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ユセリアスの神殿・1

本編前のティータイム

 クルカより帰還後、1週間。ヴァトルダーは、赤の他人(でもないか)のティグ・フィー・クレイン宅に住み着いていた。ソローの教育を当分の間ティグにさせる、という交換条件つきで……。
ヴァトルダー「……ソローは今頃、何をしているんだろう……」
 一応、気にはなっているようだ。
ヴァトルダー「ようし。ちょっと教育現場を覗いてくるか……」

ティグ「はいっ、そのとーり!いやぁ、さすがに呑み込みが早い」
 ソローの特別学習室。いつもはリーハあたりが教育係を担当しているのだが、その日たまたま仕事がなかった(部下に押しつけた、ともいう)ティグは、一度やってみたかった「先生」なる仕事を堪能していた。
ヴァトルダー「よっ、ティグさん」
ティグ「おや、ヴァトルダー君。先生はかわってあげませんよ」
ヴァトルダー「誰がそんなことを言った……?」
ティグ「あ、こりゃ失礼。で、なんの用です?」
ヴァトルダー「あんまり暇なもんで、どんなことをしてるのかなぁ、と思って」
ティグ「ソローちゃんは呑み込みが早いですよー。さすが、あなたと血を引いてないだけのことはありますよ、はっはっは」
ヴァトルダー「それ、褒め言葉……じゃないよな?」
 勿論。
ティグ「ほんと、私が教えたことを全部吸収しちゃいますからねぇ。今までにリーハとかが教えたこともまあまあ覚えてますし」
ヴァトルダー「で、ティグさんは何を教え込んでいるんだ?」
ティグ「ふっふっふ……知りたいですか?」
ヴァトルダー「まあ、どっちかといえば……」
ティグ「じゃ、お教えしましょう。この本に書いてあることを教えてるんですよ。はい、どうぞ」
 ヴァトルダーに持っていた本を渡すティグ。
ヴァトルダー「どれ……」
 本のタイトルを見たヴァトルダーの顔がみるみるうちに引きつる。
ヴァトルダー「……『ティグ・フィー・クレイン著 私はこれで成功しました! あなたにもできる 噂のスーパー経営学』だと……?」
ティグ「どーです?いいでしょ?」
ヴァトルダー「こ……」
 ヴァトルダー、右拳を振りかぶったぁ!
ヴァトルダー「こんなもん、教え込むなぁ!!」
 ばきぃ!!
 ヴァトルダー、怒りの鉄拳!!
ティグ「いっ……いきなり何するんですかっ!?」
 何って、あんた……。
ヴァトルダー「はぁっ、はぁっ……な、何を考えとるんだ、あんたはっ!」
ティグ「なにって……ただちょっと、後継者を育てようかと……」
 ぷちん。
ヴァトルダー「人の娘を、親に無断で後継者にするなぁーっ!!するなら、自分の子供にしろーっ!!」
 ばきっ!ぼきっ!ごきぃっ!!
 ティグの命やいかに!?
ヴァトルダー「まったく……さ、ソロー、行こう。こんなとこに居すわっていてもしょうがない」
ソロー「やだ」
ヴァトルダー「え」
 ヴァトルダーの顔が引きつった。
ソロー「このおじちゃんの方が、パパより構ってくれるもん」
ヴァトルダー「ガーン……」
ソロー「それにぃ……お金持ちだしぃ……」
 所詮、行き着くところはそこか。
ヴァトルダー「ぱ、パパだってお金、持ってるぞぉ☆」
ソロー「うっそだぁ。それじゃあ、なんでここに住んでるの?」
ヴァトルダー「ギク」
 どうした、ヴァトルダー?
ソロー「嘘はいけませんよーって、リーハお姉ちゃんが言ってたよ。もう、パパったらいいとこなしなんだから……。ティグおじちゃんほど頭よくないし、リーハお姉ちゃんほど美人じゃないし(←そりゃそーだ)、ラエンおじちゃんほど強くないし、ローゼンお兄ちゃんほど信仰心ないし(←あいつ、信仰心……あるか?)、フィップお兄ちゃんほどかわいくないし(←これは、フィップにとってはある意味で侮辱だろう)、ダルスおじちゃんほど変わり者じゃないし(←……)、ダッシュおじちゃんほど逞しくないし(←確かに……)、……こうしてみたら、情けないなぁ、パパって。キャハハハ……」
 ぶしゃっ、ぶしゃっ、ぶしゃしゃしゃッ!
 ヴァトルダーの心はズタズタになった。
ヴァトルダー「も、もうやめてくれぇ!」
 娘にやり込められた男・ヴァトルダー。
ヴァトルダー「わ、わかった……。何でも好きなことをここでやってよろしい」
ソロー「そーそー、人間、素直が一番よ☆」
 こ、こいつ……侮れん!
 なお、ティグはリーハの治療により一命を取り留めた。

