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りめんばー・くれいん

ベルダインへ帰還!

 一行はベルダインへ帰ってきた。魔術師どもに半誘拐的な形で連れ去られてから約十日が過ぎている(なんだ、まだそんなもんか)。
ヴァトルダー「おお、我がベルダイン。帰ってきたんだなあ……」
 こーらこら、お前がこの町の中に滞在したのは1日程度だろうが(掘っ立て小屋内での隠遁生活は勿論省く)。
ヴァトルダー「この前は見事に邪魔されて町を見学できなかったが、今度こそは……。ようし、まずは……」
 ヴァトルダー、思考中。思考中。思考中……。終わり。
ヴァトルダー「決めたっ。まず魔術師ギルドへ行く」
 おっ、以外とまともだねぇ。お前ならばもっとブッ飛んだ所を言うと思ったが。 ヴァトルダー「この刀身、さぞかし立派なものなんだろうなぁ……」
 なるほど、例の刀身を鑑定してもらうわけか。
フィップ「じゃ、行きますか」
 歩くこと少々で、目的の魔術師ギルドへ着いた。
ヴァトルダー「小さいな……。ロマールのよりずっと小さい」
 それは仕方あるまい。この町は芸術では秀でているが町そのものは大きくないのだから。
ヴァトルダー「こんなことなら、つぶさなけりゃよかったな……」
ローゼン「そういえば、そんなこともあったな……。ま、過ぎたことだ」
 それで済むことと済まないことが、この世の中にはある。
ヴァトルダー「では……あー、失礼する」
 本当に失礼だ。
受付「はい。ご用件をどうぞ」
ヴァトルダー「この刀身を鑑定してもらいたい。あと、指輪と腕輪も、な」
 そうだ。指輪と言えば、ヴァトルダーは前回の1個に加えて共通語魔法用のが5個(共通語魔法−コモン・ルーンとは、簡単に言えば古代語魔法を共通語に直したようなもんで、魔法の品−一般的には指輪−が発動体となる/で、5種類の魔法……ライト、エンチャントウェポン、等々……だから5個なわけね)、合計6個もの指輪を持っていて、これをどこにつけるかで悩んだことがある。片手に5個、もう一方の手に1個だ!と最初は言っていたが、まさか親指につける奴はいないだろう、という理由で4個と2個ということになった。
 話が本筋から脱線しているので、軌道修正をかける。
受付「はあ、わかりました。少々お待ちを……。ええと、500ガメルになりますが」
ヴァトルダー「ああ、わかった。ほれ」
 そう言うと、ヴァトルダーは懐から銀貨を出した。……ギルドで騒ぎを起こした時、借金以上の金まで盗んだな、お前……。
受付「確かに頂戴しました。では……。……(説明中)……です」
 これでは納得しませんね、多分。簡単に言いますと、刀身はそこそこの品で(といっても、この価値観はこのパーティの視点から見た場合であって、実際はとーってもいい品だ)指輪と腕輪はそれぞれ知力やら敏捷度やらがちょっと上昇する代物であった。どのくらいの物なのか数字上でも言えないことはないのだが、そうすると現実味がなくなると思うので、敢えて書かないことにする。ちなみに能力が上昇する指輪や腕輪は、2個以上併用できない。
ヴァトルダー「ふーん、大した物じゃなかったな、この刀身。こんなもんはいらん、邪魔なだけだ」
 そりゃ、グレートソードを2本も持ってりゃ邪魔だろう。さっさと売ったほうが身のためだと思うぞ。
フィップ「じゃ、これ、貰った!」
ローゼン「俺も、俺も」
ダルス「私も欲しい」
ヴァトルダー「ああ、欲しけりゃやるよ」
フィップ「ラッキー☆ ヴァトルダーってば太っ腹ー☆ じゃあ、3人で山分けだよ」
ローゼン「いいだろう」
ヴァトルダー「へ?山分け……って、そんな物割れないぞ」
 まだわからないのか?結構鈍いな、お前。
フィップ「おじさん、これ売ります!」
ヴァトルダー「!!」
 そうだよ、ヴァトルダー君。魔法の品物は、とーっても高いのだ。それを忘れてたなんて、このオ・バ・カ☆ である。
受付「はい。では、現金をお受け取り下さい」
フィップ「うん」
 フィップは、現金を受け取る……が。
フィップ「な!?」
 その金額、なんと10万ガメル!この後『ラッキー!』と思った奴は多々いるが、『しまったぁ!』と思ったものは一人しかいない。その一人とはヴァトルダーではなく、俗にGMと呼ばれる、神のような存在のものだ。
 タッタッタッ。足取りも軽く、フィップ達は出ていった。その後を、やつれ果てた顔でヴァトルダーが続く。

