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クルカ編 後編

ヴァトルダー&ラエン 捕まる!

ヴァトルダー「おい……」
ラエン「これはいったいどういうことなんだ?」
 腕力と知力が反比例する二人が、到着後あったかーいココアを飲んで、生きている幸福を味わった後、最初に口を開いた。
ティグ「なんだって……何が?」
 平然と答えるティグ。
ヴァトルダー「だから!何で武装解除しなくちゃならないかって聞いてるんだよ!」
ティグ「あー、それね」
 それねって……あっさり言うね、あんた。
ティグ「この国の掟……とでも言っておきましょうか」
ヴァトルダー「嘘つき」
ティグ「(ギク)な……何をおっしゃいます」
ヴァトルダー「俺はここに来たことがある。その時はそんなことをしなかった」
ティグ「(あーっ!そ、そうだったぁ……。わ、私としたことが……)……」
ヴァトルダー「どーだ、言い返せまい」
ティグ「(い、言い返せない……)……」
 どうした、ティグ。
グプター「理由は私が説明しよう」
 横で聞いていたグプターがティグに助け船を出した。
グプター「この国には最近、戦士と言うものを蔑む習慣があってな……」
ティグ「あ、言っちゃった……」
グプター「仕方なかろう」
ヴァトルダー「俺が前に来たときは、そんなことはなかったような気がするんだが……」
グプター「……父にこんな話を聞いたことがある」
 突然昔話を始めるグプター。
グプター「ほんの数カ月前のことだ。戦士一人を含む5人のパーティが、強制的にこの国に連れてこられた。その者達が、父……つまり先代の王に謁見した際、戦士が父を怒らせるようなことを言ってな……。戦士は、我が国の極刑である『ライトニングの刑』にされかけた。必死の弁解の末、どうにか許されたんだが……。それからだ。戦士を蔑む習慣ができたのは。」
 ひく。
ヴァトルダー「……そ、そーですか。ははは……」
 ははは、じゃない。
ラエン「そー言えば、お前もさっき、この国に来たって言ってたよなぁ。奇遇だな、まったく」
ヴァトルダー「……」
 ヴァトルダーは、この時点で完全に発言権を失った。
ティグ「ま、そういうことです。さっきあなた方を迎えにいった兵士を含めて側近の方にはあなた方のことをお話ししてあるんですが、末端の兵士にまでは伝えられてませんからね」
グプター「おそらく、君達二人を見た途端、敵味方を問わず君達は総攻撃を受けるだろう」
ティグ「と言うわけです。納得しました?」
ラエン「ま、俺はそれで構わないが……」
 ちらっと横を見る。
ラエン「……何でこいつらはいいんだ?」
 こいつらとは、言うまでもなく「その他大勢」のことである。
ローゼン「だって、俺とダッシュは法衣を持ってるし、神聖魔法に武器はいらないし……」
ダルス「ワシはもともと鎧なんぞ着ておらんし……」
フィップ「僕も鎧なんか脱いでも大して変わらないし、ダガーは隠せるし……」
「ねー」
 と、声を揃えられたら、ヴァトルダー達は立つ瀬がない。
ティグ「なーに、鎧は必要ないですよ、どうせね。相手はソーサラー、鎧なんかじゃ魔法は防げませんよ」
ヴァトルダー「俺の鎧、魔法がかかってるから防げるんだが……」
ティグ「(な、何ぃ!?こ、この男いつの間にそんなものを……。で、できる!)……」
ヴァトルダー「どーした?」
ティグ「い、いえ……。や、やっぱりぃ、皆と合わせたほうがぁ、いいんじゃないかなぁ……」
ヴァトルダー「……で、武器はどうするんだ?俺は持ち合わせていないぞ、ダガーなんか」
ティグ「(ほっ、どうやら鎧のほうは納得したようですね……)そ、そうですねぇ。一応、10本ほどありますけど」
ヴァトルダー「全部もらう」
ティグ「へ……?」
ヴァトルダー「全部もらうって言ったんだ。なんせ、ティグさんの持ってるもんだからな……。魔法がちゃーんとかかってるんだろ?高く売れるぞ。養育費にもなる」
ティグ「(……ここの倉庫にあった物なんだけどな……勝手に思い込んでるんだから、嘘をついたことにはなりませんしねぇ……)ま、いいでしょう」
ラエン「……するってぇと、俺のほうはどうなるんだ?」
ティグ「えっと……ショートソードなら、1本だけありますけど」
ラエン「……ま、ないよりはましだな……」
ティグ「さて、この件に関して、他に何かありますか?……ないようですね?では、次の話に入りますか」

ティグ「えっと、明日の朝、お二人に奇襲をかけてもらいます」
ヴァトルダー「奇襲ったって……なぁ」
ラエン「たった二人で、何ができるってんだ?」
ティグ「大丈夫、大丈夫。万が一戦うことになっても、相手は非力なソーサラー達です。まともに戦えば、決して負けるようなことはありません」
 一応、嘘は言っていない。言ってはいないのだが……離れた所からライトニングを連発でもされた日には……以下略。
ラエン「でもなあ……」
 渋るラエン。
ティグ「……ちょっとお二人、外へ出て下さい」
 いきなり訳のわからないことをいうティグ。
ヴァトルダー「い、いやだぁ!こんなに寒いのに!」
ティグ「ええい、ごちゃごちゃ言うなぁ!」
 ティグは、二人を外へ蹴りだした。
ラエン「!!!」
ヴァトルダー「さ、さささささ、寒いっ!!」
ラエン「あ、開けてくれぇっ!!」
 泣き叫ぶラエンの声は、室内のティグの耳には届かない。
フィップ「なんか言ってるよ」
ローゼン「ああ、断絶魔の叫びってやつだろうな」
 それは違うぞ、ローゼン。
ティグ「……さて、そろそろいいですかね」
ローゼン「これって……あいつらに奇襲をさせるためにやってるんだろ?」
ティグ「……ピンポーン。よくわかりましたね、いやぁえらいえらい」
 言いつつ、扉を開ける。びゅうぅっ、と雪が中に吹き込んだ。
ラエン「だあああぁっ!!」
 室内に転がり込むラエン&ヴァトルダー。
ティグ「さて、ちゃんと閉めて、と……」
ヴァトルダー「ツーグー……」
 恨めしそうな声でティグの名を呼ぶヴァトルダー。ま、確かに恨みはあろう。
ティグ「まっ、まぁまぁ……。さて、さっきの奇襲作戦に話を戻しますが、報酬は何と!あったかーいココア10杯です!」
ヴァトルダー「お……おおーっ!!」
 こいつ、のーみそまで凍りついている。
ラエン「そいつはすごいッ!!ティグさん太っ腹ッ!!」
 ……そうか?
ヴァトルダー「もう、何も言わんッ!俺たちを好きなように使ってくれッ!」
ティグ「べ、別にそこまでは言いませんが……」
ラエン「さっ、ドーンと大船に乗ったつもりでいてくれ。作戦は絶対成功させてみせるッ!」
ティグ「そ……そいつぁどうも……」
ラエン「さっ、ヴァトルダー、寝るぞッ!明日の作戦は絶対成功させるぞッ!」
ヴァトルダー「おおうッ!」
ティグ「行動開始は、明日の朝7時ですよ」
ヴァトルダー「わかったッ!」
 ここで問題です。クルカ王国の現在の日の出の時刻は7時30分です。明日、最も寒いのは何時頃でしょう?

