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光輝石を求めて

「……というわけであなた方にはそのガゼッタ遺跡にあるという『光輝石』を取ってきていただきたいんですよ」
 温和そうな瞳のその男は、依頼内容をこう締めくくった。
 彼の名はティグ・フィー・クレイン。アレクラスト大陸の各地に支部を持つ大商会『クレイン・ネットワーク』の総裁であり、大資産家である。冒険者から成り上がって一代にして財をなした典型のような存在だ。
 一方、依頼を受ける側の人間は言わずと知れたヴァトルダー一行である。前回の仕事でそれなりの報酬を得た彼らは、次の仕事を探そうともせず昼間から酒を飲むような(いわゆる自堕落な)生活を送っていた。そこへひょこっと現れたのがティグだったのだ。
 ヴァトルダー達とティグとの出会いは極めて特殊である。
 以前ヴァトルダーが受けた依頼に、ある薬草を取りに行くというものがあった。この時の依頼人はフォル・クレイン。名前からわかる通りティグの親族、兄である。後に判明したことだが、この男はファラリス信者であり、また依頼されたミースという薬草も実は麻薬の原料だった。
 知らぬ事とはいえ悪事の片棒を担がされたわけだが、主犯のフォルを打ち倒し、またその後の巡察官による取り調べにも極めて協力的だったため、いくらかの釈放金によりヴァトルダー達は解放された。この時に保釈金を払ったのが、他ならぬティグだったのである。
 彼はまた、兄が迷惑をかけたことに対して幾ばくかの慰謝料をも支払った。これは本来、当初の依頼人であるフォル・クレインからもらえるはずだった依頼料とほぼ同額だ。
 なお、このフォル・クレインが起こした事件は『クレイン・K事件』として公式文書に記録されている。
 昼間から酒を飲むという大層な振る舞いをできるのも、この時のティグの計らいあってこそなのだ。もし「は、兄からもらえるはずだった依頼料を寄越せ? そんなもの、私には関係ありませんよ」などと突き放されていたら今頃は職を求めて彷徨っていなければならないわけで、そういう意味ではパーティとしていくらかの恩を受けているわけだ。
 だから、パーティリーダーのヴァトルダーも依頼を受けることに前向きだった。
「別に構わないぜ。今は暇だし……しかし、一応は依頼料次第ということになるな」
「はっはっはっ、心配いりませんよ。何と一人、四千ガメルです」
 その瞬間、誰もが我が耳を疑った。黙々と皿を洗っていたマスターまでが、耳をそばだてて成り行きに注目している。
 一人四千ガメル、つまり五人組である彼ら全員では二万ガメル。その腕と照らし合わせれば破格とは言えないまでも、十分多い金額である。
「ほ、本当に……?」
 ファリス神官──ヴァトルダーに言わせれば、接頭語に『腐れ』がつく──のローゼンが、唾を飲み込んで尋ねた。四千ガメルという金額は、ごく普通に生活すれば三ヶ月は遊んで暮らせる金額なのだ。目の色が変わるのも仕方がない。
「本当ですよ。ほら、これが前金の五千ガメル。銀貨だと重いですから、宝石ですけどね。もちろん全員分ですよ」
 そう言って、ティグはテーブルの上に袋を置き、ポンと叩いてみせた。
「まあ、それだけ今回あなた方に取ってきていただきたい光輝石には、それだけの価値があるということですよ」
「ううむ……ということは、これだけの金を積んでも痛くないだけの価値があるということじゃな。具体的にはどれほどの価値があるんじゃ?」
 ドワーフの神官戦士・ダッシュが依頼主に問うた。ちなみに彼の宗派はマイリーである。
「……え……と、それはですねぇ……」
 途端に歯切れが悪くなるティグの様子を見、さすがにヴァトルダーも訝しんで問い詰めた。篦棒な価値のあるものをみすみす渡したとあっては、(自称)愛の戦士ヴァトルダーの名が泣くというものだ。
 仕方なく、ティグは小声でぼそぼそと呟いた。
「その……まあ、百万ガメルは下らないかな、と……」
「百万ガメルぅ?!」
 それまで黙ってやり取りを聞いていた少年フィップが、素っ頓狂な声を上げる。彼はグラスランナーのシーフである──わざわざ言わずとも、グラスランナーの冒険者にシーフ以外の職種の者はいないという噂もあるが。
「すごいね、それ。『見つかりませんでした』ってポッポナイナイして、後でこっそり売った方が儲かるんじゃない?」
「馬鹿もぉん!!」
 ヴァトルダーの正義の拳を喰らって、フィップが前のめりに突っ伏す。
「……痛い……」