ヴァトルダー「フィップ様、どうかこの哀れな子羊に分け前を。お願いでございますよぉ、ねっ」
 後先のことを考えずに譲渡したお前が悪い。
ローゼン「だめだだめだ。なぁフィップ、さっさと分けようぜ」
ヴァトルダー「そ、そんなぁ」
 泣くな、ヴァトルダー。そのうちきっと、いいことがあるさ(保証はしないが)。
フィップ「あのさ、3万ガメルずつにしない?んで、後の1万ガメルをオランに残ったダッシュにあげるの」
ローゼン「うん、そりゃいい考えだ。……いい加減に泣きやめ、情けない奴だな」
ヴァトルダー「うううう……。そうだ、その1万ガメル、俺にくれ」
 こらこら、なんて図々しい。
フィップ「僕は構わないんだけどね、後の二人が……」
 首を横に振る。
フィップ「じゃあ、ダッシュには5千ガメルで我慢してもらうことにしようか。ヴァトルダーにも5千ガメルだけね」
ヴァトルダー「あ、ありがたやありがたや……」
ローゼン「甘いなぁ、フィップは。ま、構わないけどな」
ダルス「では、久しぶりに戻るか。オランへ」
 一行はオランへ戻ることにした。そこで、ローゼンは馬をとりに……。
ローゼン「だあああー! 餌をずっとやってなかったんだー!」
 ローゼンは走る、食品店へ。人参を買いあさり、ほったて小屋へ。
ローゼン「おお……ファリスよ……」
 これでローゼンが祈りを捧げたのは、通算3度目だ。そろそろプリースト技能を剥奪されようかというときに祈りを捧げる傾向がある。
 ルーザー号は生きていた。泉が近くにあったのが幸いした。痩せて衰弱しているものの、命に別状はない。
ローゼン「さ、たーんとお食べ」
 それから馬は、食った。食って、寝た。
 ……3日後。
 馬は復活した。
ローゼン「いやぁ……。本当に、よかった」
ダルス「やっと戻れるのか。まったく……」
 ヴァトルダーはこの間に、荷馬を一頭買っている。ローゼンのルーザー号よりずっと安い。
ヴァトルダー「これで旅が楽になるぜ」
 ああ可哀相に、名もなき荷馬君。これからは、君がヴァトルダーのあのクソ重い荷物を運ばされるんだね……。
 そんなこんなで、一行はようやくオランへ旅立った。

懐かしのオラン

主人「いらっしゃい……おっ!ヴァトルダーさん、ヴァトルダーさんじゃないか!いやぁ、懐かしい。今までどうしてたんだ?」
 冒険者の宿(1階は酒場)へ着いた一行は、早速主人に声をかけられた。
ヴァトルダー「よっ、おやじ。俺たちは、ロマールやベルダイン、果てはどこか遠くの魔術師の王国で大冒険をしてきたんだ」
 嘘つけ。最後のは認めるとして、ロマールで魔術師ギルドを潰したりベルダインで隠遁生活を送ったことのどこが大冒険だ。
主人「??はあ、そうですか。大変だったようですねぇ。おや、フィップさん、何か探し物ですか?」
 下でキョロキョロしているフィップを見て、主人が言った。
フィップ「ねぇおじさん、ダッシュ知らない?」
 なるほど、確かにダッシュは影も形もない。
主人「ああ、ダッシュさんですか。あの人は皆さんが行かれたあと、マティキって人の所へ行くって言い残されて出て行かれました」
フィップ「あ、なるほどね」
ローゼン「そういや、あの人にも随分会ってないな。ここらで会いに行くか。あの人ももうあまり先も長くはないだろうし」
 おいおい、それがプリーストの言う言葉か?
ヴァトルダー「行くにしても明日だな。今日は飲むぞぉー!おやじ、酒だ酒!どんどん持ってこい!」
 こうして夜は暮れていくのであった。

 翌朝。
主人「ヴァトルダーさん、もう昼ですよ。早く起きて下さい」
 フィップを除く一行は明け方まで飲んだあげく昼まで寝て主人を困らせていた(別にフィップだけが未成年だって言うんじゃないけど)。
ヴァトルダー「う……うーん……。……よう、おやじ。どうした?」
主人「だから、もう昼ですって。今日は出掛けるんでしょ?」
ヴァトルダー「……そうだったっけ?うーん……。あっ、そうだった。おいお前ら、さっさと起きろ!出掛けるぞ」
 さっきまで寝ていた奴がよく言う……。
フィップ「早く、早く」
ヴァトルダー「そう急かすな、まだ飯も食ってないんだから」
フィップ「食べたー」
ヴァトルダー「そりゃお前だけだろが!ごちゃごちゃ言わず、馬にでも飯を食わせてこい」
フィップ「はーい」
 立ち去るフィップの背中には、なぜか哀愁が漂っていた。

 食事を済ませたフィップ以外3人は、身支度をして宿を後にした。
ローゼン「頭が痛い……。目眩がする……。気持ち悪い……。キュアー・ポイズン」
 キュアー・ポイズンとは、体内の毒を消す魔法で、酔いを覚ますこともできる。うーん、便利。
ダルス「まったく、あの程度で二日酔いになるとは情けない」
ローゼン「だって俺、まだ18だぜ……」
 だああー、未成年のくせに飲むんじゃない!
ローゼン「そういや、まだワインが残ってたな。よっ……と。お、あるある。では、気分直しに一杯……」
 更に罪を重ねるな、破戒プリースト・ローゼン。
ローゼン「ぷはー、この一杯がたまらん。じゃあ、行くかな。今日も頼むぜ、ルーザーちゃん」
フィップ「早く行こう」
ヴァトルダー「あ、ああ……」
 一行は、ダッシュを求めて旅立つ……(んな大袈裟なもんじゃないか)。