グプター「しかし……なぁ」
 ヴァトルダー達が別室で寝あと、話し合いを再開した。
ティグ「なに、心配いりません。彼らなら大丈夫ですよ」
ローゼン「しかし、一番根性がないのはヴァトルダーだぞ」
ティグ「そ、それは……そうですねぇ」
 納得納得。
ティグ「で、でも、奇襲作戦は私の計画にはどうしても必要なプロセスですし……」
ダッシュ「で、その計画とは?」
ティグ「教えられません」
 ほほう、教えられない、とな?
グプター「私には知る権利があると思うのだが……」
ティグ「そりゃ、教えても構いませんよ。構いませんが……」
グプター「何か支障があるのか?」
ティグ「いや、ヴァトルダー君に聞かれるとまずいんですよ。……ま、いいでしょう。ちょっとお耳を拝借……ボソボソ……」
 グプターの顔色が、どんどん変わっていく。
グプター「ほ……ほうほう……」
ティグ「ぜーったい、喋っちゃだめですよ!ヴァトルダー君が捨て石だなんて……あ」
 ……おい?
ローゼン「……す……」
 ややあって、ローゼンが口を開いた。
ローゼン「素晴らしい……」
グプター「は?」
ローゼン「素晴らしいですよ、それ!」
ティグ「いやあ、それほどでも……」
 照れるな照れるな。
フィップ「ヴァトルダー、聞いたら怒るぞ……」
 ポン。
 誰かがティグの肩に手を置いた。
ヴァトルダー「もう聞いてたりして……」
 サァァァ……。
 みるみる血の気が引いていく。
ティグ「なんであなたがここに……?」
ヴァトルダー「いやぁ、寝る前の一杯をね……。で?捨て石とはこれいかに?」
ティグ「あの……その……ね☆」
ヴァトルダー「ね☆じゃない」
 声が穏やかな分だけ怖い。
ティグ「……あー、だから、その、なんです」
ヴァトルダー「何が『なんです』何だ?あーん?」
ティグ「つ、つまり……、そ、そう、この件の立案者はローゼン君なんですぅ」
 奥義・責任転化。
ローゼン「フッフッフッ……その通りだ、ヤ○トの諸君……って違ぁうッ!」
ヴァトルダー「ほぉぉぉ……そうかぁ……」
ローゼン「ちょ……ちょっと……ちょっと待て!話せば分かる!」
ヴァトルダー「分からん」
ローゼン「ああっ!そんなあっさりと!だ、だから、俺もフィップから……」
ヴァトルダー「ほほう、フィップぅ……」
フィップ「え、えと、僕はダッシュに……」
ダッシュ「わっ、わしゃダルスに……」
ダルス「うー、わしはティグ殿に……」
ティグ「ひょええぇっ!!」
 巡り巡って振出しへ。
ヴァトルダー「……き……」
 こりゃ切れるな。プッツンって。
ヴァトルダー「貴様らぁ!!」
ティグ「どぇえっ!!」
 きたきたきたぁ!
グプター「あー、君、まぁ落ちついて……」
ヴァトルダー「じゃかぁしい!」
グプター「ひぃぃっ!」
 縮こまるグプター。
ヴァトルダー「そこまで言ったら、俺でもわかるわい!えーい、貴様ら、そこに直れぇ!全員手打ちにしてくれるぅ!」
ティグ「……コ・コ・ア」
 ティグが小さな声で囁いた。
ティグ「もし、素直に捨て石をやってくれるなら、君だけ特別に、20杯にしようかなぁ……」
 ピク。
ヴァトルダー「……え?」
 思考中……。
ヴァトルダー「うーむ、捨て石は嫌だし……でも、ココアは20杯☆ どうする、ヴァトルダー……。よーく考えろ……」
 で。
ヴァトルダー「フッ……お引受けいたしましょう、ティグさん」
 こ、こいつは……ま、いいけど。
ティグ「そりゃどうも」
 翌日。
ヴァトルダー「う゛ぇっ、う゛ぇっ、ざ、ざぶいよぉ……」
ラエン「鎧の冷たさが身にしみるぜ……フッ」
 寒さのあまり半狂乱状態に陥ったヴァトルダーと誰も見ていない中で意味もなく恰好をつけているラエンは、雪の中を、かんじきもどきをつけて歩いていた。
ラエン「この中か……」
 ようやく着いたレクイス陣営の本拠地であるクルカ城のとある城壁を前に、ラエンが呟いた。
ラエン「ティグさんの話だと、ここら辺りが動くはずなんだが……」
 適当にグッ、グッと押していくと、ある場所で壁がズズズッと音をたてて奥へスライドした。
ラエン「ほうほう、なるほど。よし……」
 さらに力を込め、人が通れるぐらいまで押した。
ラエン「よし、こんなもんで入れるかな。なぁ、ヴァトルダー」
ヴァトルダー「捨て石……うーん……やっぱりやめときゃよかったかなぁ」
ラエン「どうした?さっきからずっと……」
ヴァトルダー「あー、いやいや、何でもない」
ラエン「そうか……。よし、行くぞ!」
ヴァトルダー「ああ……」
 かくして、勇敢……無謀ともいえる二人の戦士は、紅茶10杯のために城内へ潜入した。

 かくして、二人はあえなく捕まった。
ラエン「だーっ、しまったぁ!よく考えたら、相手がこの場所を知らないはずがなかったぁ!」
ヴァトルダー「あああ、やっぱりぃ!」

何かが違う ソロー’S プリンセスメーカー

 場所は変わって、オランの宿屋。
 ちょうどヴァトルダー達が捕まったころ、ソローは宿屋でなーんにもせずにボーッとしていた。理由は、主人曰く「かわいいから」だそうである(注:主人はロリコンではありません)。ったく、どいつもこいつも……。
主人「……しかし、ローゼンさんに頼まれて早1週間……何もさせてないのはまずいな……」
 主人ののーみその中には、いま現在、知人でいいカモ……もとい、いい教育者がいないか、ということが、ぐるぐる回っている。
主人「……そうだ……」
 どうやら、何か思いついた様である。
主人「ソローちゃーん、こっちへおいでー」
ソロー「何か?」
 ここでバッチリ甘やかされたソローは、幾分高慢になっていた。
主人「あのねぇ、これからバールスさんって人の所に行こう」
 バールス。ご記憶の方もいると思うが、ヴァトルダーとちょこちょこと関わっている、自称兼他称「無敵の鬼検事」という、あの人である。
ソロー「別に構わないけどぉー」
 言いざまに、ふぁさぁっ、と髪をかき上げる。うーん、実にでんじゃらすな感じである。
 主人はそんなことも気に留めず、ニッコリ微笑むと(おお、不気味)支度を始めた。勿論、ソローはただ見ているだけである。
主人「さ、行こうか」
ソロー「ええ……」
 うーん、1週間という時間はこうも人を変えるのか……。