ヴァトルダー「お、おのれぇ……。ローゼンの奴ぅ、俺に黙ってこんな家を建てるとは……いい根性してやがる、まったくぅ!」
 それから約3週間後、オラン・ローゼン宅前。ヴァトルダーはおろか、他の誰もこの家の場所は知らなかった(ただしティグを除く)。ほんの数時間前までは。
ヴァトルダー「くぉーら、ローゼン!さっさと出てこーい!!」
「はい……どちら様でしょうか?」
 ぎぃ……。
 中から、一人の青年が出てきた。年齢は・・・ヴァトルダーより若く見えるが、耳の形からしてエルフの血を引いており、はっきりとは分からない。
ヴァトルダー「……あれ?ローゼンじゃない?……ちょっと失礼」
 二、三歩下がって表札(もどき)を見る。「スレード」と書いてある。
ヴァトルダー「ありゃ?ティグさん、住所を間違えたのかなぁ」
 ぽりぽり。
「あの……クレインさんの使いの方で?」
ヴァトルダー「つ、使い……?ま、まぁ、ちょっと違うがそんなもんだな」
 違わない。お前は単なる「使い」だ。
ヴァトルダー「俺はこう見えても、ティグさんと同じ屋根の下で住んでいる仲だ」
 そーいう言い方をすると、変な誤解を招くぞ。
「あ、そうですか。でしたら、どうぞ……」
ヴァトルダー「でも、スレードって」
「ですから、ローゼンを訪ねて来たんでしょ?ローゼン・スレード」
ヴァトルダー「……」
 沈黙。

ヴァトルダー「……おお!あいつ、名字があったんだ!」
 ヴァトルダーが口を開いたのは、それから5分ほどたってからのことであった。
「納得していただけましたか?」
 こいつのことを律儀に待っているとは、今時奇特な方だ。
ヴァトルダー「ん……?ああ、何とか」
「そうですか。では、どうぞ中へお入り下さい」
ヴァトルダー「どうも」

