「はぁ……暇だなぁ」
例によって例の如く、ヴァトルダーは昼下がりの午後を安穏と過ごしていた。
カウンターでマスターが皿洗いに勤しんでいるのを後目に、彼は机に肘をつき、ぼんやりと通りの人の流れを眺めている。
この「無為な時間の浪費」は何もヴァトルダーに限ったことではない。「宿屋滞在組」の残る三人のうち、フィップは春の陽にすやすやと寝息を立てており、ダルスもひたすら瞑想に耽って、新たな境地を模索している最中であった。
最後の一人であるソローは、取りすがる父親をあっさりと見捨てて一人外へ遊びに出かけている。妙な知識を蓄え込んでいるフィップに言わせれば、これは「第二次反抗期」と称されるものらしい。
なお、ローゼンはこの時間帯であればファリス神殿で奉仕中であり、ダッシュはというとマイリー神殿で同じく奉仕しているはずなのだが、昨今は鬼検事殿のところへも頻繁に出入りしているようである。
「ヴァトルダーさん……少しは仕事でもしたらどうです?」
洗い物を片付けながら言うマスターに、戦士はぼんやりと首を振ってみせた。
「面倒くさいからイヤだ。当面の生活費は心配ないし……第一、掲示板を見てもろくな仕事がないじゃないか」
近隣の村から回ってきているゴブリン退治やら何やらの依頼書を横目に見ながらため息をつく。
「確かに、ヴァトルダーさん達の腕では少々……いや、かなり物足りないかもしれませんな……」
「当然だ。俺の腕は超一流だからな」
胸を反らせて答えた彼は直後、椅子ごと仰け反って後ろのテーブルへしたたかに頭を打ち付けた。
「それにしても暇だなぁ……」
この後、三人はマスターの冷ややかな視線を浴びながらも、平然と夜までテーブルを占拠し続けた。
「……遅いな……」
「そだね」
客が溢れかえる店内で夕食を取りながら呟いたヴァトルダーに、フィップはあっさりと返答した。
「そだね……ってお前、心配じゃないのか……?」
「ま、あの娘もそういう年頃だってことだよ」
フォークをくるくると器用に回しながら、いかにも知ったふうな様子でフィップ。
「もう14歳だしねぇ……あ〜んなことやこ〜んなことをぉ……」
「うおぉ〜、ソローっ!!」
冗談を真に受け、突然ヴァトルダーが大声を上げた。
「フィップぅ、お前のせいだぁぁ! お前、何を教え込んだぁっ!!」
「はうぅ、な、何にもしてないよぉぉぉ……」
小柄なグラスランナーの両肩をガシッと引っつかんで揺さぶるヴァトルダーを、ダルスが軽く窘める。
「ひょっひょっひょっ……ヴァトルダーよ、フィップにいくら八つ当たりをしたところで、ソローは戻ってこんぞぉ」
「……そ、それもそうか」
珍しくまともなことを言うダルスの言葉に、赤毛の戦士はパッと手を離した。
解放されたフィップは、椅子の上でケホケホと咽せている。
「そうぢゃ……もうソローは、お前の手が届かんところへ行ってしまったのぢゃ……もう戻ってはこんぞぉ……ひょっひょっ」
「……お前の言うことを、少しでも真面目に聞いた俺が馬鹿だった……」
頭中に木霊するダルスの笑い声に額を押さえながら、ヴァトルダーはいまだ戻らぬ娘の笑顔を思い浮かべていた。
しかしその焦燥感に反して、彼がソロー捜索に乗り出したのはそれからさらに一時間後のことである。
「ティ〜グさ〜んっ! 開けてくれぇぇ!」
通りを誰も出歩かなくなったこの時間に、非常識戦士ヴァトルダーはティグ邸の戸を叩いていた。
「開けてくれぇぇ! 早くぅっ!!」
止むどころか次第に激しさを増すノック音に根負けしたのか、やがて鍵を外す音が聞こえ、扉が開かれた。
「どうなさいました、ヴァトルダーさん……」
尋ねる執事A’の顔には、「またか……」という脱力感が、これでもかといわんばかりにありありと浮かんでいる。