 バールス専用・取り調べ室。
バールス「おう、どうした、おやじ」
主人「はぁ、実はローゼンさんに、この子の教育を頼まれまして……」
バールス「ほう?」
主人「実は、ヴァトルダーさんが引き取った養子なんですが……」
バールス「ほほう、あいつの?」
主人「ですが、ヴァトルダーさんは、その……ロリコンって奴でして……」
バールス「ほう、ロリコン……」
 ピクン。
バールス「……ぬぁーにぃ、ロリコンだとぉ!?」
主人「は、は、はい。そ、そーいうわけでして、ローゼンさんがこの子の将来に一抹の不安を感じまして、そこでバールスさんにこの子の教育をしていただこうと思った次第でして……」
バールス「……あい分かった。そういう事なら引き受けよう」
主人「そ、そうですか。いやぁ、ありがとうございます。さ、ソローちゃん、バールスさんにご挨拶を」
ソロー「ソローっていいますぅ。よろしくぅ、おじさまぁ☆」
 ……一般的に、女というのは変わり身が早い。
バールス「……おやじ」
主人「は?」
バールス「これも、ヴァトルダーの教育の成果か?」
主人「え、ええ、私ではありませんから、おそらくは……」
バールス「・ぁ、・ぁ・ぁ・ぁ……」
主人「あ、あの、落ち着いて落ち着いて……」
バールス「ぬぬぬぅ、彼奴はどこだ!?」
主人「ヴァトルダーさん、ですか?彼は今、何処ぞで仕事中ですが……。そうでもなければ、ソローちゃんから引き離せません」
バールス「確かに。あのたわけ者めぇ、帰ってきたらワシが根性を叩きなおしてやるっ!」
主人「ま、まぁまぁ……」
バールス「……ところでな、ワシはこれから仕事なんだが……あと10分程で」
主人「そうでしたか。では、私はこれで……」
バールス「あー、そうじゃなくてだ、この子をどうしたらよいもんかと……」
主人「そうですね……横に座らせておいてはどうです?」
バールス「む、むぅ……それはちと……」
主人「何か不都合でも?」
 あるある。
主人「ソローちゃんはどうしたいんだい?」
ソロー「ここで見てますわ」
主人「……と言うことですが……」
バールス「……どうなっても知らんぞ、ワシゃ」

 十分後。
警備兵「バールス様、連れてまいりました」
 警備兵が、40歳前後の男を連れてきた。人相、極めて悪し。
バールス「うむ。下がってよいぞ」
警備兵「はっ」
 外に出ると、扉を閉めて厳重に鍵をかけた。勿論、逃げないようにするためである。
バールス「さて……と」
 椅子に座った男を見据え、バールスが話し始める。
バールス「まず、名前を聞こうか?」
 口調、穏やか。
男「さあ、何だったかな……」
バールス「名前は……?」
 口調、やや強し。
男「知らねぇな……」
バールス「名前!」
 口調、極めて強し。
男「し、知らねぇったら!」
バールス「ふうん……」
 ギィィッ、と椅子から立ち上がる。
バールス「じゃ、指に聞こうか、あーん?」
 そのまま男の人指し指をとると、一気に後ろへひん曲げた。
 ごきゃっ。
男「ぎょへぇー……」
 という絶叫は、半径200メートル内にあるご家庭に、産地直送で届けられた。
バールス「人指し指君は知らないようかぁ?」
 言いつつ、中指に手をかける。
男「い、言う言う!俺の名前はバールス!」
バールス「ほう……」
 くきっ。
男「うっぎゃあー……」
 という絶叫は……(中略)……届けられた。
バールス「嘘はいかんなぁ、嘘は」
男「あ、あぅ……」
バールス「そう。まだ知らない、か……」
男「ああ、あ、ああ……」
 恐怖のあまり、満足に喋ることができない男。
バールス「こりゃ、腕さんに聞くかな……?」
男「ひゃ、ひゃ……」
 バールスは両腕を抱え込むと、あらぬ方向へひん曲げた。
 ぼきり。
男「……」
 あ。気を失った。
バールス「ちぃっ、気を失ったか……。今日はこれまでだ!」
 くいくいっ。
 見ると、一部始終を見ていたソローが、物欲しそうな目でバールスを見ている。
バールス「どうした、嬢ちゃん」
ソロー「あたしもやりたい」
バールス「?」
 バールスにそう言うと(バールスは何も分かってないが)、ソローは男の方へ近寄り、小指を握った。
バールス「こっ、こらこら!」
 慌てて止めようとしたが……。
 ポキリ。
ソロー「きゃっきゃっ☆」
バールス「……こ、これは……ワシ、取り返しのつかないことを教え込んだんじゃなかろうか……」
 ……かくして、ソローの性格に「残忍さ」が加えられた。ヴァトルダー、怒るなよ……。

ティグの王城奪回作戦

 舞台は再びクルカ。
ティグ「ヴァトルダー君達はそろそろ捕まっているころですね。では、ことを起こしますか」
ローゼン「なるほど、奴らが取り調べを受けている最中に攻撃をかける、か……。考えたもんだ」
グプター「うーむ、ヴァトルダー君は大丈夫だろうか……」
 心配するだけ時間の無駄ってもんですぜ、旦那。
ティグ「さてー、では復習しましょう。まずローゼン君とダッシュ君、それに私が第一部隊を率いて正面を攻撃します」
ローゼン「ああ」
ティグ「で、やや遅れてダルス君にフィップ君、加えてグプターさんが第二部隊を率いて裏門を攻撃、ですね」
グプター「承知した」
ティグ「ヴァトルダー君の尊い犠牲(おいおい、まだ死んでないって)によって、向こうの警戒は極限まで高まっています。であれば、正面に攻撃をかければ、ほぼ全軍を一気に回してくるでしょう」
グプター「ふむふむ」
ティグ「正面に全軍……ま、最悪の場合でも四分の三は回してくるでしょうから、裏門の防備は当然手薄になります。そこを叩くんですから、城にたどり着くのは可能なはずです」
 はい、よくできました。
ティグ「では、我々はまいりますか。裏門の方をしっかり頼みますよ、グプターさん!」
グプター「うむ、任せられい」
ダッシュ「今回はヴァトルダーがいないから、成功しそうだな」
ローゼン「ああ、まったくだ」
 そのヴァトルダーが今頃どうなっているかも知らず……。
ティグ「では!第一部隊、まいりますよ!」