「そんな、俺たちの信用をなくすようなことを、依頼人当人の前で言う奴があるかっ! そういうことはあとでこっそりと言え、こっそりと!」
「あの〜……もしもし?」
 ティグの冷たい視線が、ヴァトルダーの瞳を貫く。
「……あっ、いや、今のは一般論で、別に今回の依頼でそういうことをするというわけでは……。そ、それよりティグさん。百万ガメルのものを取ってこさせようってのに、たった二万ガメルってことはないんじゃないか?」
「うっ……」
 やはり言うんじゃなかったと後悔したが、一旦口に出してしまった以上、取り消すのは不可能である。彼はその明晰なる頭脳であれこれ計算した後、新たな依頼料を掲示した。
「……では、一人五千ガメルということで……」
「はあ? 五千ガメルだあ? 一桁違うんじゃありませんか、ティグさんよぉ」
 まるっきり柄の悪い親父に早変わりして、ヴァトルダーは首を傾げてみせた。
「そうだな、ここはやっぱり五万ガメルぐらいもらわないとなぁ……もちろん一人だぞ」
「こ……この馬鹿たれは……」
 と震える声で呟いたのはティグではない。カウンターから立ち聞きしていた冒険者の店のマスターであった。
「ヴァトルダー、それからお前達も聞いておきなさい。世の中には、情報料というものがあるんだ。それはつまり、今回のような場合で言えば、その光輝石とやらが眠っている場所を示す地図の提供が、それに相当する。それを無視して、単純に物品の価格だけで依頼料を割り出してはいかんのだよ」
「でもなぁ、親父……」
 納得のいかないヴァトルダーがなおも食い下がってきたため、仕方なくマスターは別の視点から話してやることにした。
「もしお前達が無茶な金額を押しつけるのなら、きっとそこの御仁は、他の冒険者にその依頼を回すだろうな。その依頼料なら、受ける冒険者は五万といるさ」
「そういうことですね」
 にっこり微笑んで、ティグ・フィー・クレインはマスターの言葉を肯定した。
 こうなってしまうと、もはや選択の余地はない。現時点で提示されている依頼料でも十分満足のいくものなのだから、それをみすみす他の連中にくれてやる気は、ローゼン達にはなかった。
「わかりました、ではその依頼料で……」
「ちょっと待て待てぇ!」
 話をまとめかけたローゼンとティグの間に、赤毛の戦士ヴァトルダーが割って入る。
「やっぱり納得いかないぞ、俺は。だって百万ガメルのものだろう? いくら情報料といったって、ちょっと少な過ぎるだろう」
「お前なあ、そんなこと言ってせっかくの儲け話を……」
「いや、いいでしょう」
「へ?」
 ティグは肩を竦め、ヴァトルダーに言った。
「そこまでおっしゃるのでしたら、君には五万ガメル払って上げましょう」
「ほ、本当か?」
「ええ。ですが、条件があります」
 指を立てて、赤毛の戦士をピッと指さす。
「報酬を払った後、一度で構いません、私のネットワークが経営する料亭へ来ていただきたい。条件はそれだけです」
「……なんだ、そんなことか」
 何かとんでもないことを言われるのではないかと勘ぐっていたヴァトルダーは、ただ料理を食べに来いというその言葉を聞いてほっとため息をついた。
 どんな料理だか知らないが、いくらなんでもせいぜい数百ガメルだろう。それだけの出費で済むのなら、五万ガメルもらった方が得に違いない。
「オーケーオーケー、その話乗った!」
 勝ったなと内心ほくそ笑んで、ヴァトルダーはティグの手を握った。
「では、これで交渉成立ですね」
「あ〜、僕も五万ガメルの方が……」
 いいと言いかけてティグを見上げたフィップは、悪戯っ子のようなその顔を見て言葉を濁した。
 『五万ガメル+料亭』には、絶対何か裏がある。フィップの直感はそう告げていた。
「……やっぱ、五千ガメルでいいや」
「賢明な判断です、フィップ君」
 思わせぶりな言葉と遺跡の地図とを残して、クレイン・ネットワーク総裁ティグは颯爽と冒険者の店を去っていった。

 一行は街道を北上していた。目的のガゼッタ遺跡は、エストン山脈の中の一山の頂上にあるのだ。
「このコースだと、マティキ伯父の所に寄ることができるな」
 ティグから受け取った地図を覗き込んで、ダッシュが言った。
 マティキとはダッシュの父クスキの実弟であり、『クレイン・K事件』の発端となったミース採取の折に協力を受けた人物でもある。彼は山の麓で農作業に従事しつつ、悠々自適の生活を送っていた。
「何か、縁起が悪いな……」
 一人馬上の人となっているローゼンが唸る。
 それにしても、かのミースの採取場所にほど近い場所に遺跡があるというのは、何とも縁起の悪い話である。もっとも、それをそれと自覚する彼らではないが。