「おう、大変なんだ! ティグさんを呼んでくれっ!」
「旦那様は……」
「は・や・く・よ・べっ!!」
「……畏まりました」
言葉を問答無用で遮り、顔をグッと近づけて迫るヴァトルダーの気迫に圧されたのか、執事は渋々奥へ主人を呼びに向かった。彼の背には、またしても要求を呑んでしまった脆弱な意思への哀愁の念が虚しく漂っている。
しばらくして顔を見せた寝間着姿のティグの表情にも、似たようなものが浮かんでいた。
「何ですか、ヴァトルダー君……私、もう寝てたんですよ。今日は朝が早かったですから……ふあぁ」
ともすれば下がってくる瞼を意志の力でこじ開けるティグに、戦士はソローが宿に戻ってこないことを告げた。
「……で?」
「で? じゃないっ! ソロー、ここには来てないのか?!」
「こんな時間まで、何の連絡もせずにソローちゃんを引き留めたりはしませんよ。彼女だってまだ未成年の少女なんですから」
無駄と知りつつも、懇切丁寧にヴァトルダーへ説明を施す商売人T。
「うっ……な、なら、ティグさん。ネットワークの情報網でもって、ソローの居場所を探してくれっ!」
「あのねぇ……クレイン・ネットワークは私の私物じゃありませんし、ましてや君の私物でもないんですが……」
こめかみの辺りを右人差し指と中指で押さえる。
「とにかく、今私は非常に眠いんです。すいませんが、詳しくはまた後で聞きますから……明日の朝にでも、改めて来て下さい」
言うが早いが、ティグは扉をバタンと閉めてしまった。
それきり、押そうが引こうが叩こうが、その夜のうちにティグ邸の扉が開かれることは、二度となかったのである。
日もまだ昇らぬ翌早朝、どこまでも非常識な男の働きかけによって、扉は再び開かれた。
完全に無関係なティグの息子や娘にしてみれば、実に迷惑な話である。ティグや執事とて、無関係と言えなくはないのだが。
哀れな執事A’は、起きた早々ヴァトルダーに胸ぐらを掴まれている。
「頼む、早くティグさんを呼んでくれっ!」
行動からして頼むという態度ではないのだが、白髪の老人にその点を指摘する余裕はなかった。彼は軽く咳払いすると、自分に輪をかけて不幸な男を呼びに向かう。
老獪な執事の予想通り、館の主ティグは起こしにいくまでもなく既に目覚めていた。小鳥の囀りならぬ、戦士の生み出したノック音と喚き声によって……。
「いい加減にして下さいよ! こんな朝早くに何考えてるんです」
「明日の朝に来いと言ったから、言葉通りに来たまでだ」
ティグの剣幕を意にも介さず、しれっと答えるヴァトルダー。
「そんなことより、早くソローを探してくれ」
「ですから、昨日も言ったように、どうして私がヴァトルダー君のために動かなければならないんですか。君のために人員を割くことはできませんよ」
「何ぃ?! このヴァトルダー様の頼みがきけないというのかっ!!」
「もちろんです」
「ぐ……」
きっぱりとこう答えられては、さしものヴァトルダーも返す言葉がない。
「そんなこと言わないでくれよ〜。いつも、ソローの頼みはホイホイきいてるじゃないか」
「ふむ……」
ティグは少しの間思案した後、にこやかな表情で、
「非常に残念なことですが、君はソローちゃんじゃありませんから」
「ティグさん、あんた鬼かい……」
「ま、こういうことは私よりも、その道の専門家に頼んだ方が確実だと思いますよ」
「う……それもそうか……」
実は専門家以上の情報網を握っているのだが、ティグは苦し紛れにこう答えた。
それをそれとも気付かずあっさり納得した戦士は、ティグと執事の冷たい視線を一身に受けて新たな目的地へ歩き出した。
言うまでもないことだが、ようやく鳥の囀りが聞こえ始めたこの時間に、空いている「詰め所」などあるはずがない。