 同時刻・クルカ城。
レクイス「勇気ある侵入者たち、歓迎するぞ。まずは名前を聞こうか」
ヴァトルダー「ヴァトルダー様だ」
ラエン「ラエン様だ」
レクイス「……」 何も言えまい、レクイス。
侍従「陛下、このような者のいうことをまともに聞く必要などありません」
ヴァトルダー「ふーん、これが例の隠し子さんか」
レクイス「かっ……!」
侍従「こっ、これっ!」
レクイス「ま、まあよい。警戒を厳重にしておけ」
侍従「はっ!して、こやつらの処分はいかが致しましょう」
レクイス「……デムを呼べ」
侍従「は?デム様を……ですか?」
レクイス「そうだ。奴なら、何かいい考えを持っているに違いない。ウククク……」
ラエン「……おい、こいつ危ないんじゃないか?」
ヴァトルダー「お、おう……」

ティグ「かかりなさい!」
兵士「はっ!!」
 ティグが命令を下すと同時に、全員が呪文の咏唱を始める。魔法の発動体は、メイジ・リング(要するに指輪)である。
兵士「フライト!」
 お察しの通り、飛行するための呪文である。なぜ、こんなに大勢の者がこういう高位呪文を使えるかというと……兵士になる条件が、5レベル以上のソーサラーであることだからである。ちなみに、この国には戦士はおろか、シャーマンやプリーストもいない。少なくとも表面的には……。
 あっさりと門を越え、兵士は内部へ進入する。ここからが本番である。
敵兵「侵入者だ!迎え撃てぇ!」
 こちらがソーサラーということは、当然相手もソーサラーだということである。従って、戦いは魔法が主力になる。
「ライトニング!」
「ひょげえ!」
「ブリザード!」
「うぎゃあ!」
「ファイアボール!」
「がああ!」

 中で無差別殺戮が行われている中、なす術もなくぼーっとしているのはローゼンとダッシュである。
ローゼン「あーあ……」
ティグ「どうしました?」
 レビテーションで上から中を見ているティグが声をかけた。
ローゼン「いや、やっぱりこう、血が騒ぐんだよな。しかし、俺にはこの門は越えられないし……」
ダッシュ「うんうん」
ティグ「ヴァトルダー君たちが使った入口ならありますけど、今は入らない方がいいですよ」
ローゼン「なぜだ?」
ティグ「なかで大分派手にやってますからね。呪文合戦を」
ローゼン「そりゃ、確かにやめたほうがいいな……」
ティグ「なに、そろそろ裏門でも始まります。そうすれば、敵も大混乱に陥りますよ。それから入っても、遅くはありません」

グプター「そろそろだな……」
 頃合いを見計らって、グプターが命令を下した。
グプター「第二部隊、かかれぇ!」
 その頭上を飛び交う兵士。
グプター「派手にやってやれ!」
 当然、相手側の兵士は混乱に陥った。
レクイス「な、何事だ!」
侍従「は、はい!正面からの攻撃に全軍を回したところ、裏門からの攻撃を受けまして、兵士たちは大混乱、ほとんど壊滅状態です!」
レクイス「ぐぬぬ……!おのれ、グプターめ!」
デム「まあまあ、陛下」
 先ほど呼び出されたデムという爺さんが、レクイスに声をかけた。
デム「我々には、切り札があります。とりあえずは、地下へ……」
レクイス「う、うむ、そうだな。よし、その者たちを連れてまいれ。地下へ避難する!」
侍従「はっ!」

ティグ「やー、だいたい終わりましたね」
 敵がほとんど全滅してからノコノコ入ってきたティグは、辺りの悲惨な光景を目にして言った。
グプター「終わりなのはいいですけど……」
 合流したグプターも口を開く。
グプター「第一部隊もほぼ全滅ですよ」
ティグ「……ははは」
 乾いた笑いである。しかし、まあこうなるのはわかっていた。呪文をお互い打ち合えば、戦いはどちらに多く兵士がいたか、というところで決まる。お互いほぼ同数の損害がでるのは必然だから止むを得まい。
ティグ「……でも、生きている人も大分いますよ」
グプター「ああなっては、もう助かるまい」
ティグ「そーですかねぇ」
 ティグが不思議そうに言う。
ティグ「あれぐらい、キュアー・ウーンズ一発で治ると思うんですが」
グプター「キュアー?それは、昔ティグ殿が言っていた、異界の呪文か?」
ティグ「あっ、そうでした。あなた方は知らないんでしたね」
ローゼン「何だ、神々の存在を知らないのか?」
ティグ「そうなんですよ。私も初めて来たときは驚きました」
ローゼン「へぇ……」
ダッシュ「これは以外だな」
ローゼン「ま、そういうことなら。エヘン、この偉大なる大神官ローゼン様が、この者たちの傷を立ちどころに癒して差し上げよう。……ティグさん、魔晶石のストックはある?」
ティグ「ええ、20個程なら」
 それだけあれば十分だと思うぞ。
ローゼン「じゃ、一つもらうよ」
 一個を手に取ると、例の呪文を使う。
ローゼン「キュアー・ウーンズ、19倍!」
 常識的に考えると、19倍などというトチ狂ったことをする奴はいるまい(できる奴ならそこそこいるのだが)。言うまでもなく、魔晶石はパーである。が、引換えに18人の命が救われた(約1回・失敗)。
グプター「おお……これが神の力……」
 驚け驚け。
ダッシュ「よし、わしもやるか」
ティグ「それ、二人とも頑張ってー☆」
 間もなく、生き残った兵士は命を取り留めた。

