、ギィィ……。
 軋んだ音を上げ、中から出てきたのは……。

ダンジョンへの誘い

ヴァトルダー「何ぃ? か、階段じゃないか!」
 中身は階段であった。だから大きかったというわけだ。にしても、作った者のセンスを伺うことのできる入り口である。
ヴァトルダー「……しょうがない、行くか」
 ブツブツ文句を言いながら中に入っていくヴァトルダー。後に他の連中が続いた。
ヴァトルダー「ライト!」
 ライトとはその名の通り、何かに明かりを灯す魔法である。古代語魔法だが、共通語にした共通語魔法にもある(ただし、特殊な魔法の品−指輪など−が必要である)。
 ポォッとヴァトルダーの頭に光が灯った(傍目には間抜けだが、これはこれで役に立つ)。
 しばらく進むと、前と左右に道がわかれた。
ヴァトルダー「左へ行くか」
 左へ進むと部屋が見えてきた。奥の方にはボタンらしい石が見える。
ヴァトルダー「よぅし、俺が行く」
 ヴァトルダーが入り、ボタンを押した。と、部屋と通路の間に隔壁が下り、床が沈んだかと思うとミノタウロスが上がってきた。
ヴァトルダー「ひいーっ! 何で俺ばっかり!」
 先頭を行くからではないだろうか。
 ヴァトルダーは再び剣を抜いた。目が血走り、性格が豹変する。
ヴァトルダー「だりゃーっ!」
 スカッ。
 ミノタウロスは難なく剣をかわし、後ろに回った。そしてその丸太のような腕で、ヴァトルダーを締めつける。
ヴァトルダー「があああ……!」
 もがいて、必死に振りほどいた。そして!
 ザンッ!
 ……いともあっさりとミノタウロスを殺した。倒すときとはこんなもんである。
ヴァトルダー「ふう……。冗談じゃないぜ、まったく。
 ……さてと、どうやって出たもんかな? ボタンを押せば開くか?」
 カチリ。
 ゴゴゴ……ン。
 壁が上がった。その向こうでは、仲間が緊迫感のかけらもない顔で話しをしている。
ヴァトルダー「お前ら……」
ローゼン「よっ、何もなかったようだな。じゃ、他へ行こうか。
 おい、剣をしまっておけよ」
ヴァトルダー「こいつら、いつか殺してやる……」
 怒りに燃えるヴァトルダーだが、今は思い止まった。
ヴァトルダー「もう、真っ直ぐ行くぞ!」
 イライラしながら、大股で通路を闊歩する。
一同「へいへい」
 一同もそれに従って歩いていった。
 真っ直ぐ進むと、巨大な部屋に出た。一見、中には何もないように見える。
ヴァトルダー「おいフィップ、ちょっと調べてきてくれ」
フィップ「ん」
 走ってあっちこっちを見回ったフィップは、戻ってきて言った。
フィップ「あっちの壁が崩れそうだけど」
ローゼン「じゃあダッシュ、グレートアックスで破壊してくれ」
ダッシュ「ようやく出番が回ってきたようだな。よし、引き受けた」
 グレートアックスを抱え、壁に歩いていく。そして、振りかぶると、斧を叩きつけた!
 ゴバァッ!
 壁は木っ端微塵に吹っ飛んだ。
フィップ「やたっ!」
 ヴァトルダーは歩みでて、穴の中へ入っていった。その向こうでは、大きな宝石がライトの光を受けて燦然と輝いている。
ヴァトルダー「やりい!」
 そのまま何のためらいもなく入っていった。と、次の瞬間ライトの光が映し出したものは……。
フィップ「あ、あれ……マンティコアっ!」
 しかも二匹である。
ヴァトルダー「うおおおーっ!」
 即座に剣を抜く。その声を受け、他の連中も一斉に(といっても、一人ずつだが)中に飛び込む。
ダッシュ「ようし、久しぶりの戦闘だ!腕が鳴るわい!」
 ダッシュがグレートアックスを抱えて突っ込み、大きく振りかぶってマンティコアの体へ打ち込んだ。マンティコアが吠える。
ローゼン「いくぞぉ……『フォース』!」
 二匹のマンティコアに、衝撃がブチ当たった。
フィップ「こっちこっちぃ!」
 その一方では、フィップがマンティコアの攻撃をノラリクラリとかわして遊んでいる。
ダルス『ファイア・ボルト!』
 今更そんな低レベル魔法を使わなくても……と思うのだが、レベルは低いなりに使い勝手もいい。
 ゴッ!
 ヴァトルダーがマンティコアに張り飛ばされる。
ヴァトルダー「やろぉ……やりやがったなぁっ!」
 彼の復讐の刃が、マンティコアの体を切り裂いた。

 数分後、床には二匹のマンティコアの死体がころがっていた。

ヴァトルダー「これが光輝の石か……。
 今回はいつになく苦労させられた気がする……」
 文句を言いつつも、心はすでに報酬の元に走っている。
ダッシュ「まあ、これで目的は果たしたし……帰るとするかの」
 一同を見回し、彼らは頷いて応えた。
 その後、マティキ宅を経由して無事にオランへと帰還……。

エピローグ

ティグ「いやあ皆さん、どうもお疲れさまでした。奮発して、報酬は六千ガメル出しますよ」
 報酬を手に喜ぶ面々を目にしながら、ジト目でこちらを見ているヴァトルダーに気付いた。
ティグ「ああ……そういえば、ヴァトルダーさんは5万ガメルでしたっけ。どうぞ」
ヴァトルダー「おう!」
 ヴァトルダーの顔にも笑みがこぼれる。
ティグ「では皆さん、私はこれで。
 さあ、ヴァトルダーさん、参りますか」
ヴァトルダー「料亭か。約束だったからな……」
 舞台は料亭「栄華亭」へと移る。
ヴァトルダー「へぇ、結構いろいろあるな。
 ……なあクレインさん、このフルコースお試しコースっていうのは何だ?」
ティグ「いろいろな食べ物を一通り味わってもらうためのコースですよ。お値段は普通のフルコースのわずか4分の1ですよ」
ヴァトルダー「そりゃあいい。じゃ、それ1つな」
ティグ「毎度どうも……(ふっ、かかりましたね、ヴァトルダー君)」
 やがて、フルコースお試しコースが運ばれてきた。ヴァトルダーはそれに舌鼓を打ち、一時の幸福を味わった。
ヴァトルダー「ううん……こんな旨いものは初めて食った。いやぁ、実にデリシャス。んじゃ、俺、そろそろ帰るよ」
ティグ「ええ、どうぞ。御勘定は、あちらでどうぞ」
ヴァトルダー「おう、じゃあな」
 その“あちら”へ行ったヴァトルダーは、今までの人生20年(但し自称)の中で最大の落差を味わうことになる。そう、幸福と不幸の究極の落差を……。

──本日の食事代、占めて25万ガメル也──


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