猪突猛進を旨とするヴァトルダーは結局“鬼検事”バールス氏の出勤する四時間後まで、延々詰め所前で座り続けることになる。
「それで……」
憔悴しきった瞳で自分を見つめる赤毛の男に尋ねるバールス。
「この俺様に、いったい何をどうしろってんだ?」
「だから、ソローを探し出せと頼んでいる」
「相変わらず口の聞き方を知らん奴だな、お前は……」
「そっちこそ……」
椅子の上でふんぞり返ったまま姿勢を崩さないこの二人の間には、「譲歩」という言葉の入る余地がまるでない。
「まあいい……とりあえず、調書だけでも取っておくか。暇があれば調べてやる」
恩着せがましく言っておいてから、バールスはペンを走らせ始めた。
「まず、ソローがいなくなったのはいつだ?」
「ふっ、そんなこと知らんな」
ペンが、音を立てて弾けた。
「本気で探してもらう気があんのか、てめぇはっ!!」
「そう言われても、知らんものは知らんのだ」
「……では、日にちはいつだ」
バールスは震えるこめかみを指先で押さえ、別のペン先をインクにつけながら問答を再開させた。
「昨日だ」
「正午の時点で既にいなかったのか?」
「いや、昼飯を食った時にはまだいたな。あいつが先に飯を食い終わって、そのまま遊びに行っちまったんだ」
「で、そのまま失踪……か?」
「おう、その通りだ」
「……覚えておきな」
殴りつけたい衝動を堪えて、鬼検事バールス、自称『仏のバールス』が馬鹿丁寧に教えを施す。
「そういう場合はな……『昨日の昼からいなくなった』というんだ」
さすがのヴァトルダーも、不穏な気配からこれ以上茶化すのは危険だと悟ったらしく、コクコクと頷いて了解の意思表明をした。
「で、この時間以後の目撃者はいるのか?」
「さあ……俺、まだ目撃者がいたかどうかなんて調べてない……」
プツン、と音がしたかどうかは定かでないが、この一言で鬼検事殿の「堪忍袋の緒」が切れてしまったことは間違いない。
賢明な読者には、五分後に血塗れのヴァトルダーが複数の警備兵によって目撃されたことだけをお伝えすれば、あらかたの事情は察していただけるものと推測する。
「なるほど、ヴァトルダーさんがラエン様に、お嬢さんの捜索を依頼したことはわかりました」
倦怠感に全身を支配された執事が、信じられないといった顔でヴァトルダーを見ている。
「ですが、そのことと『三度の来訪』との関連性が、私にはさっぱりわかりませんな」
「ふっ、ではこの俺様が説明してやろう」
胸を反らせ、赤毛の戦士が簡潔に事情を説明する。
「ラエンが俺へ結果を報告するときの連絡先にティグ邸の名前を出させてもらった。ただそれだけだ。
ではそういうことで、応接間で待たせてもらうぞ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛なたって人は、どうしてそんな勝手なことを……あっ、勝手に上がらないで下さいっ! ああああ、ちょっと待って……」
問答無用で上がり込まれ、執事A’は涙目で戦士のあとを追うのだった。
時を同じくして、宿の方ではフィップとダルスがヴァトルダーの身を案じていた。
「ねぇ、ヴァトルダーの姿、見えないねぇ……」
「ひょっひょっ。さすがにソローのことが不安なんぢゃろう。捜しに出かけているに違いないぞ」
「どうだか……ねぇ親父さん、ヴァトルダー見なかった?」
食器の片づけをしている店のマスターに話を振ってみたが、彼は肩を竦めただけで何も答えない。
「ダルス〜、ヴァトルダーはともかくとしてさ、ソローちゃんを捜しに行こうか。やっぱ心配だし」
「そうぢゃのう。では、二手に分かれて聞き込みでも……」