氷の中のあなた

 クルカ城・地下。
レクイス「ど、どうするのだ、デムよ」
デム「取り合えず、奴らもここには来れますまい。ですが、万が一のため……そこの台座に、人質をお置き下さい」
レクイス「やれ」
 数名の侍従が、ヴァトルダーとラエンを引きずっていく。
ヴァトルダー「フッ」
 突然、ヴァトルダーが不敵な笑みを浮かべる。
レクイス「……?」
ヴァトルダー「黙ってやられる俺ではなーい!」
ヴァトルダー「ぬおお……」
 ググググ……。ぷち。
レクイス「おおっ、何という怪力!」
デム「こやつ、外界のものですな」
レクイス「おお、あの怪力揃いという噂の……」
デム「はい……」
 実際はこいつらがエルフ並に非力なだけなのだが、この際何も言うまい。
ラエン「ふぬっ!」
 ぷちっ。
ラエン「なーんだ。以外ともろいんだな、このロープ」
デム「そりゃ、わしらが使っておるもんじゃからの。お主らのは、もっと丈夫じゃろうて」
 爺さん、レクイスよりは島の外のことを知っているようである。もっとも、レクイスはつい最近までただの一般市民だったのだから、当然と言えばそうなのだが……。
ヴァトルダー「さて、まあ散々引っ張り回してくれて、どーもありがとう。お礼に、剣の錆にしてあげようね」
 にたぁ。
ヴァトルダー「よっ……あれ?」
 剣は言うまでもなく没収されている。
ヴァトルダー「剣……剣が……剣がーッ!」
ラエン「やかましい」
 げしっ。
ラエン「剣がなくとも、この拳がある!」
ヴァトルダー「でも、お肌が荒れるしぃ」
ラエン「おのれは女か!?」
ヴァトルダー「ははは、冗談冗談」
侍従A「ええい、ごちゃごちゃ言わずにおとなしくしていろ!」
 侍従Aがラエンを、Bがヴァトルダーを捕らえにいった。
ラエン「はっ!」
 ごっ……とAのみぞおちにラエンの肘が深く入る。
侍従A「……」
 Aはそのまま逝った。
侍従B「きっ、貴様らぁ!」
 Aの死を目の当たりにしたBが、怒りに任せてヴァトルダーに突っ込む。
ヴァトルダー「ヴァトルダー・アターック!」
 ぶわきゃあっ!
 プレートアーマーを着込んでずっしり重い体で、ヴァトルダーは体当たりをした。Bはヴァトルダーに当たると同時に向こうの壁まで吹っ飛び、頭を打ってあえなく昇天である。
侍従「おのれぇ!」
 侍従が一丸となって呪文の咏唱を始める。
ラエン「うげぇっ、まずい!」
 慌ててラエンは、侍従を蹴倒す。
ヴァトルダー「こいつめっ!こいつめっ!」
 二人に足蹴にされ、侍従は皆意識をなくした(そのうち数名は死亡)。
レクイス「つ、強い……」
デム「いやあ、天晴れ!」
 なぜ爺さんが褒める。
ヴァトルダー「いやぁ、それほどでも……」
レクイス「デム、貴様!」
デム「まあまあ。いいものはいい、悪いものは悪い。いいものを褒めて何か問題がありますかな?」
レクイス「き、貴様ぁ……」
 しかし、哀しいかな、レクイスの力ではデムに勝てない。
デム「いやあ、感服仕った!」
ラエン「そ、そうか?」
 敵にとは言え、褒められて悪い気はしない。
デム「どうじゃ、記念にそこの台の上でポーズをとらんか?」
ヴァトルダー「え?」
 その台が、さっき連れて行かれかけた場所だとは気づくはずもない。
ヴァトルダー「よっ。こんなもんかな?」
デム「おうおう、なんと凛々しい!ささ、そちらの方も」
ラエン「お、おう。こうか?」
デム「うむ、そんなもんじゃて……」
 言いつつ、デムが呪文の咏唱に入る。
ヴァトルダー「な、何をする気だ!?」
デム「なーに、その姿を留めておくための魔法を使うんじゃよ」
ヴァトルダー「な、なーんだ……」
 納得するか?普通。
デム「……アイス・コフィン!」
 アイス・コフィンとは、8レベルの精霊魔法である。ここで「なぜ精霊魔法を使える奴がいるんだぁ!?」と思ったそこの人、まだまだあまい。私はさっき、「少なくとも、表面的には……」と言葉を濁した。このデムこそが唯一の例外なのだ!
ヴァトルダー「し、しまったぁ!!」
ラエン「うう……」
 ぱきぃっ……。
デム「いかがですかな、陛下」
レクイス「う、うむ、見事だ……」
 二人は、氷柱の中に閉じ込められてしまった。一応死ぬことはなく、ずーっと仮死状態で保存されるのだが、この地は氷点下のために、人為的に溶かさない限り溶けることは永遠にない……。

ティグ「やれやれ、無事に制圧しましたねぇ」
 城内の残党を全滅させ、玉座の前でティグは感慨深げにいった。王座にはグプター……もとい、新たな国王陛下が鎮座している。
グプター「うむ、一応はな……」
ティグ「といいますと、まだあるんですか?」
グプター「うん、下が」
ティグ「下が……何か?」
グプター「外部の者は知らんだろうが、この城には地下があってなぁ……。憎きレクイスの死体も見つかっておらんようだし、デムもおらんし、多分地下に逃げ込んだのだと思うのだが……」
ティグ「デム殿は確か……」
グプター「うむ、父が在位中、宰相を務めていたものだ。加えて、この国唯一の精霊使いでもある」
ティグ「デム殿はレクイス側についたのですか?」
グプター「そう……奴は金につられて、城を売りおった!私の留守中に、レクイスに明け渡したのだ!」
ティグ「そうだったんですか……」
グプター「ま、そんな事はこの際どうでもいいことだが……。で、問題の地下なんだが、これが複雑でなぁ。広くはないのだが、あっちこっちに仕掛けがあるという話を聞いたことがある」
ティグ「では、すぐにまいりましょう!案内して下さい」
グプター「何を言う。それができたら、悩んだりなどせんわい!」
ティグ「と、言いますと?」
グプター「いや、中の様子を知っているのは、代々王家に仕えているデムの一族だけでなぁ。私も学ぼうかと思ったことがあったんだが、さっぱり分からなんだ」
ティグ「で、では……」
グプター「うん、あとは任せた」
 ……む、無責任……。
グプター「地下に何か宝物があったら、全部お前たちにやろう。な、それでよかろう?」
 よくないって、あんた。
ティグ「念のためにお伺いしますが、地下にある仕掛けって……?」
グプター「うん、迫り来る壁とか、落ちたら即死の硫酸の池とか、溶岩の川とか……あっ、そうそう、ちょっとシャイなワイバーンのエキュ君もいたっけ……」
ティグ「あぁあああっ!!」
 ティグはパニックに陥ってしまった……。

悪夢のだんぢょん

ローゼン「うん、わかった」
 ぶっ倒れたティグにかわってグプターが事情を説明して地下の件を頼まれると、ローゼンはあっさりと引き受けた。ヴァトルダーがいない間はリーダー代理(もっとも、ローゼンはヴァトルダーがリーダーであることを認めていないが)となるローゼンの言葉は重い。そう……某クリスタニアの鬣の部族の誰かさんの「よし、その願い、承認しよう」という言葉ぐらいの価値がある(わかるかな?)。
グプター「あ……あっさり言ってくれますな……」
ローゼン「何か、不都合でも?」
グプター「あ、いや、こっちとしては助かるのだが……。あの冷静沈着なティグ殿がぶっ倒れてしまったもんだからな」
ローゼン「あー言う人なんです。都合が悪くなると、あーいう形で現実逃避をするんですよ」
グプター「……あれは現実逃避なのか?」
ローゼン「そーです」
 嘘つきぃ。
グプター「ま、よろしい。では、よろしく頼みますぞ」
ローゼン「どーんとお任せを」