 そして幾日かの野宿ののち、彼らはマティキの家へ到着する。
「誰じゃな……?」
 戸を叩く音に呼応して外へ出てきた老ドワーフは、ダッシュの顔を見るなり歓喜の表情を浮かべた。
「おお、ダッシュではないか! よう来たのう」
「先日はお世話になりました、伯父上。また厄介になりに来たのですが……」
「いいともいいとも。ささ、君たちも遠慮せずに入りなさい」
「それでは……」
 もとよりそのつもりで来ているのだから、遠慮も何もない。ヴァトルダー達は萎縮することもなく堂々と中へ入っていった。
 それからきっかり2時間後、夕食の席でマティキは今回の旅の目的を尋ねてきた。
「山の遺跡にあると言われている、光輝石というものを取りに行くんですよ」
「ん? それは、ガゼッタ遺跡のことではないかね?」
「……仰る通りですが、どうしてご存じなのです、伯父上?」
「どうしても何も、その遺跡をガゼッタと名付けたのは他ならぬこのわしじゃよ」
 チャポンという何度か音がして、ローゼン他数名のスプーンがスープの底に消えた。何の感慨も受けずに啜り……もとい、飲み続けているのはヴァトルダーだけである。
「どういうことか、詳しく伺いたいものですね」
「そう……あれは三十年前の事じゃ……」
 金髪の神官ローゼンに促され、老ドワーフは過去の記憶を邂逅し始めた。
 当時、マティキは兄クスキと共に冒険者として遺跡巡りの日々を送っていた。定番の『堕ちた遺跡』は何度となく訪れて無事生還していたし、腕に自信を付けてからは財宝の在処を示す(と思われる)地図を買い漁っては探索に出かけていた。
 そんなある日、彼らは行きつけの地図屋で一枚の地図を入手する。これこそ、後にガゼッタ遺跡と命名される古代遺跡の在処を示すものだったのだ。
 元々、『財宝の地図』等というものは『本当に宝があれば儲け物』程度の信憑性しかない。言い方を変えれば『地図代と命をかけた宝くじ』なのだが、これでは身も蓋もない。
 実際この時のマティキ達も『今度は当たってほしい』程度の軽い気持ちであった。ここ五回ほど探索した場所が軒並み外れで、ここで一山当てなければ次の仕事は隊商護衛でもするしかない所まで、経済的に困窮していたのである。
 だが、彼らは賭けに勝った。遺跡は実在したのである。山頂にあったその遺跡には、無数の工芸品や装飾品が転がっていた。しかも幸いなことに、魔獣らしき存在は影も形もなかった。
 こうして彼らは一攫千金を果たし、意気揚々と引き上げてきたのである……。
「ちょ、ちょっと待て」
 鍋から三杯目のスープを注ぎ入れていたヴァトルダーが、話に首を突っ込んできた。
「するってぇと何か? 遺跡にはもう何も残ってない、そういうことじゃないのか?」
「いやあ、そうでもないんじゃないかのう」
 パイプを燻らせながら、呑気な口調でマティキが答える。
「わしらが探索したのは、あの遺跡の上辺だけじゃからのう。それだけで、わしら二人が一生食っていくのに困らんだけの財宝があったんじゃよ。どこにあるかもわからぬ遺跡を探すのもあれじゃったからな、地図はそのまま売っ払ってしまったわけじゃ」
「なるほど、それが流れ流れてティグさんの手に入り、俺たちに依頼が回ってきたと……」
 腕を組んで唸るローゼン。なかなか縁というのも複雑なものである。
「しかし伯父上。発見されたのが三十年前で、その時点で光輝石の存在自体はわかっていたんでしょう?」
「うむ。地図に堂々と書かれてあったからな、遺跡をもっと深く調べれば出てくるということぐらいはわかっておった」
「ということは、伯父上が遺跡を手放した後、何人もの人間がガゼッタ遺跡へ挑んだことになりますよね。それなのに今まで光輝石が発見されていないというのは、どういうことでしょう?」
「……そう言われれば妙じゃな」
 ここでマティキは、ティグから聞いていた遺跡にまつわる話を思い出した。
「そうそう、何でも宝のありそうな場所は見つかったそうですが、『鍵』がどこを探しても見つからなかったそうです」
「鍵?」
「ええ。確か正六角形の窪みがあるとかで、遺跡を訪れた者の予想ではそこに『鍵』を填め込むのだろうと……」
「ちょうどあんな形ぢゃな?」
「そうそう、あんな形……は?」
 ヴァトルダー・パーティの最後の一人、奇人エルフ・ダルスが指さした先を見て、ダッシュの目が点になる。
「ん? おお、あれかね。あれは、今話題にしている遺跡で見つけたものの一つじゃ」
 マティキが懐かしそうに語る後ろで、ローゼンとフィップが小声で喋る。
「ねえローゼン、今まで冒険者が『光輝石』を発見できなかった理由ってさあ……」