「そだね。あ、親父さん、僕たちこれからソローちゃん捜しに行ってくるから、ヴァトルダーが帰ってきたらそう伝えといて」
マスターが無言で頷くのを確認してから、二人は朝の街へ繰り出していった。
ざわめきが起こり、通りの人混みが真ん中から割れていく。
その中心を、あたかも踊っているかのように奇妙なエルフが闊歩している。
言うまでもなく、ダルスその人であった。
(ひょっひょっ……皆、わしに畏怖の念を抱いて、道を空ける……これも我が高き徳の為せる業ぢゃ……)
衆人の視線を一身に浴び、口許に自然と笑みが浮かぶ。それでまた何人かが通りの端へ寄った。
どちらかといえば『君子、危うきに近寄らず』の方が近いとは思われるのだが、大半の人間がダルスを意識しているのは紛れもない事実である。
(そういえば、ソローの居所を調べるのが目的ぢゃったな……)
三十分も歩いてようやく当初の目的を思い出したダルスは、周囲に目を向けた。
そして、見事彼と視線を合わせてしまった不運な男に目標を定めると、両肩を揺らしてひょっこひょっこと近づいていく。その方向にいた群衆は、無情にも男一人を残し散ってしまった。
「そこな男よ。ソローという、14歳の女の子を知らんかの? 紫の長い髪をした娘ぢゃ」
右手で肩をわしと掴まれた男は、全身を使って否定の意を表明した。
「ひょひょ、そうか……」
ダルスは意味ありげな笑みを浮かべ、次の贄を求めて視線を彷徨わせ始める。
その後、都合3時間に渡って逃げ惑う(彼自身はそう認識してはいなかったが)人々からソローの情報をかき集め、彼は遂に一つの結論に達した。
ソローは複数の男によって拉致され、町の外へ連れ出されていたのである。
「……というわけぢゃ。ソローは、オランから何者かによって連れ去られたのぢゃっ!」
咀嚼された昼食をまき散らしながら、柄にもなく得意満面の表情で熱く語るダルスを、こちらは冷めた目で見つめるフィップ。
「……ん? なんぢゃい、その白けきった表情は。もっとこう、顔に出して驚いてもよいのぢゃぞ」
「いや、だってさ……」
視線を外し、またしてもフォークを器用に回しながら(どうやら癖になっているらしい)フィップが決まり悪そうに呟く。
「僕、それぐらいのことだったら1時間前には調べをつけてたし……」
ダルスの頭中で、異境の鐘が鈍く鳴り響いた。
張り付いた笑顔のまま凍ったエルフのオブジェを前に、少年は食事の手を再び動かし始めた。
ほぼ同時刻──
ティグ邸には、昼食をご馳走になったばかりか食後のデザートまで要求する、厚顔の戦士がいたことをついでに記しておく。
「ダルスさんにフィップさん……いいところへ来て下さいました」
ティグ邸に姿を現した二人を、執事A’が両手を広げて歓迎する。
「ということは……やっぱ、ヴァトルダーはここにいるんだよね?」
「仰る通りです……」
もはや疲れを隠そうともしない執事に連れられて入った応接間には、ケーキを丸かじりする彼らの「ツレ」の姿があった。時間帯からして「三時のおやつ」を要求したのだろう。
「よう、お前ら」
口の周りについたクリームを指で拭って……下品にもそれを口へ放り込んでから、ヴァトルダーは言った。
「ヴァトルダー……何やってんの」
「何って、見りゃわかるだろ。ソローの行方を追っているのさ」
「嘘つき……」
呆れ果てたフィップの斜め後ろでは、ダルスが物欲しそうに食べかけのケーキを眺めている。
「まあ、だいたいの事情はバールスさんとこで聞いたからわかってるけどね……」
「それで、何かわかったと言っていたか?」
「うんにゃ。まだ調べてもないみたい」
「ちっ……手を抜きやがって……」
「それ、ヴァトルダーに言われたら怒るよ、きっと」
憤慨する赤毛の戦士を見て、フィップがボソリと呟く。