あの人の復活

 一行は今、マティキ宅前まで来ている。
フィップ「おーい、マティキー、いるー?」
 ……シーン。
フィップ「変だな。ようし、忍び込んでみよう」
ローゼン「こら、人の家に勝手に……」
フィップ「あれ、開いてる」
 確かに、鍵はかかっていない。
フィップ「失礼しまーす……」
 入っていきなり、一行は愕然とした。
フィップ「う……あ……うわぁ!」
ヴァトルダー「ゲッ!何があったんだ、こりゃあ」
 床にはマティキが血まみれで転がっていた。
ローゼン「どけ!
 ……まだ息はあるな。助かるぞ! ……キュアー・ウーンズ・3倍!」
 魔法は、何倍かにして使うことができる。何倍かにすることによって、持続時間を延ばしたり、達成値を上昇させたりすることができる。今回の場合は、失敗する確率を下げるために3倍した(効果は3倍にはならない)。
マティキ「ぐ……ぐはぁ……」
ヴァトルダー「おっ、気がついた!」
ローゼン「ようし……キュアー・ウーンズ、キュアー・ウーンズ、キュアー・ウーンズぅ!」
 分けて使えば、効果は当然3回分だ。個人的には不条理だと思うのだが、戦闘の時など、失敗が許されない場合などがあるのでまあよしとしよう。
マティキ「ん……。おお、ヴァトルダー君。君達が助けてくれたのか……」
ヴァトルダー「いや。俺たちは血まみれのあんたを治療しただけさ。いったい何があったんだ?」
マティキ「ああ、そうだ!ヴァトルダー君、フォルは死んだはずだな?」
ヴァトルダー「んぁ? ああ、そのはずだぜ。俺たちが殺したんだ、まあまちがいあるまい」
 いきなり聞かれて、戸惑うヴァトルダー。
マティキ「死体は!?」
ヴァトルダー「……さあ。事後処理は警備兵に任せたからなあ。たぶん墓場に葬ってあるんじゃないか?」
マティキ「……わしはフォル達に襲われた」
ローゼン「何ぃ!?」
マティキ「間違いない。わしは奴のことを知っている。間違えるはずがない」
フィップ「ゾンビ……かな?」
ローゼン「馬鹿な!……絶対違うと断言はできないが」
 今までいろんなことがあったからねぇ。
ヴァトルダー「で、ダッシュはどうした!?あんたといっしょだったんだろ?」
マティキ「連れていかれたよ。フォルに、な」
ダルス「なあ、マティキ」
 今まで黙っていたダルスが口を開いた。
ダルス「たとえ衰えたとはいえ、あなたは手練の戦士のはずだ。おまけにダッシュまでいながらなぜ負けた?」
マティキ「わしゃまだ衰えちゃおらん! 奴ら、魔法を使いよったんじゃ。おまけにむちゃくちゃ強い戦士がおって、こっちの剣が通じん。これで勝てりゃ天才じゃ」
ダルス「理由はどうあれ、負けたんだな?」
マティキ「(グサッ)う……」
ダルス「しかも“兄者”の息子のダッシュをみすみすさらわれた……と」
マティキ「(グサグサッ)ぬぬ……」
 いじめてやるなよ、ダルス君。
マティキ「だが……だが責任はお前らにある!」
ダルス「へ?」
マティキ「フォルは、お前らを探してここへ来た。そして、いないとわかると仲間だったダッシュを連れ去ったんじゃ」
ダルス「(グサッ)な……」
マティキ「お前らが行き先さえ伝えておればこんな目に遭わなかったんじゃ。みーんな、お前らが悪い!」
ダルス「(グスグサッ)うう……」
 マティキ、反撃に出た!
フィップ「で、どこに連れてかれたの?」
マティキ「さあ……。以外と部屋の中にいるんじゃないかのう」
フィップ「冗談でしょ?じゃ、こんなとこに隠れてるの?」
 そう言ってフィップは机の下を覗き込んだ。
フィップ「んー……、……出たぁ!」
 フィップは慌てて飛び離れた。その途端、机の下から誰かが飛び出した!
シーフ「ちっ、ドワーフのくせに勘の鋭い奴だ!」
マティキ「あのー、冗談だったんじゃが……」
 あ。やっぱり。
シーフ「くそぅ、この人数差じゃ勝てそうにないな。お前たち、その命、しばらく預けておいてやる!」
 よくいるんだ、こう言う捨てゼリフを吐く奴が。
 言うが早いが、シーフは外へ飛び出そうとした。
ヴァトルダー「待てぃ!!」
 むんず。シーフ、あえなく御用。以外と手が早い(この意味、皆さんならどう取る?)ヴァトルダー。
ヴァトルダー「まだ帰るのは早いよ、シーフちゃ〜ん☆」
 ああ、ヴァトルダーに捕まったシーフの運命やいかに!

フォルの闇神殿

ダッシュ「う……こ、ここは!?」
 ダッシュは、暗く冷たい地下牢で目を覚ました。
ダッシュ「確か……フォルの亡霊を見たような……」
 そこへ、数人の男が入ってきた。
ダッシュ「お、お前はフォル!」
フォル「やれやれ、亡霊とは人聞きの悪い。私は生きてますよ。ダッシュさん……」
ダッシュ「な、何だと!?一体どういうことだ!」
フォル「あなたもプリーストなら、人を生き返らせる魔法の存在は知ってますよね。あれですよ」
ダッシュ「ふん、ふざけるな!どこにお前のような奴を蘇生させる奴がいる!」
フォル「闇司祭……ダークプリーストならどうですかね?」
ダッシュ「……まさか、いやしかし……」
フォル「紹介しておきましょうか、私の忠実な部下たちを。
 こちらがダークプリーストのハーダム。そして屈強のファイター、ベオディア。シャーマンのザーティ。最後にソーサラーのバーウェン。どなたも、とーっても強いですよ」
ダッシュ「……ほう」
フォル「私たちの目的は2つ。世界を混沌の中に落とし込むことと、……あなた方の抹殺です」
ダッシュ「お前ら、ファラリス信者か……。だが、それならばなぜ俺を生かしておく」
フォル「簡単なことです。あなたは他の方を呼び寄せる餌なんですよ。全員そろったところで、まとめて生贄にでもする……そういう寸法です。
 さんざん借りもありますからねぇ、ここらでそろそろ精算しませんと……クックック……」
ダッシュ「狂ってるな、お前は……」