ローゼン「……と言った手前、帰るわけにもいかないし……」
フィップ「バカたれー」
 ローゼン達は、マグマの川を前に呆然としていた。
フィップ「これをどーやって渡れっつーの!?責任とって、何とかしてよ」
ローゼン「……俺はこう見えても、タ○ラーのファンでな……。あの人のように、無責任に生きようと心に決めているんだ」
 こらこら。
フィップ「そんなこと、僕の知ったこっちゃない!さ、責任とって、あの中へお入り」
ローゼン「けどなぁ……」
 ローゼンはマグマを覗き込みつつ言った。
ローゼン「こいつぁどう見ても……」
フィップ「えい」
 けりっ!
ローゼン「は……?」
 ローゼンはマグマの上でしばしの時を過ごした。そして。
ローゼン「うどわわわぁ!」
 ちゃぽん。
ダッシュ「……」
 ア然とするダッシュ。
ローゼン「っぷはぁっ!」
フィップ「へ?」
ローゼン「このボケぇ!落ちたら死ぬだろがぁ!」
フィップ「……もう落ちてる……」
ローゼン「……え?」
ダッシュ「お……お……オーマイマイリー!」
 ダッシュの神はマイリーである。
ローゼン「……ひっひっひっ、うーらーめーしーやー」
ダッシュ「おのれぇっ、血迷ったかぁ、ローゼンっ!かくなる上は、仲間であったこのワシの手で葬ってくれるぅっ!成仏せい!」
ローゼン「うわぁっ!アックスなんぞ振り上げるなぁ!冗談だ、冗談!」
ダッシュ「往生際が悪いぞ、ローゼン!」
ローゼン「だから死んでないって。このマグマは、こけ脅しだ」
フィップ「どれ……」
 ちゃぽん。
フィップ「……ほんとだ」
ローゼン「……にしても、フィップ君」
フィップ「どき」
ローゼン「よっくもやってくれたなぁ!今ので寿命が2年は縮まったぞ!」
フィップ「ぜ……全部なくならなくてよかったねぇ!」
ローゼン「えーい、まだ減らず口を叩くかぁ!そこに直れ、その根性を叩きなおしたるぅ!」

 マグマ(もどきの水)を渡った一行が次に遭遇したのは……。
ローゼン「ダルス、あれを何と見る?」
ダルス「……デーモン……じゃな。記憶に間違いがなければ、あれはグルネルだったと思う」
ローゼン「いや、それじゃなくてだ……あれの後ろの池みたいな奴」
ダルス「ありゃあ、硫酸じゃ」
ローゼン「やっぱり……」
 というわけで、目の前には、グルネルと硫酸の池がある。
グルネル「貴様ら……死にたくなければここからされ。この硫酸はハッタリではない」
 おい、あんた。自分の力に自信はないのか?
ローゼン「いや、そーいうわけにはいかないんだ、うん。この奥に、知り合いが捕まっていてね、助けなきゃならないんだ」
グルネル「どうしても行くと言うのだな?」
ローゼン「勿論」
グルネル「では、仕方がない。可哀相だが……」
ローゼン「フォース」
 能書きは最後まで言わせてやるのがマナーってもんだろうが。
グルネル「ぐおっ!?」
 ローゼンの腕の先から放たれた衝撃波を受け、グルネルは後ろに飛んだ。でもって……。
グルネル「卑怯者ぉぉ……」
 という絶叫を残し、グルネルは池の中へ落ちていった。
フィップ「今度は本物かなぁ」
 そっと除くフィップ。
フィップ「……」
 そのまま後ろを向くと、フゥッ、とため息をついた。
ローゼン「どれ……」
 あ。溶けてる溶けてる。
フィップ「ああ、見なけりゃよかった……」
 後悔先に立たず。
ダルス「しかし、こりゃ困ったのう」
ローゼン「ああ、入れんな、これじゃあ」
 入っても構わないが、まあ死ぬな。
ダルス「よし、任せられい」
ダッシュ「何をする気だ?」
ダルス「まず、ロープを貸してもらおう」
ローゼン「これでいいか?」
ダルス「十分だ。では、これをわしに結んで……」
ダッシュ「結んで、それから?」
ダルス「わしを向こうに投げる」
 おおっ!
ダッシュ「おおっ! 何という根性! では、気の変わらぬうちに……」
 ぎぎぎぃっ、と構える。
ダッシュ「だあぁぁぁぁっ!!」
 ぶぅんっ、と呻りを上げてダルスが飛んでいく。
 ひゅるるるるるる………………ごっ。
ダッシュ「お〜、飛んだ飛んだ」
ダルス「あ……頭が痛い……」
 脳天から血を迸らせながら、ダルス。
ダルス「待っておれ、いま岩に結びつけるから……」
 ……ぎゅっ。
ダルス「よし、こっちは大丈夫だ、渡ってこい」
ダッシュ「では、こっちはわしが……」
 と、ここまで言って気がついた。
ダッシュ「わしが持っていたら……わし、どうやって渡ればいいんだ?」
 …………。
ダルス「どうした、早うせい」
 幸か不幸か、ここには結びつけるものがない。となれば、ここは皆に頑張ってもらって……」
 自分はさぼるのか。
ダッシュ「そういうことだ」
 誰に向かって言っている、ダッシュ。
ダッシュ「ほれ、ここはわしが引き受けた。ローゼン、フィップ、後は頼んだぞ!」
ローゼン「おうっ!お前の死、無駄にはしないぜっ!」
 こいつら、なにかあるとすぐに殺したがるなぁ。
フィップ「じゃ、そういうことで」
 するする、とロープを伝って、二人は無事に渡った。
ローゼン「おお、こりゃひどい怪我!よく生きてるなぁ」
ダルス「下らん話はいいから、早く」
ローゼン「おう、キュアー・ウーンズ」
 レベルが上がると、多少魔法を使っても大丈夫なのがありがたい。特にローゼンの場合は、生命力と精神力(よーするに、ドラ○エのHPとMP)が普通の人間より遙かに高いので、レベルが上がれば初歩の呪文が使いたい放題なのである(現在ローゼンは、キュアー・ウーンズを22回、気絶せずに使うことができる/ちょっと前にも同じようなことを言った気がする)。
 ま、とにかく、ダルスの傷は癒え、ダッシュを失いながらも一行は先に駒を進めた。