「ああ、間違いないな。マティキさんのせいだろう」
「……でも、そのお陰で僕たちの名前が『発見者』として残ることになるんだから、別にいいけどね」
「ふむ……同感だ」

 翌朝、よくわからない経緯で『鍵』を入手した一行は、マティキに別れを告げて山を登り始めた。
 さすがに木々の鬱蒼と生い茂る山道を馬に登らせるのは不可能なため、ローゼンは愛馬ルーザー号をマティキの元へ預けている。
 山の頂上を二つ制覇し、目的の山の中腹まで来たところでその日は暮れた。
 そろそろ五万ガメルが頭にちらつき出したヴァトルダーは、何を思ったか仲間にこう言い渡した。
「よし、今晩は俺一人で見張りをしてやろう。お前ら、安心して眠れ」
 とても正気の沙汰とは思えぬ提案である。それも、仲間から冗談半分に言われたのならまだしも、自分から言い出したのだ。
 呆れてものも言えない仲間の様子を『無言の肯定』と受け取ったか、ヴァトルダーは鼻歌混じりに野営の準備を始めた。
 もっともこの辺りの心理状況、わからなくもない。つまり自分だけが仲間の十倍という報酬を貰える事に、一つの罪悪感を抱いているわけだ。
 ともあれ、その日の夜は更け……何事もなく、翌朝が来た。
「くぅおおお、眠い〜」
 情けない悲鳴を上げるヴァトルダー。当たり前である。
 昨日登った二つの山と違い、遺跡のあるこの山はどういうわけか地肌が剥き出しになっていた。緑は、草が申し訳程度に生えているぐらいのものだ。精霊のバランスによるものなのか、はたまた遺跡から出る魔力か何かの影響なのか。真実は不明だったが、空気の乾燥からくる水分消費の増大は間違いない。
「の、喉乾いたなぁ……」
「我慢しろ、ヴァトルダー。ここで下手に消費しちまったら、帰りの水がなくなるぞ」
「まさかこんな山だったとはのう……わかっておったら、昨日の山の上り斜面に湧き出しておった水を汲んできたんじゃが……」
 重装備組のヴァトルダー、ローゼン、ダッシュが、かなり急な斜面を一歩一歩踏みしめながら登っていく。魔獣から己の身を守る金属鎧が、こんな時には恨めしい。
 だがしかし、ローゼンとダッシュの場合は『普通の』重装備だからその不平もわかるとして、ヴァトルダーは昨日の不眠に加え、背中にグレート・ソードを二本も担いでいるのである。まさに自業自得、言葉のかけようもない。
「お〜い、早く早く〜」
 遙か前方からフィップが手を振っている。それに応えて歩みを早めようとしたヴァトルダーは、砂に足を取られた。その顔が瞬時に青く染まる。
 一度足を滑らせてしまうと、あとはどうなるか。
 答え。落ちるところまで落ちる。
「うおおおおおお〜〜〜っ!!」
 斯くして、ヴァトルダーは回転落下を開始した。さらに運の悪いことに、途中でローゼンまでも巻き込む始末である。
「どっしぇ〜〜!!」
 それでもローゼンは必死に、手にしたロングスピアを斜面に突き立てた。鈍い音を立て、周囲に砂塵を撒き散らしながらその速度は徐々に減速されていく。そして、50メートルほど滑り落ちたところで彼の体は止まった。
 ところが悲惨なのはヴァトルダーである。主な荷物は袋の中に入れてある上、ローゼンと違って彼の武器は二本とも背中にある。転落中に武器を抜き取って、なおかつ突き立てるという芸当は不可能事に近かった。かつ、二本のグレート・ソードという存在は落下速度を加速するのに一役買っている。まさに不幸の象徴だ。
 結局彼は爪を立て、全身をもって摩擦力を生み出し、停止することに成功した。ローゼンという回復要員あっての芸当、という話もある。
「お、お〜い……ロープを投げてくれぇ」
 苦しい息の下でヴァトルダーは要請したが、最も近いローゼンとでも50メートルも離れている。そのように長いロープを持ち歩く奴はいない。
「それに、ロープを固定する場所もない。諦めて登ってきてくれ」
 ファリス神官のありがたいお言葉を受け、ヴァトルダーは泣く泣くパーティの待つポイントまで自力で登った。ここで彼は、ようやく治療を受けることができたのである。
 その後は慎重に、全員がまとまって──しかし、万が一落下したときに仲間まで巻き込まないよう、一定の距離を置いて──山頂を目指した。

「おい、ヴァトルダー、起きろ」
 最初に目を覚ましたのはローゼンだった。
 死んだように眠りこけるヴァトルダーに、彼が声をかける。その声で、まだ眠っていた他の仲間達も起き出した。
「あ……ローゼン、おはよう」
「ああ。……お〜いヴァトルダー、さっさと起きろ」