シーフの自白

 シーフを捕まえてから三日後・オラン。
シーフ「知らねぇな」
 今、問題のシーフは、ダッシュの場所を聞き出すために留置場に捕らえられていた。お相手は鬼検事・バールス。先のクレイン・カコイン事件の際にヴァトルダーを捕まえ、無罪にもかかわらず極刑直前にまで追い込んだ男である。ヴァトルダーらが真犯人であるフォル・クレインを突き出し(死んでたけどね)、疑いが晴れてからは良き知り合いとなっている。
バールス「いい加減言っちまえ、おい。まったくしぶてえ野郎だな。三日も飲まず食わずで、よくやってられるもんだ」
ローゼン「ここへ来る道中にも、いろいろやってみたんですけどね」
バールス「時間がないんだろ? 確か、ダッシュの命に関わること……だったよな」
ローゼン「ええ。いったい今、どこで何をされていることか……」
シーフ「へっへっ……。今頃はきっと、生贄にでもなっているさ」
バールス「……吐いたな」
シーフ「へっ?」
バールス「お前、ダッシュの行方を知ってるな。でなきゃ、そんなこと言えねえよ。やっと俺の手腕が発揮される時が来た……」
 ゴゴゴゴ……。明らかに雰囲気が違う。
ローゼン「来るな……」
ヴァトルダー「ああ……来る……」
 ローゼンが、ヴァトルダーが恐れている。何かが起きる……。
フィップ「じゃ、じゃあ後は任せまーす。じゃ、そういうことで」
ダルス「我々はしばらく外に……」
 コソコソ。ギィー。バタン。タタタタタ……。
 ヴァトルダー達は逃げて(?)いった。今、密室には男が二人っきり……。
 数秒後。
 バキィ!! ボコォ!! バァン!! ドスッ!! ガッシャーン!!
ヴァトルダー「は、始まった……」
フィップ「シーフの奴、何分持つかな……」
ローゼン「持って20秒……だろ」
 15秒後。
 音は静まった。
 それから程なく、扉を開けて拳を値に染めたバールスが出てくる。
バールス「吐いたぜ。ここ(オラン)の地下道から西の方に、ファラリスの神殿があるらしい。そこだ」
ダルス「シーフは……?」
バールス「ああ……。この情報が奴の遺言だ……って言やぁ、わかるか?」
ローゼン「また……殺したのか……」
バールス「何、これでダッシュの命が救われるんだ。差引0だろ?」
 これはそういう問題ではないと思うが。
ローゼン「……まあ、死んだものは、俺にはまだ生き返らせられないしな。(スッスッ)ファリスの神よ、名もなきシーフを天に召したまえ」
 チーン。名もなきシーフ、死去。享年27歳。妻子なし。
マティキ「さ、ダッシュを奪回しに行くぞい!」
 あ、あんたいたの?

ベオディアVSヴァトルダー

密偵「……と言うわけで、ヴァトルダー一味は現在、ここを目指しております」
フォル「ご苦労。クックックッ、早く来いヴァトルダー……」
ベオディア「フォル様。私が出迎えて参りましょうか?」
フォル「……怪我はさせるなよ」
ベオディア「御意」