ヴァトルダー「うおおおおーっ!!」
 応接室へ通されて、ヴァトルダーはいきなり叫んだ。
ヴァトルダー「な、なーんてリッチな……俺の家には及ばぬとはいえ……」
 待て。それは、お前の家ではなく、お前の住ませてもらっている家のことだろう?
ヴァトルダー「こ、こいつぁすげぇ……」
 ヴァトルダーはあたりをキョロキョロ見回している。
「どうも、汚いところですいません」
ヴァトルダー「またまたご謙遜を……(……にしても、ローゼンの奴、ますますもって許せん!俺が借金抱え込んでた時も、あいつは……あいつはッ!!くぅッ、我ながら情けない……)」
「あのぉ、どうしたんです?はらはらと涙なんか流して」
ヴァトルダー「……あ、いや、こいつは失礼」
 言いつつ涙を拭くヴァトルダー。
ローゼン「おう、ヴァトルダーか」
 そこへ、ローゼンが入ってきた。
ヴァトルダー「お……お……」
ローゼン「?どうした?」
ヴァトルダー「お・ま・え・と・い・う・や・つ・は!!」
 言ってローゼンの首をカックンカックンと揺する。
ローゼン「こ……こらっ!何するっ!」
ヴァトルダー「……はっ!つ、つい思わず……」
ローゼン「何が思わず、だ……。で、何か用か?」
ヴァトルダー「おう、そうだ。これこれ、これをティグさんに渡してくれって頼まれてな」
ローゼン「おっ、そうか」
 喜んで包みを開けるローゼン。
ヴァトルダー「何なんだ、それは?」
ローゼン「これか?見たまんまだろ。剣だよ」
ヴァトルダー「……そうか?俺には、単なる柄にしか見えんが」
 つーわけで、中から出てきたのは剣の柄である。
ローゼン「剣なんだよ、これは……。ほれ、『スレ○ヤーズ』の、光の剣みたいなもんだ」
ヴァトルダー「……いいのか?実名を出して」
ローゼン「いいんじゃないか?」
 よくないと思うが……こーいう場合は例を出すのが、理解してもらうのに一番てっとり早いからなぁ。
ローゼン「これな、この間のクルカ内紛の時、隠し子帝(命名・ティグ)が懐に持ってた護身用の武器なんだ。グプター王の話だと、最悪の事態にのみ使用を許可されているってことだ」
ヴァトルダー「で、何でお前にそれの所有権が回ってきたんだ?」
ローゼン「向こうじゃ、魔法しか使わないんだよ。それぐらいわかってるだろ、お前でも」
ヴァトルダー「お前でも、とは心外な」
ローゼン「だから、ティグさんに買い取ってもらって、俺が貰い受けた……と。報酬にな」
ヴァトルダー「……仮にも一国の王の護身用の剣を報酬に貰うとは……」
ローゼン「おおファリスよ、あなたに感謝します……」
ヴァトルダー「この世でもっとも信仰心なきプリーストがよく言う……」
ローゼン「何か言ったか?」
ヴァトルダー「いーや、何も」
 紙切れの中身はこうである。「マナ・ブレード、王家より10万ガメルで購入」。
ローゼン「……」
ヴァトルダー「しかし、何だな。俺も報酬に、こーいう風な何かを貰えるってことだよな。何をもらおっかな……」
 いろいろと頭の中に浮かんでは消える数々の品。
ヴァトルダー「……そうだ!エキュ君のコントローラーを貰おう!エキュ君って、馬車なんかより断然いいもんな」
ローゼン「エキュ君のコントローラーは、フィップの報酬だ」
ヴァトルダー「そ……そうか?じゃあ……」
ローゼン「あのな……考えているところに水をさすようで悪いんだが……」
ヴァトルダー「何だ」
ローゼン「お前の報酬って、養育費じゃなかったっけ?ほれ、ソローちゃんの養育費の全額負担、お前が泣いて頼んだんだろ?」
ヴァトルダー「……えーっ!?あれはティグさんのご好意とばかり……」
 どこの世界に、好意で親のいる子供の養育費を全額負担するやつがいる。
ローゼン「まぁまぁ。養育費も、最近は結構馬鹿にはならないんだぞ。な?」
ヴァトルダー「ま……まあいいか……。そう、養育費は高い……高いんだよな」
 自分を無理に納得させるヴァトルダー。
ヴァトルダー「ところで、話は変わるがな。あれ、誰だ?」
ローゼン「あれ?」
ヴァトルダー「ほれ、さっき応対に出た人だよ」
ローゼン「ああ、あれ」
 お前まで「あれ」と言うんじゃないっ!
ヴァトルダー「お前、あの人と二人暮らしなのか?」
ローゼン「そーだよ」
ヴァトルダー「まぁっ……まさかぁ!!」
 ヴァトルダーの顔色が変わる。
ローゼン「な……何だ?」
ヴァトルダー「お前とあの人、バ○コラン&マラ○ヒみたいな(ピィー)な関係だとか!?」
ローゼン「そんなわけないだろーがっ!!」
 ばきぃっ!
ヴァトルダー「……隠すなって」
ローゼン「お前、自分がロリコンなのを棚に上げて、よくもまあそんなことが……」
ヴァトルダー「おおっ、そうだった!デマを流したの、お前だろ!」
ローゼン「ギク」
ヴァトルダー「あの後よーく考えたら、心当たりがお前しかなかったからな」
ローゼン「そ……それは偏見ってもんだ、ヴァトルダーよ」
ヴァトルダー「偏見だろうがなんだろうが、お前なんだろ?」
ローゼン「(ああ……ファリスよ、どうしたらよいのでしょうか……。どうか、私をお導き下さい……)」
 ファリスに祈りを捧げるローゼン。
(知らん)
 しかし、帰ってきた答えは冷たかった。
ローゼン「(ああっ、そんなぁ……。ついにファリスは、我を見放したか……)」