 二度目の呼びかけにも、赤毛の戦士はうんともすんとも言わなかった。あるいは既に目覚めていて、鄭重に無視しているだけかもしれない。
「……まったく、朝っぱらから手間かけさせるなよ……」
 彼らが野営した地点は、遺跡から目と鼻の先にある(と思われる)窪地だった。そこへ辿り着いた時点で日が暮れてしまったため、万全を期して野営することにしたのである。
 そして、今。遺跡を前にして幾分短絡的になっていたこのファリス神官は、ヴァトルダーを強制覚醒させることにした。瞑られたままの両瞼に掌を宛い、静かに祈りを捧げる。
「<ホーリー・ライト!>」
 そして呪文が放たれた。次いで起こるは──絶叫。
 静から一転して動へ、目を押さえてのたうち回るヴァトルダーを尻目に、ローゼンは何事もなかったかのように朝食の準備を始めていた。
 なお<ホーリー・ライト>とは神聖魔法の一つであり、掌から光を放射するというものである。本来の用途は邪なる存在・アンデッドへの攻撃なのだが、目眩ましとしても効果があるのでこういった使い方もできないわけではない。
「くっ……ろ、ローゼンだなあ?!」
「そんなことより、さっさと飯を食えよ」
 干し肉を口へ放り込みながら、平然と答えるローゼン。ヴァトルダーの付けた『腐れ神官』という肩書きもまんざら嘘ではない。
 ヴァトルダーはなおも何か言いたげであったが、諦めたのか五万ガメルの待つ未来を見つめたのか、気を取り直して食事を取り始めた。
 そして一行は、遂に目的の遺跡へと至る。ティグから聞いた話通り壊れた建物の残骸が転がっており、その一角にはなぜか傷一つ付いていない巨大な石柱があった。斜めに傾いて地面に突き立っているそれは(地上部の)高さが1メートルほどしかなく、大半の部分が地下に埋もれていることが想像できた。中心には正六角形の窪みがあり、これが問題の『鍵穴』なのだろう。
「あれを、ここに填め込むわけだな」
「そのようじゃな。では、この重大な役目をお前に任せよう」
 安全性のない行動は全てヴァトルダー任せであった。
「ちっ……まあいい」
 これで無事に光輝石を手に入れれば、五万ガメルが手に入る。その夢想がこの戦士を寛大にしていたのだろう、いつもであれば不平を連発する場面を、ヴァトルダーはすんなり終わらせた。
 マティキから借り受けてきた『鍵』が、填め込まれた。
 次の瞬間、地鳴りのような音が一帯を支配した。と同時に、石柱が地面に沈み出す。さらにヴァトルダーの立っていた辺りが左右に動き出し、彼は慌てて後ろへ飛び下がった。
 石柱が沈むのに合わせて、床は前後左右へ動いていく。さながらパズルのように床が動き回った後、一カ所に方形の窪みができていた。さらに振動はつづき、今度はその窪みの中から巨大な宝箱が迫り上がってくる。
 ただ、この宝箱にはおまけがついてきていた。上に、剣と盾とを身につけた骸骨の戦士が乗っていたのである。
「ひょっひょっひょっ、厄介なもんが出てきたようぢゃのう」
「ね、ねえダルス! あれってもしかして……」
「うむ。スケルトン・ウォリアーぢゃ!」
 竜の牙から創られるというそれは、魔術師の生み出すパペット・ゴーレムの中では最強のものである。
 宝箱が完全に地上へ現れ出た時点で石柱は完全に床と同化し、揺れも止まった。するとそれまで静止していたスケルトン・ウォリアーが、身軽に宝箱から飛び降りて周囲を見渡し、その視線を一行に向けた。
 そしてそのまま走って突っ込んでくる。
「ひええええっ! ヴァトルダー、何とかしろっ!」
「おうっ!」
 ヴァトルダーは以前とある遺跡で手に入れた聖剣(呪われているという話もあるが)を抜き放った。瞬間、全身に力が漲る。
「はあああっ!!」
 竜牙兵に肉薄したヴァトルダーが、渾身の力を込めて剣を振り下ろした。しかし骸骨の戦士は、その大振りな攻撃を難なく交わす。
 空振りしたことで危うくバランスを崩しかけたヴァトルダーは、どうにか踏み止まった。そして交わされた怒りも相俟って、更なる力で剣を繰り出す。
 今度は、盾で防ごうとした。しかし竜牙兵の思惑は外れ、赤毛の戦士の力は盾どころかその下の腕までも砕いてしまったのである。
「ふははは、弱い弱いっ!」
 一方、離れた場所からローゼンも神聖魔法で支援してきたが、こちらの方は然したる威力ではなかった。純粋な戦闘能力では、ローゼンのそれはヴァトルダーに一歩及ばない。
 竜牙兵は残された右腕でヴァトルダーを斬りつけてきた。それはかすり傷にはなったものの、致命傷とは縁遠いものであった。
 力の差を見て取ったか、ヴァトルダーは余裕の笑みを浮かべて最後の一太刀を浴びせかける。そして、鈍い音と共に竜牙兵は完全に砕け散った。