 地下道へ入って数時間後。
ヴァトルダー「……おい」
 ヴァトルダーが口を開いた。
ヴァトルダー「本っ当に道、間違えてないか?」
フィップ「さあ。何しろ、西だってことしかわかってないんだから。闇雲に歩いてるだけだからねぇ」
ローゼン「バールスさんがシーフを殺してしまったからな」
ダルス「……あれは?」
 ダルスが指さした方向には、広い闘技場があった。
ヴァトルダー「よし、行ってみよう」
 ヴァトルダー達が中央まで来たとき!
ベオディア「ようこそ、ヴァトルダー君。歓迎するよ」
ヴァトルダー「あ、こりゃどうも」
 あほか、お前はっ!
マティキ「フォルゾンビの配下のものだな?」
ベオディア「フォル様はゾンビではなぁいっ!!
 ……我が名はベオディア。ヴァトルダー、早速だが、一つお手合わせ願えるかな?」
ヴァトルダー「フッ、このヴァトルダー様に勝負を挑むとは大したものだ」
マティキ「ヴァトルダー、そいつがワシに傷を負わせた奴じゃ! はっきり言うておくが、強いぞ!」
ベオディア「おう、お前はあの時の……。まさか助かったとはな。まあいい。……勝負だ、ヴァトルダー!」
 ベオディアは着ていたマントを脱ぎ捨て、剣を抜き、鞘を放り投げた。グレートソードを使いこなし方からして、かなりの手練れである。
ヴァトルダー「では俺も」
 背中に背負った2本のグレートソードを下ろし、片方の剣を抜いて構えた。さっそく目が血走る。
ベオディア「ほう……それはただの剣ではないな。だが、そんなものを使ってもこの俺には勝てん!」
 ベオディアは走りだし、飛び上がって剣を振り下ろした。ヴァトルダーは剣で受け止めようとするが……。
ヴァトルダー「な!?剣が上がらない!」
ベオディア「もらったー!」
 ザンッ……!……プシュッ!ドックドック……。
ベオディア「鎧に救われたか。だが、もう終わりだな」
 ヴァトルダーの肩口からはおびただしい量の血が流れだしている。
ヴァトルダー「なぜだ……なぜ剣が上がらなかった……?」
ベオディア「教えてやろうか。その剣は殺気を感じない限り斬ることはできない……だろう?」
 下目遣いに問いかけるベオディア。
ベオディア「私から殺気を感じるか?お前たち」
ヴァトルダー「んなこたぁこの際どうでもいい! 血を……血を止めてくれぇー!」
 せっかくシリアスに来てたのに、この男は……。
ローゼン「キュアー・ウーンズ」
 ヴァトルダーの血はまだ止まらない。
ローゼン「こりゃ相当深い傷だなぁ。貴重な精神力が勿体ない。……キュアー・ウーンズ」
 ピタッ。
ヴァトルダー「ふぅ……あぁ、貧血だ……」
ローゼン「そんな事はいい! ……ベオディアとやら、なぜだ? なぜお前から、殺気が感じられない?!」
ベオディア「なぜと言われても困るんだが……。まあ腕の違いと言ったところだ」
ヴァトルダー「うー、クラクラする。……するってぇと何か、お前にはこの剣は通じんと?」
ベオディア「そういうことだ」
ヴァトルダー「厄介な奴と戦う羽目になっちまったな……。ローゼン、そっちの剣を取ってくれ」
ローゼン「ん?これか?……それっ」
 ポイッ。パシッ。
 ヴァトルダーは剣を持ち替え、構えた。もう一本の剣も、普通の剣より多少ではあるが強い。例の剣よりは多少弱いが。
ヴァトルダー「さあ、再開しますか」
 ヴァトルダーが飛び出した。
ヴァトルダー「うりゃあー!」
そのまま振り下ろす。
フィップ「……こりゃ、駄目だね」
 フィップが呟いた。
ベオディア「甘い!」
 ガッキーン!
ヴァトルダー「な、何ぃ!?」
 ヴァトルダーの剣は、軽く弾かれてしまった。
ヴァトルダー「何ちゅう力だ、お前……」
ダルス「力じゃない。その剣も魔剣だ。魔力を感じる」
 ソーサラーの魔法に、センス・マジックってのがある(魔法のオーラが見えるようになる)。
ベオディア「その通り。さて、ヴァトルダー君。君には失望させられたよ。もっとやるもんだと思っていたが……。こんな事では、フォルはおろか私にも勝てない」
ヴァトルダー「い……言っていいことと悪いことがあるぜ、おぅ兄ちゃんよぉ」
ベオディア「ほう……」
 ベオディアは、剣を持たないヴァトルダーの胸ぐらを掴むと、剣を首筋に当てた。
ベオディア「なんて言ったか聞こえなかったなぁ。もう一度言ってみろ」
ヴァトルダー「こ……降伏しまーす」
 こらー!

ダッシュ・脱出

 場所は変わって闇神殿の牢獄。
ダッシュ「そろそろいいな」
 足音が去っていくのを確かめたあと、ダッシュは言った。
ダッシュ「こんなもんで捕らえておけるものか。……フンッ!」
 ボコッ!
 ダッシュを拘束していた鎖が、壁の一部ごと引き抜かれた。
ダッシュ「武器は奪われているか……まあいい」
 ダッシュは牢屋の鍵を調べた。
ダッシュ「フ……。奴らめ、鍵を閉め忘れたな。こりゃ、いけるかな……」

フォル「逃げられた……だと?」
 兵士からの報告を受け、フォルは穏やかな、しかし強い口調で言った。
兵士「は……し、しかし、唯一の出口は兵士で完全に固めました。猫の子一匹逃すことはないかと……」
フォル「当然だ。万が一逃げられるようなことがあれば……貴様らを全員殺す」
兵士「は……はっ!」
 おーいフォル、逃げられたのはお前のせいだと思うが?

ダッシュ「おかしいな……なぜ誰もいない?」
 逃げだしてからかなりの時間が過ぎたのに未だに追手に出喰わさないことに、ダッシュは疑問を感じだしていた。
ダッシュ「もうばれてもいいはずだが……。誰もいないと、かえって不安だ」
 そのうち期待に添えますよ。
ダッシュ「な……何じゃ、ありゃ!?」
 ダッシュの眼前に広がるのは無数の兵、兵、兵。この神殿にいる全兵士が集まっている。よっぽど暇なんだろう。
ダッシュ「あそこに出口があるのか?まあ、どっちにしても避けられそうにないな」
 兵士の方も気がついた。
兵士A「あっ、あいつだ!それぇ、捕まえろぉ!」
兵士B「奴を捕まえれば、金一封だ!俺がもらった!」
 雪崩のように兵士が押し寄せてくる。
ダッシュ「……ザコにかまっている暇はない!」
 ダッシュはその群れに突っ込んでいった。
ダッシュ「うおりゃあー!」
 拳を繰り出すダッシュ。兵士は何人かまとめて吹っ飛ばされた。
ダッシュ「お前達、命が惜しければそこをどけ!」
 一瞬身を引く兵士達。その隙をついて、下に落ちている兵士の剣を掴んだ。
ダッシュ「軽すぎるな……」
 そう言って剣をブンブン振り回すダッシュ。
ダッシュ「さて」
 呟くと、ダッシュは再び兵士へ突っ込んでいった。
兵士「う……うわぁ!」