 ページ数の関係上、中略して、大詰め。
 ついに一行は、ヴァトルダー&ラエンの氷詰めと涙(?)の対面をした。
ダルス「ほお、これは見事!」
ローゼン「あれま、こーんな姿になっちゃってまぁ」
フィップ「氷、氷!」
 ごちゃごちゃ言っているが、要するに誰も心配していない。
デム「ひょっひょっ、とうとう来たか」
ローゼン「おうっ、来たぞ。さ、早く何とかっていう隠し子をお出し」
デム「それは出来んのぉ」
レクイス「うむ」
フィップ「ねえ、ちょっと」
レクイス「な……何だ、少年」
フィップ「あんた、レクイスって人?」
レクイス「はっはっはっ、その通りっ!」
フィップ「えい」
レクイス「え……?」
 脇腹には、深々と突き刺さるダガー。
レクイス「うどわぁあ!!!」
フィップ「もう一本、えい」
 プス。
レクイス「があぁあっ!!!」
デム「陛下っ!」
 爺さんが慌てて駆け寄る。すでにフィップは逃げたあとである。
デム「おおっ!死んでいるっ!!」
ローゼン「いつもながら見事よのぉ、フィップ」
フィップ「いやいや、お代官様にはとてもかないません」
ローゼン「はーっはっはっ!」
フィップ「ほーっほっほっ!」
 ……何をやっとる?お前ら。
デム「おのれぇっ!わしの『陛下を操って国を乗っ取ってウハウハ作戦』を潰すとはっ!」
ローゼン「は……?すると、もしかして、裏で糸を引いてたのは、あんた?」
デム「そのとおぉりっ!」
ローゼン「もしかすると、そこの何とかってのも、実は単なる一般市民とか……」
デム「ぴんぽぉんっ!」
ローゼン「先の国王を殺したのも、あんただったりして……」
デム「はっはっはっ、そのとおりだ明智君!!」
 ……あんた、全部白状してどーする……。
デム「しかし、ここまで知ったからには、死んでもらうしかないのぉ!!」
ダルス「あんたが勝手に推定を確定したんだろ……」
デム「ええぃっ、ごちゃごちゃ言うなっ!まとめてあの世へ送ってくれるっ!いでよ、ちょっとシャイなワイバーンのエキュ君っ!!」
 ちゅどどぉんっ!
 轟音とともに、壁を突き破って出てきたのは、いつぞやのワイバーンである。
ローゼン「あれ、確かこの前、俺たちをここに運んできたやつだよな?」
ダルス「うむ、そのはずだ」
デム「ふわはははっ、このコントローラーのおかげで、エキュ君はわしの思いのままじゃっ!それっ、ゆけい、エキュ君っ!!」
 手には、何処ぞで見たような、何故こんなもので動くのかと思うようなコントローラーが握られている。爺さん、あんた、マニアだな。
 ぱぎゃああっ、とエキュ君が吠える。
デム「やれぇっ、エキュ君!!」
 ちゅどぉん!
 エキュ君のキックで、洞窟の壁に大穴があく。
フィップ「うわわわわっ!!」
 近くにいたフィップは、慌てて避ける。
デム「うはははっ、エキュ君は無敵じゃっ!」
 すでにノリは哲人……もとい、鉄人2○号である。
ローゼン「ダルスっ、手だ、あの爺さんの手を狙えっ!」
ダルス「うむっ!……エネルギー・ボルト!」
 ……また、随分と懐かしい呪文を……。
デム「うおっ!?」
 手にエネルギーの矢を受け、思わずコントローラーを落とす。
デム「しっ、しまったぁ!!」
ローゼン「今だぁっ!!フォースっ!」
デム「はぁうっ!!」
 デムは衝撃波を受け、ゴロゴロ転がって苦しんでいる。
フィップ「ちゃららぁー♪」
 突然、必殺○事人のテーマ口ずさむフィップ。
フィップ「ちゃっちゃっちゃっちゃらら、ちゃららぁー♪」
 ひゅいっ、とダガーを構える。
デム「ひ、ひいいいっ!!」
フィップ「えい」
 ぴすっ。
デム「あぁー……」
 合掌。
 こうして、デムの仕組んだ一連の事件は幕を閉じた……かに見えた。だが……まだ問題はまだ解決していなかった。

ローゼン「さて、問題は、だ……」
 沈痛な面持ちでローゼンが口を開いた。
ローゼン「これをどーするか、だ……」
フィップ「これ……?」
ローゼン「そ、これ……」
 一行が上をじぃっ、と見上げる。その先にあるのは、ちょっとシャイな(中略)エキュ君である。
ローゼン「一応、これで制御はできるんだがな……」
 手には、さっきのコントローラー。
ローゼン「ダルス、このワイバーン……エキュ君を調べてくれ」
ダルス「登ってるときに暴れさせるでないぞ……」
 ちょっとビクビクしながら、ワイバーンに登る。
ダルス「……ふんふん……」
 あっちこっちをコソコソ調べる。
ダルス「……これだな……」
ローゼン「どーした、何かあったか?」
ダルス「うむ、額の所に鎖で魔晶石みたいなのがつけられている。おそらくこれとそれが繋がるているんじゃろう」
ローゼン「なるほど、ね。ところで、それ、外れないようになってるかー?」
ダルス「大丈夫、ちょっとやそっとじゃ取れないようになっとる」
ローゼン「そうか。じゃ、この問題は解決、だな」
フィップ「では、次の問題……」
 フィップが続ける。
フィップ「……どうして、どこにも宝の類がないんだろう、ねぇ」
ダルス「別にグプターさんも、あるといったわけじゃないしのう。あるかもしれない、とはいったが……」
ローゼン「中にあるもんはなんでも持っていっていいって言ってたよな?だったら、これ、もらっていくか?」
フィップ「そだね、何もないよりはいいか……」
ダルス「じゃ、これも解決。では、最後の問題」
ローゼン「ヴァトルダーとラエンをどうするか、だな?」
 所詮、お前らの仲間意識とはそんなもんか……。
ダルス「叩いて砕けてしまったら死んでしまうし、魔法を使ってじゃあ溶かしきれないし……」
ローゼン「……エキュ君で持って帰って、王宮の皆さんに溶かしてもらうか?」
フィップ「それしかないでしょ?」
ダルス「じゃ、これで全部解決だな。さて、行くとするかの?」
ローゼン「ああ!」

 奥にある大穴からエキュ君に乗って外へ出たローゼン達は、まっすぐ王宮へ向かった。
グプター「ふうむ。よーするに、やり過ぎないようにあれを溶かせ、と言うのだな?」
ローゼン「ええ、グプターさん……もとい、陛下」
グプター「どうも、陛下と呼ばれるのは照れくさいな……」
 おっ、照れとる照れとる。
グプター「では、ライトニングあたりでじわじわとやるか。よし、すぐにかかれ!」
侍従「はっ!」
 ただちに「ヴァトルダー&ラエン解凍作業」を開始した。
グプター「第一部隊、撃てぇ!」
 掛け声と同時に、10人の人間がライトニングを放つ。
グプター「次、第二部隊!」
ローゼン「……あの中心に人間がいたら、間違いなく即死だな」
 思わずローゼンが呟く。

グプター「よし、やめぇい!」
 グプターがやめる。
グプター「ラエン君の方はもう大丈夫のようだ。ローゼン君、手当てを」
ローゼン「あ、はい」
グプター「ヴァトルダー君の方は、あともう少しだな」
 グプターがダルスの方を見る。
グプター「ヴァトルダー君の方の仕上げは、君がやるか?」
ダルス「……では」
 ダルスが進み出る。
ダルス「ライトニング!」
 ばしゅっ。
 ……ここでちょっとしたことが起こった。
 いわゆる「クリティカル」というやつである。それがドーンと出た。
 アイス・コフィンは300点の「生命点」を持つ。仮にダメージがこれを越えた場合……越えた分のダメージは中の人の所へいく。
ダルス「ありゃりゃりゃ……」
グプター「こりゃいかんっ!ローゼン君っ、早く手当てをっ!」
ローゼン「ったく、忙しいな……」
 ローゼンがかけよってヴァトルダーを見る。
ローゼン「おおっ!死にかけているっ!キュアー・ウーンズっ!」
 慌ててヴァトルダーを手当てする。
ローゼン「ようし、もう大丈夫だ……。おーいダッシュ、手伝ってくれ……」
 ……あれ?
ローゼン「ダッシュ、忘れてきたぁっ!」