「ふっ」
 彼はグレート・ソードを軽々と振り回し、それを背中に収めた。珍しく絵になる勝利シーンである。
「ねえねえ、宝箱には何が入ってるのかなあ」
 しかし残りの連中の関心は、既に勝利者からは離れていた。ヴァトルダーの背に哀愁が漂っている気もするが、あくまで気のせいであろう。
「ふんふん……罠はないね。鍵もかかってないみたい」
「よし、俺が開ける」
「はいはい……」
 素直にヴァトルダーへ役を譲り、フィップは一歩下がった。
 ヴァトルダーは両手で蓋をしっかりと握りしめた。彼の体躯でもこの宝箱を開けるのはなかなかに大変である。
 鈍い音がして、宝箱がゆっくりと開かれていく。
 そして、中から現れた『それ』に、一行の目は点になった。

「……なあ、俺が思うにだ……」
 優に一分ほど経ってから、ヴァトルダーが遠慮がちに仲間へ問うた。
「これは、いわゆるその……『階段』だと思うんだが……」
「ああ。間違いない」
 頭を押さえて、ローゼンが答えた。
「まったく、この遺跡を造った人間のセンスが伺えるぜ……こんな『入り口』を造るたぁ、どんな神経してるんだ」
「そんなこと言ってもしょうがないよ。行くしかないんじゃない?」
 宝箱が巨大だったのは、別に中の宝が膨大な量だった、あるいは巨大だったからではない。単に人間が通れるスペースを確保するためだったのだ。
 思い起こせば、石柱同様に宝箱も斜めに迫り出してきていた。あれはつまるところ、階段の形に合わせて宝箱が移動していたのか……。
「……しょうがない、行くしかないだろう」
 ため息をついて、ヴァトルダーは地下遺跡への入り口に足をかけた。いくら入り口が間抜けだったからといって、今更引き返すわけにもいかない。
「<ライト>!」
 自身の頭部に明かりを灯して光源を確保し、先頭に立って中へ入っていくヴァトルダー。傍目にはなかなか滑稽なのだが、実は頭というのは意外に使えるポイントなのである。なぜなら、頭というのは体の各部の中でもっとも揺れの少ない部分だからだ。これをもし手や剣先に灯そうものなら、平時はいいとして戦闘時には光源が動き回り、視力が落ちること請け合いである。
 先頭のヴァトルダーに続き、ローゼン達も普段から決めてある隊列順に遺跡へと歩を進めていった。
 階段の先は水平な通路になっており、しばらく進むと道は前方と左右に分かれていた。いわゆる十字路である。
 遺跡の地図はあくまで『遺跡の所在を示したもの』であって、『遺跡の内部構造を示したもの』ではない。ここで悩んでも時間の無駄なので、一行はヴァトルダーの勘に従って左へと進んだ。
 その通路の先には、扉のような仕切のない部屋があった。入り口から内部を見渡すと、置くの壁に何かのスイッチらしい石が見えている。
 ヴァトルダーは一瞬考えた──あるいは考える振りをした──後、「ちょっと見てくる」と言って仲間の声も聞かず室内へ入り、無造作に石のボタンを押した。
 と、次の瞬間、部屋と通路を仕切る形で隔壁が下り、ヴァトルダーは仲間達と遮断されてしまった。そして状況を把握できないうちに床が音を立てて沈み、次に床が迫り上がってきた時には牛頭の怪物がその上に乗っていた。
「な、なんで俺ばっかり〜!!」
 そうは言っても、今回の場合はヴァトルダーに非がある。
 その頃、彼の仲間達は隔壁の向こうに消えた戦士を気遣っている──かと思いきや、座り込んで呑気に世間話をしていた。中へ介入しようにも、隔壁の開閉スイッチはどうやら室内にあるようなのでここからではどうしようもない。だからといって世間話をする理由にはならないのだが……。
「くっそぉぉっ!」
 孤立したヴァトルダーは、一人で眼前の敵を打破すべく再び聖剣を引き抜いた。
 一方の牛頭──ミノタウロスも、黙って斬られるのを待つほどお人好しではない。ヴァトルダーが体勢を整えないうちに突進し、戦士の最初の一撃をあっさり交わしてから後ろへ回り、丸太のような腕で締め上げた。
「ぐ……ぐるじい……」
 息もできないほどに締め付けられ、必死に藻掻くヴァトルダー。その足掻きが功を奏したのか、十秒後に彼はその腕からの脱出に成功した。そして振り向きざま、極めつけの一撃を繰り出す。
 魔物の絶叫が、石の密室に木霊した。
「……ふう、冗談じゃないぜ、まったく」
 ミノタウロスをただの一撃で切り伏せた戦士は、血糊を拭った後はたと自分の置かれた状況を振り返った。
「はて、どうやってここから出たものか……ボタンを押せば開くか?」
 フィップでも入れば自分よりはいくらかましな判断を下しているのだが、あいにく彼は部屋の外である。手当たり次第試すしかない。