 1分後。
ダッシュ「やっぱりザコだったな……」
 あえなく全滅した兵士達を尻目に、ダッシュは去っていった。
ダッシュ「ティグに伝えにいくか……」
 ティグ・フィー・クレインに事件を知らせるため、ダッシュは地下道を進んだ。

ティグ・フィー・クレイン、動く!

 オランの地上、ティグの経営するクレイン・ネットワークの本部・地下(ああ、ややこしい)。ここで、大陸各地にある支部の支部長が極秘に集まっていた。
ティグ「今回、皆さんに集まってもらったのは、他でもありません。ここオランで、何かが起ころうとしているらしいのです。そうですね、リーハ?」
 リーハと呼ばれた女はティグの方を向いて答えた。
リーハ「はい。確証はありませんが、ここしばらくの間、何か邪悪なものを感じるのです。それも、過去に味わったような何かが……」
ティグ「と言うことです。それともう一つ、これは私しか知らないことだろうと思いますが……。まずその前に言っておきますが、我が兄、フォルの起こした事件は知っていますね? あれは、表向きは麻薬うんぬんのこととなっていますが、実は裏に、やたらとぶっ飛んだ計画があったんですよ」
 ティグの横に座っていたラエンという男が口を開いた。
ラエン「麻薬だけでも十分論外だと思うのだが……。それ以上のことがあるのか?」
ティグ「ええ。……但し、他言無用ですよ。兄が作ろうとしていたカコインは、ミースという草が材料なんですが……え? なぜ知っているか? そんなことはこの際どうでもよろしい。
 とにかく、そのミースから作ったカコインはやたらと強力でしてね。まあ一発で廃人になることはまちがいないですよ。これがそれなんですが……」
 そういって、ティグは懐から密閉された小さい袋を取り出した。
ラエン「ツ、ティグさん。そんなもん持ってたら、捕まりますよ!」
ティグ「だから他言無用だっていったでしょう?いや何ね、兄の部屋にミースの葉が少し残ってたもんで、興味本位で作ってみたんですよ。んで、死刑囚を一人拝借しまして、使ってみたんです。そしたら、まあ凄い効き目。一発で廃人ですよ」
ラエン「何ちゅうことするんですか、あんたは!」
ティグ「まぁまぁまぁ。で、問題の計画なんですが、3ヶ月ほど前に、皆さんに『まもなく、各地の王侯貴族の方に献上する品を送ります』と連絡しましたよね?」
ラエン「あっ、そういえばあれ、どうなったんだろ?」
リーハ「鈍いですね、ラエンさん。ティグ様、おそらくそれがカコインだったんでしょう?」
ティグ「そう、その通り。例の事件が発覚する数日前、兄に『この薬を各地の貴族に献上しなさい』と言われたんです。あの頃は私もまだ兄を信用していましたからね、何も疑わずに皆さんに連絡を出したんです。ところがまもなく警備兵が上がり込んできて、その“薬”がカコインだって言われて、まぁ驚いた驚いた」
リーハ「と言うことは、そのカコインを使って支配者階級を消してしまおうとしたのね」
ラエン「そうか……! そうなれば、世界は大混乱に陥る……」
ティグ「そう。あの事件の後いろいろと調べたんですが、兄はファラリス信者だったようです」
ラエン「こりゃ決定的だな」
ティグ「もうおわかりですね。兄の計画とは、世界を混乱の中に陥れることだったんですよ」
 こりゃすごい。
ティグ「では、やたらと前置きが長くなりましたが、本題に入ります。兄が死んで埋葬された夜、私は兄の墓参りに行きました。何だかんだと言っても、一応は同じ血を分けた兄弟ですからね。ですが……、墓が暴かれていたんです」
ラエン「何だって?」
リーハ「本当に血の巡りが悪いですね。死体がなくなってたっておっしゃっているんですよ」
ティグ「常識から考えて、墓を暴く者などいるはずはないですね。そんなことをしても、なんの意味も持たない」
ラエン「そりゃそうだ」
ティグ「ですが、兄がファラリス信者だったことを考えると……」
リーハ「なるほど、死体を運んだのは同じファラリス信者……」
ラエン「ほぉほぉ。だが、何の為にだ?」
ティグ「ファラリス信者、考えることは皆同じ、です。世の中を混乱に陥れるためには手段を選ばない、そしてその仲間は一人でも多いほうがいい。減られると困る……そんなとこでしょう」
ラエン「何かよくわからん理屈だな……」
ティグ「結論をいいましょうか。兄、フォルは生き返っているはずです」
ラエン「な!?」
リーハ「それが本当だとすれば、大変なことですわ」
ティグ「ええ。ただ、相手がどこでどうしているかがわからなければ、我々も動くことができない。そこでとりあえず、いつ何が起こってもいいように、ここに皆さんを集めたのです」
 偉いよ、あんたは。
ラエン「なるほど、支部長会議とは表向き……か」
ティグ「まぁそうおっしゃらないで。どうせ暇でしょ? 特にラエンは」
 図星を突かれたところのラエンの視線が、宙を泳いだ。
ティグ「そうですね、今回はまださほど大規模だとも思えませんから、ラエン、セダル、リーハ、それに私の四名だけで動くことにしましょう。後の方は、万が一のために待機しておいてください」
ラエン「一つ注文してもいいか?」
ティグ「何でしょう?」
ラエン「とびっきりの魔法の武器、あるか?」
ティグ「何でもありますよ。あなたに合うようなグレート・アックスも、ね」
 そう言ってティグは笑みをもらした。