エピローグ

 グプターが送った兵士のおかげで、ダッシュは無事に救出された。相当疲れていたが……。
 ローゼンからすべての事情を聞いたグプターはデムの一家を断絶、クルカから完全にシャーマンをなくした。なお、レクイスの一家は、ライトニングの刑から一転して手厚く保護された。
 ティグは数日後に復活し、クルカ産のキュキュラ・ワインを豪華商船に積み込んで、ラエンとともにクルカを後にした。ここら辺はちゃっかりしている。
 ヴァトルダー達は、ちょっとシャイなワイバーンのエキュ君に乗って、オランへ帰った。

ヴァトルダー「おう、着いた着いた」
ローゼン「いやあ、ここは暖かいな」
ヴァトルダー「それにしても、大騒ぎだな。やっぱ、ワイバーンで帰ってきたのはまずかったかな?」
ローゼン「そりゃそうだ。ハッハッハ」
 笑い事じゃない。
ヴァトルダー「ところで、ソローはどこかな……」
ローゼン「きっと、立派になってるぞ」
ヴァトルダー「はい?」
ローゼン「あ、いや、何でもない」
ヴァトルダー「そうか?」
 まもなく、一行は宿に到着した。
ローゼン「おやじぃ、うまくいったかぁ?」
主人「え?あー、いや、それがですね……。ちょ、ちょっとローゼンさん、こっちへ来て……」
ローゼン「へ?」
 店の奥へ行くと、主人は小声で話しだした。
主人「……失敗です」
ローゼン「げっ!」
主人「いや、うちにおいていたらどうしても甘やかしてしまうんで、バールスさんのところに預けたんですよ」
ローゼン「げげっ!!」
主人「そうしたら、なんか血の気が多くなっちゃいましてね」
ローゼン「げげげっ!!!」
主人「一応、今はバールスさんに責任を取ってもらって預かってもらってますが……」
ローゼン「な、なんちゅうことをしてくれたんだ!!俺は知らないぞ……」
主人「ひぃっ、私、ヴァトルダーさんに殺されちゃいますよ……」
ローゼン「ま、まあ、とにかくあいつをバールスさんの所に連れていくか……」
主人「すいません、ローゼンさん」

 バールス専用・取り調べ室。
バールス「げぇっ、・ぁ、ヴァトルダーっ!!」
ヴァトルダー「ここにソローがいるんだろ?」
バールス「……」
ローゼン「ちょ、ちょっとバールスさんっ!」
バールス「お、おう、ローゼン」
 ガクンと小声になるバールス。
ローゼン「宿の主人から事情は聞いたけどな……ど、どの程度なんだ?」
バールス「そ、それがだな……顔色変えずに人の首をへし折るぐらい」
ローゼン「っなっ……!」
バールス「日増しにひどくなってな……きっと『二代目鬼検事』の名を襲名できるぞ、この分だと」
ローゼン「だぁっ、んなもん襲名せんでいい!」
ヴァトルダー「何をごちゃごちゃ言ってるんだ?お前ら?」
ローゼン「い、いや……」
 ローゼンは深呼吸をした。
ヴァトルダー「どうした?」
ローゼン「あのな、ソローちゃんのことなんだが……」
ヴァトルダー「ま、まさか事故にあったとか!?」
ローゼン「いや、そうじゃなくて、精神的なことなんだが……」
 その時、ギィッと奥の扉が開いた。
ヴァトルダー「おう、ソロー」
ソロー「あら、お父様、お帰りなさい」
 ふわさぁっ、と髪をかき上げる。
ヴァトルダー「へ……?」
 ソローの秘儀・変わり身の術(ちょっと意味は違うけど)。
バールス「それとな、人によって性格がかなり変わるんだ」
 またコソコソとローゼンに話す。
ローゼン「あの子、多重人格か……?」
バールス「いや、ここしばらくの様子から推測するに、あの子は世渡りが上手なんだ」
ローゼン「うーむ……」
ソロー「あーら、これはこれはローゼン様ぁ」
 思わずローゼンの顔が引きつる。
ローゼン「や……やぁ、ソローちゃん」
ヴァトルダー「おい、バールスさん」
バールス「はっ、はひっ!!」
 バールスの体がビクンと震える。
ヴァトルダー「ソローがこーいう風になったのは、お前のせいか?」
バールス「ま……まぁ……多少は関与していることは事実だな……」
ヴァトルダー「バールスさんっ!!」
 わしっ、とバールスの手を掴む。
ヴァトルダー「いやあっ、まさかソローがあんなに立派になってるとはっ!ヴァトルダーちゃん、もう驚いたっ!いよっ、さすがっ!!」
バールス「い、いや……」
ヴァトルダー「あ、そうだ、これ、今日までの預かり賃」
 そう言うと、宝石を1個取り出した。
ヴァトルダー「さ、どーぞ」
バールス「い、いや、しかし……」
ローゼン「バールスさん、こいつ、気づいてないみたいだし、もらっといてもいいんじゃないか?」
バールス「そ、そうか……?じゃ、ありがたくもらっとくか」
ヴァトルダー「そうそう、遠慮せずにどうぞ」
バールス「さて、ところで、話は変わるが……」
ヴァトルダー「ん?」
バールス「お前、ロリコンらしいな……。本当か?」
 びくぅっ!
ヴァトルダー「どっ……どうしてそれをっ!」
バールス「何ぃっ、貴様、やっぱりっ!!」
 あ、いつものバールスに戻ってる。
ヴァトルダー「ああっ、違う!違うんだぁ!これは誤解だぁ!」
バールス「じゃかあしいっ!!貴様の根性、叩き直したるーっ!!」
ヴァトルダー「うおーっ、ローゼンっ!た、助けてくれぇっ!」
ローゼン「裁きを素直に受けるのは人の務め。そして、苦しむ人を時には突き放すのは、司祭の務め。お互い、自分の務めを果たそう、友よ……。と言うわけで、強く生きるんだぜ、ヴァトルダー君。……さ、ソローちゃん、行こうか」
ソロー「はい、ローゼン様☆」
ヴァトルダー「こ、この白状者ぉー!!」
バールス「どっちを向いとる!こっちを向けぇー!!」
 ぐわしぃっ!
ヴァトルダー「あーっ!!!」
 ……薄幸のヴァトルダーに乾杯。

──完──


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