 プリースト技能を剥奪されないだけ、ありがたいと思え。
ヴァトルダー「さ、素直に言いな。さもなくば……」
ローゼン「……さもなくば?」
ヴァトルダー「バールスさんに引き渡す」
 ローゼンは、ムンクの「叫び」にも似た形相になった。
ローゼン「そっ……それだけはご勘弁をっ!!はい、そーですっ、私がやりましたですっ!!」
ヴァトルダー「最初から素直に言え、まったく……」
 そういって、ローゼンの頭を小突く。
ヴァトルダー「……そうだ。お詫びの印ってことで、さっきのマナ・ブレードを貰ってやろうか?」
ローゼン「お前には使えんぞ、これ」
ヴァトルダー「ほー、そうか?じゃ、使えたらくれるか?」
ローゼン「使えればな」
ヴァトルダー「よ……ようし。では、早速……」
 と言って、机の上にある柄を握りしめて構えるヴァトルダー。
ヴァトルダー「ふん!」
 ばちぃっ!
 虹色の刃が生まれた……一瞬。
ヴァトルダー「ぐっ!」
 ぱたっ。
 ヴァトルダーは全精神力を使い果たし、あえなく気絶した。
ローゼン「それみろ……って、聞こえないか。トランスファー・メンタルパワー」
 トランスファー……は、精神力を分け与える魔法である。
ヴァトルダー「……お?何か、とーっても体がだるいんだが」
ローゼン「そりゃ、一気に全精神力を使い切ったからな」
ヴァトルダー「は?」
ローゼン「わからないかなぁ。この剣は、精神力を使って刃を作りだすんだ。それも、かなりの精神力を使ってな。だから、これを使えるのは、俺やダッシュ、フィップみたいに精神力が高い奴だけなんだよ」
ヴァトルダー「ほうほう」
ローゼン「かくいう俺も、刃を出していられるのはせいぜい20秒が限度だ」
ヴァトルダー「それを越えると、どうなる?」
ローゼン「ピヨる」
 よーするに、気絶する。
ヴァトルダー「そうか……じゃ、まあいいだろ。これは諦めてやろう」
ローゼン「そりゃどうも」
ヴァトルダー「ところで、あの人は?」
ローゼン「あれは俺の兄だ」
ヴァトルダー「……」
 沈黙……。
ヴァトルダー「……兄ぃ!?」
ローゼン「そ。腹違いのね」
ヴァトルダー「あ……そう……(お、俺は何を期待していたんだ……!ああ、俺のバカバカバカ……!)」
ローゼン「話せば長くなるけどな、あっちは父さんと某エルフとの子供で、俺は某人間との子供なんだ」
ヴァトルダー「……そのまんまじゃないか?それって」
ローゼン「細かいことを言うな」
ヴァトルダー「で、名前は?」
ローゼン「レンディ。レンディ・スレード」
ヴァトルダー「ふうん」
 そこへ、話題の中心人物であるレンディが紅茶を持ってやってきた。
レンディ「どうぞ」
ヴァトルダー「あ、こいつぁどうも」
 ずずずぅ……。
ヴァトルダー「こりゃ結構なお茶で。ところでレンディさん」
レンディ「はい?」
ヴァトルダー「あなた、職業は?」
レンディ「無職……ですかねぇ」
ローゼン「念のために言っておくが、俺たち冒険者って奴も、言わば無職だぞ」
ヴァトルダー「……そうだったのか……」
 今更ショックを受けることはなかろう。
レンディ「一応、戦士としての訓練なんかをしていますけど……」
ヴァトルダー「へぇ、戦士ねぇ。でも、エルフっつーのは、一般に非力なんじゃなかったっけ?」
レンディ「あのぉ、僕はハーフエルフなんですけど」
ヴァトルダー「どっちも似たようなもんだろ?」
 違うって。
レンディ「ま、そうですけど」
 あんたまでそーいう考えを認めるんじゃない。
ローゼン「一般論は、全てに通用するわけではないんだぞ。ほら、ごく稀にいるだろ?やたらと素早いドワーフとか、エルフ並に非力な人間とか」
ヴァトルダー「んじゃ、こいつは普通の人間よりも強いのか?」
ローゼン「いや、弱い」
ヴァトルダー「……お前の話を聞いた俺が馬鹿だった……」
 一応いっとくけど、レンディの筋力は普通の人間よりちょっと弱いだけだ(少なくとも、ダルスみたいに非力な奴よりはずっと強い)。
ヴァトルダー「まぁ、何にしろ戦士なんだな?じゃ、俺がコーチしてやろうか?」
レンディ「いえ、結構です。クレイン・戦士養成所に通ってますから」
ヴァトルダー「ぶッ!!」
 紅茶を吐き出すとは汚い奴。
ヴァトルダー「……く、クレイン〜?」
ローゼン「言わなくても分かると思うが、クレイン・ネットワークの……」
ヴァトルダー「あー、わかってる。皆まで言うな。だが……ローゼン」
ローゼン「何だ?」
ヴァトルダー「学費、タダだろ?」
ローゼン「(こ、こいつ、妙な所で鋭い……)……」
ヴァトルダー「その沈黙は、肯定と受け取っていいんだな?」
ローゼン「まあ……。ま、それはそれとして」
ヴァトルダー「仕事はないぞ」
ローゼン「うっ……そうか(なんでわかったんだ、こいつ?)」
ヴァトルダー「酒場の親父に聞いてくるか?」
ローゼン「おう。このままじゃ、貯金もそのうちにそこをつく」
 と言いつつ、実は数年間生きていけるだけの蓄えがある成金冒険者。
ローゼン「じゃ、そういうことで仕事を探しに行ってくる。何かあったらそのまま仕事に行くから、いつ帰るかわからない」
 すでに冒険が仕事と化していることに気づいていないローゼン。
レンディ「うん、行ってらっしゃい」