 所は変わって神殿入口と闘技場の中間点あたり。
ダッシュ「ふう、まだ出られんのか」
 まーだまだ、先は長いよー。
ダッシュ「! 誰か来る!」
 ササッ! ダッシュは物陰に隠れた。
ダッシュ「誰だ……?」
 その答えはすぐに分かった(読んでる人はとっくにわかっているだろうが)。
ダッシュ「ヴァ、ヴァトルダー!あの馬鹿、どうしてこんなところに」
 今回に限って言えば、馬鹿は余計だ。
ヴァトルダー「!」
 ヴァトルダーの方も気づいたようだ。ベオディアはまだ気づいていない。
ヴァトルダー「ベ、ベオディアさーん。あれは何かなー?」
 うわずった声でヴァトルダーが言う。ベオディアもつられてそっちを見る。その隙をついて、ヴァトルダーは指で東の方を指した。東の方には出口がある。
ダッシュ「あっちに何かあるのか……?」
 勿論声に出しては言っていない。
ベオディア「おいお前、何もないじゃないか」
 腕の割に鈍いね、あんた。
ヴァトルダー「あ、いや、その……見間違えでしたー!」
ベオディア「下らん事をするな。そんなことをしても、逃げられはせんぞ」
ヴァトルダー「へぇ、ごもっともで(何を言ってやがる、バーカ)」
 ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ……。
 ヴァトルダー達はそのまま過ぎ去っていった。
ダッシュ「死ぬなよ、ヴァトルダー」
 ダッシュも逆方向へ走っていった。

 再び場所は変わって本部地下・武器庫。
ラエン「こりゃすげぇ代物だ!」
 思わず感嘆の声を上げるラエン。
ティグ「そりゃまあ、ここには“墜ちた都市”から発掘されたものをた〜んと揃えてありますからね。魔晶石のストックもけっこうありますし」
セダル「それ、俺、貰います」
リーハ「あ、私も」
ティグ「ええどうぞ。こんな時でもないと、使う機会もないですし」
ラエン「だったら、売っちまえばいいじゃねぇの」
ティグ「そこはそれ、大した物じゃなければともかく、滅多に見つからない代物なんかはとても売る気にはなれませんよ。魔晶石だって、ここにあるのはそこらに売っている物の魔力なんか比にならないような物ばかりです」
ラエン「……しかし、どれもこれもしっくりとせんな。ったく、こんなことなら、先に言ってもらえば自分のを持ってきたのに……」
ティグ「その点については謝ります。なにしろ結論に達するのが遅すぎたものですから……」
ラエン「お、このプレートなんか、むちゃくちゃ軽いじゃねぇか」
ティグ「あ、それですか。それはミスリル銀でできてます」
ラエン「い!?……そりゃ軽い筈だな。こいつはセダル、お前が持っときな」
セダル「はい」
ラエン「これなんか、そこそこ重いな。これぐらいが使いやすいか」
ティグ「さて、ではそろそろ上へ上がりましょうか。武器を運び上げて下さい」

 ティグ達が上へ上がってしばらく後。
ラエン「ティグさん、あんたに至急会いたいって奴が表に来てるぜ」
 外で気晴らしをしていたラエンが戻ってきていった。
ティグ「誰でしょうかね?」
ラエン「さあ。ボロボロになったドワーフでしたが」
ティグ「ふーん……」
 ティグが表に出ると、ダッシュが待っていた。
ダッシュ「め、飯をくれぃ!」
ティグ「はぁ?」

 ダッシュは、出された食事を凄まじい勢いで食べ終えた後、例のことをティグ達に話した。
ダッシュ「……てなわけで兵は全滅させたんだが、まだ強そうなのが何人かいる」
ティグ「そうですか、やはり兄は……。わかりました、すぐに行きましょう」
ダッシュ「えっ!?」
ティグ「何を驚いているんです?ヴァトルダー達が捕まったんでしょう? 一刻の猶予もありません」
ダッシュ「いや、そうじゃなくて、あんた方が戦うってのは……」
ティグ「あれ、いいませんでしたっけ」
ダッシュ「何を?」
ティグ「ここにいる支部長は、戦いのエキスパートなんですよ。それに私自身もソーサラーですし」
ダッシュ「そ……そうだったのか!?」
ティグ「そうだったんです」
 ティグはニヤリと笑った。
ティグ「さて、まいりますか。ファラリスに魂を売った兄を叩き潰しに」