「それよりさ、ヴァトルダー宛に手紙が来てたんだけど……」
「宿屋にか?」
フィップは頷き、1時間前に若い男が持ってきたことを告げた。
「ヴァトルダー個人宛だったから、僕らは見せてもらえなかったけどね。
さっき通りで聞き込みをしたんだけど、ソローちゃん、誰かに誘拐されちゃったみたいだよ。だから、きっとその脅迫状……」
「ぬ・あ・に・ぃ〜?!」
立ち上がるが早いが、フィップの首を掴んで自分の目線まで持ち上げ、ブンブン振り回すヴァトルダー。
「どういうことだ?! 誘拐だとぉ?!」
口から泡吹くフィップをかくかくと揺すって尋ねるも、当然答えは返ってこない。
「ひょっひょっ……とにかく、『手紙』の現物を見るのが先決ぢゃろう?」
「むっ……それもそうだ」
ダルスの正論にはたと我に返ると、フィップを掴んだまま彼は廊下に飛び出した。そのまま礼も忘れて、ダルスと共に外へ駆けていく。
後には、2kgほど減量を果たした執事A’が残された。
「執事って仕事も、一筋縄ではいかないもんですねぇ……」
いつの間にかその後ろに立っていたティグ家の長男セインが、ひきつった笑みを浮かべながら執事の心を代弁した。
「親父ぃ! 手紙、見せてくれっ!」
入ってきたヴァトルダーに促され、マスターは奥から筒を引っぱり出してきた。
引ったくるようにしてそれを手に取ると、蓋を取って中の手紙を広げる。
「どれ……」
中身は、以下の通りである。
『貴殿のご息女は預かった。返して欲しくば10万ガメルを用意し、同封した地図の場所まで一人で来い。
期日は一週間以内である。もしこの条件を違えるようなことがあれば、ご息女の命は補償しかねる──』
「あはは……割とオーソドックスな内容だね。もうちょっと頭使えばいいのに」
不謹慎にもフィップは笑い声を上げ、直後頭に瘤を作った。
「まあ10万ガメルぐらい、ティグさんの懐具合からすれば大したことはないかも知れんが……」
「ヴァトルダー……最初から、ティグさんの財布を当てにしまくっておるのぅ……いかんぞぉ」
「ふっ、ソローのためならいくらでも金を出す。ティグさんはそういう人だ。やはり、そこのところを最大限に利用せんとな」
「お主……ソローの親権、ティグさんに譲ったらどうぢゃ?」
ソローの先行きに不安を覚えたダルスが提案するも、ヴァトルダーの首が縦に動くわけはなかった。
実際、この後交渉に赴いたヴァトルダーに、ティグは「身代金」の10万ガメルを用立ててくれた。ただし今回の場合、これはソローのためというよりも、「これ以上私生活を波立てられてはたまらない」という意味合いの方が強かったようである。
「やっぱり、ローゼンとダッシュも呼ぶか……久しく『冒険らしい冒険』ってのをしてないからな」
「その『冒険』が身内の人質救出で、しかも一銭にもならないって知ったらどう思うかなぁ、二人とも」
「一銭にもならない」の部分を強調され、思わず絶句するヴァトルダー。その点にまでは考えが至らなかったらしい。
「余計なことを言う奴ぢゃのう、まったく……」
頭を抱え込んだヴァトルダーの後ろで、異種族二人が肩を竦め合った。
「まさかマティキさんの所へ『芝刈り』に言ってるとは思わなかったけどよ……」
マイリー神殿で告げられたダッシュ不在の理由に形容し難い思いを感じつつも、気を取り直してヴァトルダーはローゼン達の顔を順に眺めた。
「まさか、こんな理由で呼び出されるたぁ思わなかったぞ」
ようやく出番が回ってきて、まんざらでもなさそうにローゼン。
「さて、それじゃあ……」
日が昇ったばかりの東の空へ向け、ヴァトルダーが一歩を踏み出す。
「待っててもらおうかね、犯人さんよ。俺たちを本気にさせたこと……後悔させてやるぜ!」