ヴァトルダー「しかし、なぁ、ローゼン」
 ローゼン宅を出てから、ヴァトルダーが思っていたことを口にした。
ヴァトルダー「どうも、お前らの会話を聞いていると、兄と弟という立場が逆転しているような気がするんだが」
ローゼン「その理由は簡単だ。あの家は俺が買ったもんだからさ」
ヴァトルダー「そんだけか?」
ローゼン「……強いてあげれば、俺のほうが先に大きくなった、つーことかな」
ヴァトルダー「はぁ?」
ローゼン「半分エルフってのが関係あるのかは知らないけど、俺の方が先に大きくなったんだよ。といっても肉体的なことだけどな、それも関係してるんじゃないかな。あと、あいつが苛められたときも、俺が助けたりしてたし」
ヴァトルダー「……ところでさ、レンディさんがハーフエルフってことは、つまるところ、お前のほうが先にくたばるってことだろ?」
ローゼン「それを言うな……。そのことは考えたくない……」
 気にしてたな、こいつぅ。
ローゼン「そんなこと、この際どうでもいい。とにかく仕事だ」
ヴァトルダー「ドラゴンでも出てくるようなのはないかなぁ……」

自称大賢者ギュレイコブ・アルストレイト

ヴァトルダー「ふんふんふん……と。あったか、そっち」
ローゼン「いーや。どれもこれも大したもんじゃない。人探しとか、泥棒退治とか、そんなもんばっかりだ」
 二人はいま、酒場の掲示板の前にいる。
ローゼン「俺はそーいうもんでもいいんだが……」
ヴァトルダー「一流の戦士がそんな下らん仕事を受けられるかって」
 ヴァトルダーは掲示板を離れると、主人のところへ向かった。
ヴァトルダー「なあ親父、何かいい仕事、ないか?」
主人「おう、ヴァトルダーさん、景気はどうです?」
ヴァトルダー「よかったら、仕事探しなんかしてないって」
主人「それもそうだ。仕事ねぇ……あるにはあるよ。『冒険者求む。但し経験の豊富な者に限る。命の保証なし。仕事の内容と報酬は交渉の場で。大賢者ギュレイコブ・アルストレイト』。とまあ、こんなもんだ。どうするね?」
ヴァトルダー「おーい、ローゼン、これはどうだ?」
ローゼン「どれ?」
 ローゼンもやって来て、紙に目を通す。
ローゼン「この、大賢者ってところが引っ掛かるんだよな」
ヴァトルダー「やっぱそうか?でも、他にこれと言ったのがないしなぁ」
ローゼン「じゃ、とりあえず依頼人にあってみるか。親父さん、これ、貰ってくよ」
主人「ああ、どうぞ」