決戦・VSフォル

フィップ「僕たち、殺されるのかな?」
ローゼン「縁起でもないこと言うな!」
 さっきまでダッシュがいた牢屋の中にヴァトルダー達は入れられていた。
ヴァトルダー「心配いらん。さっきダッシュが逃げだした。もう誰かに連絡がいった頃だろう」
ローゼン「えー!?そんな大事なことを何で今まで黙ってたんだ!」
ヴァトルダー「誰があんな状況でそんなことを言えるか!」
ローゼン「それもそうだな……」
マティキ「あいつだけでも助かったんなら、もうわしは思い残すことはない」
 そこへベオディアがやって来た。
ベオディア「お前ら、出ろ。フォル様がお呼びだ」

フォル「やあ皆さん、ご機嫌よう。その節は私を殺して下さって、どうもありがとう」
 とてつもなく皮肉な言い回しだな、フォル。
ヴァトルダー「ふっ、火葬にすべきだったな」
フォル「ほほう、言ってくれますね。しかし手遅れでしたな。代わりにあなた方を火葬にして差し上げましょう。ではベオディアさん、やっておしまい」
ベオディア「はっ」
ヴァトルダー「……お前ら二人だけか?ここにいるのは」
フォル「ええ、そうです。もっとも、私はすぐにここを去りますから、ベオディア一人になりますね」
ヴァトルダー「そいつぁラッキー☆」
フォル「さあ、どうでしょうか。ではベオディアさん、後は頼みますよ。首だけは持って帰って下さいね。御供物にしますから……。では、例の場所で」
ベオディア「……御意」
 言い残し、フォルは去っていった。
ベオディア「では始めるか。お前らの武器はそこに置いてある。取って私と戦え」
ローゼン「なぜ渡す?」
ベオディア「無抵抗の奴をいたぶっても仕方がないからな」
ローゼン「後悔するぜ……」

ダッシュ「ちょっと待ったぁ!」
 勢いよく扉を開け、ダッシュ&ティグ一味が乗り込んできた。
ベオディア「お前は……!」
ティグ「フォルの弟、ティグ。兄はどこにいる!」
ベオディア「勝てれば教えてやる」
ティグ「あ、生意気。ラエンさん、やっておしまい」
ラエン「では……」
 ティグの言葉を受け、ラエンはベオディアに突っ込んでいった。
 ガギィーン!!
ベオディア「ムン!」
 ラエンの繰り出すグレートアックスをベオディアのグレートソードが受け止める。
ベオディア「なるほど、大したパワーだ。では、今度はこっちから行くぞ!」
 プスッ。
ベオディア「な?」
 鎧の継ぎ目にダガーが刺さっている。
フィップ「ベぇーだ!」
 こいつだな、やったのは……。
ベオディア「小癪な……!」
 憤慨するベオディア。ま、当然だな。
ベオディア「! 誰だ!」
 背後に気配を感じ、叫ぶベオディア。しかし、時既に遅し。
ローゼン「……ホーリー・ライトぉ!」
 ピカッ!
ベオディア「んぎゃーっ!」
 絶叫するベオディア。
ヴァトルダー「効くんだ、これが」
 経験者は語る。
ヴァトルダー「では……やりますか、皆さん」
 全員武器を構える。……バキバキッ!
ベオディア「うぎゃー……」
 ……シーン。
 集中砲火を受け、ベオディアはあえなく息を引き取った(こんな終わらせ方でいいのだろうか)。チーン。
ヴァトルダー「ふっ、呆気ない奴だったぜ」
 多勢に無勢は卑怯だと言うが、これはその典型的な例である。
ティグ「……兄には逃げられましたか……」
 辺りを見渡し呟くティグの声には、やるせないものが含まれていた。

エピローグ

ティグ「とりあえず、最悪の事態は避けられました。ありがとう」
ヴァトルダー「いやいや、今回に限って言うと、俺たちはな〜んにもしてない」
 まったく、まともな戦闘ってやつがなかったな。
ティグ「当分の間は何もないでしょう。ゆっくり骨休めでもしておいた方がいいですね」
ローゼン「ああ、そうする。で、あんた達はどうするんだ?」
 そう言ってローゼンはラエン達の方を向いた。
ラエン「ああ、俺たちか? 当分、ここにいることになるだろうな。フォルの居所も突き止めねぇといけないし。
 ま、何かあったら来てくれ。できることなら相談に乗るぜ」
ローゼン「ああ、そうする。じゃ、ティグさん、俺たちは宿にいるからな」
ティグ「はいはい。では、また今度」
ヴァトルダー「じゃあな。……ったく、またティグさんに騙されそうだぜ」
 いいんじゃない?
 そういうわけで、一行はとりあえず解散した。

フォル「ベオディアが……死んだ?」
ハーダム「はい。ティグらが加わって、タコ殴りにしたようです」
フォル「で、死体は?まだ生き返らせることはできるのか?」
ハーダム「そ、それが……」
 ハーダムは言いにくそうな顔をし、持っていた袋から骨を出した。
フォル「ま、まさか……」
ハーダム「は……はい。これがベオディアで……」
フォル「くぅ……」
ハーダム「それと、こんな物が現場に落ちていました」
 ハーダムは懐から一枚の紙切れを取り出した。
フォル「何……? ……な、何だとぉ!」
 フォルはその紙切れをズタズタに切り裂いた。
フォル「おのれヴァトルダーめぇ! 今度こそ、必ずこの手で殺してくれよう!」
 紙切れにはこう書いてあった。
“やっフォル君 君が逃げるからこんなことになったんだよ
 あ そうそう ベオディア君はちゃんと火葬にしてやったからね 感謝しな 次はお前の番だぞ ハッハッハッ…… ヴァトルダーより”


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