 駄目で元々の気分でスイッチを押した彼だったが、意外にもあっさりと隔壁は開かれた。そして、緊迫感の欠片もなく話している仲間達と対面である。
「よっ、何もなかったようだな。じゃ、他へ行こうか」
「お、お前ら……」
 やるせない怒りに苛まれたヴァトルダーだったが、何か言ったところでどうせ言い返されるのが関の山だ。ここで彼はまたしても報酬の夢想に縋り、寛大さを見せることとなる。
「ええい、ちまちま探すのは止めだ! どうせ目的のものは正面にある!」
 何を根拠にしての言葉かは知らないが、ヴァトルダーは大股で最初の道を直進した。特に反対する理由もないから、一行も黙ってついていく。
 今度は、無意味に巨大な部屋に出た。地下にこれだけの空間を作るのだからそれ相応の理由があると思うのだが、そこには見事なまでに何もなかった。
「今度は、僕が調べてくるよ。ヴァトルダーよりは役に立つよ」
「おい、そりゃどういう意味だ……」
 そのままの意味である。
 フィップは壁や床を片っ端から調べて回ったが、やがて右の奥に近い壁を指して言った。
「この辺が……崩れそうなんだけど。向こうになにかあるかな?」
「どれ、わしが試してみよう」
 ようやく出番が回ってきたと、舌なめずりすらしてダッシュが壁へ向かう。なるほど、回りの壁に比べてみると、不自然に亀裂が走っている。それにドワーフなりの観点で見たところ、石の質も違うような感じだ──あるいは石でないのかもしれない。
 ダッシュはグレートアックスを振りかぶると、力任せに叩き付けた。凄まじい轟音を立てて、石の壁が木っ端微塵に砕け散る。
「やたっ! ダッシュ、凄い!」
 喜び勇んで開いた穴へ入ろうとするフィップを無言で押し止め、ヴァトルダーが先行した。何しろ光源を持っているのは自分なのだから、暗視能力のないフィップが先に言っても何も見えないのである。
「さて、何があるか……と、おお?!」
 ライトによって照らされた向こう側の空間に、キラリと光る物体が見えた。紛れもなく宝石、おそらくは『光輝石』と称されているそれに間違いない。
「やりい!!」
 五万ガメルに背中を押され、何の躊躇いもなく入っていく。その次の瞬間に彼が見たもの、それは──。
「あれ……マンティコアだよ!」
 部屋の真ん中に立った光源に照らし出された魔獣を見て、フィップが素っ頓狂な声を上げる。それもそのはず、冒険譚でしか聞いたことのないような魔獣が眼前に、それも二体もいたのだから。
『汝、何を求めてここまで来た』
「……なんて言ってやがるんだ、こいつらは」
 下位古代語を理解できないヴァトルダーに代わり、魔術師ダルスが穴の奥から答える。
「『何しに来た、お前ら』だそうぢゃ」
「ほ、ほっほう……じゃあ、『お宝だ!』と答えてやってくれ」
『マンティコアよ、「お宝を寄越しやがれ、うすらボケ」……と、そこの赤頭が言っておるのぢゃが』
 その回答を得て、魔獣達はなぜか嬉しそうに言葉を交わした。
『宝が欲しいそうだ、相棒!』
『すると、番人である我々はどうすればいいのかな、相棒!』
『もちろんこいつらを叩き潰せばいいのさ、相棒!』
 パーティの大半の理解の外でマンティコア達の会話は終結し、彼らは二体揃ってヴァトルダーへ襲いかかった。
「う、うおおおおおっ!!」
 反射的に剣を抜き、迎撃体勢を取る。しかし幾らヴァトルダーが(『聖剣』の力もお陰もあって)ずば抜けた戦闘能力を持っているといっても、マンティコア二体を敵に回しては分が悪い。
 ローゼン達の仲間は果敢にも部屋へ飛び込み、ヴァトルダーを救うべく──というよりは光輝石を入手すべく──マンティコアと対峙した。
 最終戦の開始である。
「ぬん!」
 先ほど壁を打ち砕いたダッシュのグレート・アックスが、マンティコアの背を捉えた。と、わずか数秒後には咆哮と共にその腕が噛み割かれる。
「ぬうっ!!」
「ダッシュ、無茶をするな! 接近戦はヴァトルダー達に任せろ!」
「そ、そうじゃな……」
 後退したダッシュと入れ替わるように、今度はフィップが前に出る。
 非力な彼の場合、直接攻撃を与えるのが前線に立つ主目的ではない。どちらかと言えば、ダルス達が遠距離攻撃を繰り出すための『時間稼ぎ』あるいは後方へマンティコアを行かせないための『盾』としての役割を果たすためである。
 そして彼は十分にその役を務めていた。俊敏なフィップの動きには、さしものマンティコアと言えどなかなかついていけない。その隙に、後方からはダルスの<ファイア・ボルト>やらローゼン達の<フォース>が飛来し、徐々にではあるがマンティコアの体力を削っていた。