 某怪しげな酒場。
大賢者ギュレイコブ・アルストレイト(フルネームを出すのはこれっきりにしよう)「私がギュレイコブ・アルストレイトだ」
ローゼン「で、依頼内容は?」
アルストレイト「せっかちな方だな。場所は言えんのだが、神殿の調査に行きたいのだ。だが、護衛がないと危なっかしいんでな、それを君らに頼みたい」
ローゼン「つまり、護衛をしろというんですね?」
アルストレイト「そ」
ローゼン「では、私はこれで」
アルストレイト「ちょ、ちょっと待てぃ!」
ローゼン「アホらしい。何が悲しゅうて、今更おっさんの護衛なんぞせねばならんのだ?」
アルストレイト「ならば、どんな仕事が望みなのだ?場合によっては、叶うかもしれんぞ」
ヴァトルダー「血湧き肉踊る冒険!戦う男のロマン!」
アルストレイト「……目指す神殿は竜の神殿と言ってな、ドラゴンが住み着いているという噂が……」
ローゼン「ど、ドラゴン!?」
ヴァトルダー「ほんとに!?」
アルストレイト「竜の神殿という名前については本当だ。ドラゴンについては確証はないがな」
ローゼン「うーん……まだ死にたくはないし……」
ヴァトルダー「引き受けましょう!ギュネイコブ・アレストナイトさん」
アルストレイト「ギュレイコブ・アルストレイトだぁ!しかし、そうか、引き受けてくれるか!(やれやれ)」
ローゼン「こらこらっ!勝手に話を進めるなぁっ!」
ヴァトルダー「で、報酬のことですが……」
アルストレイト「うむ、報酬な……」
ローゼン「こ、こいつらは……。えーい、わかった!受ける!受けるから、報酬は俺に決めさせろ!」
アルストレイト「まあ、言ってみたまえ。こちらも、出来る限りの条件は飲もう」
ローゼン「では、二人で、一人当たり基本報酬が1000ガメルとして占めて2000ガメル。それに、ドラゴンを倒した場合には、さらに20万ガメル頂きたい」
アルストレイト「2、20万!?(こ、こいつ、人の足下見おって……。他にも仕事を受けてくれる奴がいれば、即断るのだが……ま、待てよ?ドラゴンがいると言うのは嘘だから……実際は2000ガメルか。予算ギリギリだな。ま、止むを得まい)よし、わかった。それで手を打とう」
ローゼン「では、念書を」
アルストレイト「疑り深い奴だな。…………これでいいかな?」
ローゼン「確かに」
 ローゼンは念書を懐にしまい込んだ。
ヴァトルダー「この上、まだ荒稼ぎするとは、お前もワルよのう……」
ローゼン「お前に言われたくはない」

 場所は変わってティグ宅。
ティグ「てなわけで、神殿の調査をお願いしたいんですが」
 ティグは別件でお仕事の依頼をしていた。
ダルス「わし、パス」
ダッシュ「なぜだ?悪くないじゃないか。どうせ暇だし」
フィップ「僕、どっちでもいいよ。二人で決めて」
 一番無責任な意見である。
ダルス「どうもわしゃ神殿がいやなんぢゃ。そもそもエルフというものはぢゃな……」
ダッシュ「神を信じない……か?」
ダルス「そう、その通りぢゃ」
ダッシュ「しかしなあ」
ダルス「なんじゃい」
ダッシュ「そろそろ仕事をしないと、財布の中身が減る一方だぞ」
ダルス「(グッ……!たっ、確かに)……仕方がない、そこまで頼むのなら……」
ダッシュ「別に頼んじゃいないんだが」
ダルス「ええい、わしは神に頼まれたんぢゃい」
 神の存在を決して信じないエルフがよく言う……。
ティグ「では、決まりですか?」
フィップ「うん。その仕事、受けるよ」
ティグ「よろしい。では、さっそく場所をお教えいたします」


ユセリアスの神殿・2へ
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