「はあああっ!!」
 ヴァトルダーの剣が忌まわしき魔獣の肉体を切り裂く。この瞬間、彼の脳裏からは五十万ガメルが完全に消え去っていた。ただ、連携して迫り来るマンティコアを打ち倒すことだけに全神経が注ぎ込まれていたのである。彼の純粋な闘争本能だったのか、あるいは『聖剣』からの精神汚染だったのか、それは我々には知り得ない事だ。
 確かなのは、戦闘開始からきっかり一分と三十秒後、二体の魔獣が遺跡の床に並んで身を横たえたことである。

「ははあ……これが、その光輝石ですか……」
 <ライト>の光に翳して、ティグ・フィー・クレインがその輝きに見せられたようにため息をついた。
「いや、これは噂に違わず見事な宝石です……売るのが惜しいくらいですね」
 彼に宝石鑑定の能力はないから素人目での判断だが、それでもその素晴らしさは直感的にわかる。大人の握り拳大ほどもある(もちろん磨き上げられた状態で、だ)この宝石は、光にかざす角度によって虹色の色彩を放つのである。
「光輝石、確かに頂戴しました。では、これが報酬の残りです」
 ティグから渡された五つの小袋には、それぞれ何粒かの宝石が入っていた。
「五千ガメル相当の宝石が入っていますよ」
「え? でも、俺たちは前金で千ガメル……」
「ふふ、それはおまけ、です」
 満面の笑みを浮かべて、ティグは答えた。光輝石を持ち帰ったことに加え、一行のもたらした遺跡の調査報告──『二流詩人の語る英雄譚』──が、疲れた商売人の脳細胞を随分と刺激したらしい。
「それでティグさん、俺の報酬は……」
「ああ、君の分でしたら別に用意してありますよ。ただ、どうせ後で料亭に行くのだからということで、向こうの料亭の方に届けさせてあります。支払いが済んだ後で、その差額を……ね」
「そ、そうか。ならすぐ行こう、その料亭へ!」
 五万ガメルという大金を前にしたヴァトルダーは判断力を完全に失っていた。もし少しでも理性が歯止めをかけていれば、この時のティグの言葉に含まれた意味を察知できていたかもしれない。
 一時間後、二人はクレイン・ネットワークの直営店である料亭『栄華亭』を訪れていた。上流階級を対象にした店だけあって、上品な雰囲気が漂う店である。本来であればヴァトルダーには一生縁がなかったはずの店だ。
 ティグはウェイターの過剰なまでの応対を潜り抜け(ネットワークの総裁なのだから別に不思議でも何でもないのだが、彼はリップサービスというものを殊の外嫌がった)、窓際の席に二人は陣取った。
「メニューでございます」
「おう、サンキュー。……へえ、随分色々なものがあるんだなあ」
 その大半は、名前すら聞いたことのない品である。
 メニューを穴の空くほどじっくり眺めて吟味していたヴァトルダーは、ふと下の方にある『フルコースお試しコース』なるものに目を留めた。
「……なあティグさん、この『お試しコース』ってのは?」
「縮小版フルコースのことですね。いろいろな食べ物を、一通り味わっていただくためのコースです。お値段は、普通の『フルコース』のわずか4分の1ですよ」
「おっ、そりゃいいや。じゃ、それを頼むわ」
「畏まりました」
 ウェイターはティグの注文も控え、厨房へ下がっていった。
 ここでヴァトルダーはまたしても失敗を犯してしまった。もしティグが『フルコース』という言葉を口にしたときのイントネーションの違いに気付いてさえいれば、ぼや程度で抑えられていたかもしれなかった。
 だが、所詮は想像上の話。実際の彼はこのあと大やけどを負うことになる。
 運ばれてきた料理の味を涙すら浮かべて堪能するヴァトルダーを、総裁は自分の料理を口へ運びつつなぜか冷ややかな目で見ていた。
 そして、運命の会計が訪れる。
「25万ガメルです」
「……………………え?」
「いえ、『え?』じゃなくて、25万ガメルです、お客様」
「……ティグさん」
「おや? どうやら報酬だけでは賄いきれなかったようですね。しょうがない、私が立て替えておきましょう。報酬との差額は20万ガメルですか。ちゃんと払って下さいね。もしもし、ヴァトルダー君?」
 ──この時、彼の頭に一週間滞在した五万という数字は名残惜しそうに離れていき、代わって20万という数字が腰を落ち着けたという。

<教訓> うまい話、まずは裏があると考えましょう。
──ティグ・フィー・クレイン著『非常識人に捧げる言葉』より引用──
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