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ユセリアスの神殿・2

出発

 翌朝。
ローゼン「ティッグさーんっ!」
 ティグ宅。
執事「おや、ローゼン様。どうなさいました?」
ローゼン「あ、執事さん。ティグさん、どこにいるの?急用があるんだけど」
執事「旦那様は、現在オラン郊外の広場におりますが」
ローゼン「どこ?それ」
執事「少々お待ちを」
 一旦屋内へ入ったあと、一枚の紙を持って再び出てきた。
執事「これが地図です。この、赤い印のところにいらっしゃるはずですよ」
ローゼン「ありがとう。すぐ行ってみるよ」
 ローゼンは執事に別れを告げ、その場所へ向かった。

 目的地に向かう途中、ヴァトルダーとローゼンは大勢の人に出会った。皆、目的地の方から逃げてきている。
ヴァトルダー「おい、何かあったのか?」
 ヴァトルダーは、逃げてくる男の一人に声をかけた。
通りすがりの男「も、モンスターだ!とにかく大きくってよぉ、ありゃあきっと、ドラゴンっちゅう奴だ!!」
ヴァトルダー「何?ドラゴン、だと?」
 ヴァトルダーの眉がピクン、と動く。
通りすがりの男「とにかく、あんたも逃げたほうがいい!」
 そういうと、男は一目散に走っていった。
ローゼン「……どう思う、ヴァトルダー?」
ヴァトルダー「行ってみりゃわかる」
ローゼン「そりゃそうだ」

ローゼン「ぜぇ……ぜぇ……あれか……?」
 あのあと、己の体力も考えず、クソ重い鎧を装備したままぶっ通しで走ってきた二人。まもなく筋肉痛になるであろうことは、目に見えている。
ヴァトルダー「はぁ、はぁ……そ、そのようだな……」
ローゼン「ぜぇ……ま、ドラゴンに見えなくもない、か……」
ヴァトルダー「……しかし、これでティグさんがあそこにいるのは間違いないな」
ローゼン「ああ」

 ティグ(+グラスランナー+エルフ+ドワーフ)は、平原のど真ん中で、上を見上げていた。その視線の先には……例のエキュ君が。
ヴァトルダー「おーい、ティグさーん!」
 ようやく二人が到着した。
ティグ「やぁ、ヴァトルダー君にローゼン君」
ローゼン「あ、そうだ。どうもこの度は、結構な物をいただきまして」
ティグ「いえいえ。でも、交渉に随分苦労しましたよ」
ローゼン「そりゃ、どうもすいませんね」
ティグ「いえ、構いませんよ。ところでお仕事はもう終わったんですか?」
ローゼン「いや、そうじゃなくてですね。ちょっとエキュ君が必要になりまして」
ティグ「仕事で、ですか?」
ローゼン「ええ」
ティグ「エキュ君はすぐに要るんですか?」
ローゼン「まあね。ま、依頼人を呼んでないから、今すぐって訳じゃないけど」
ティグ「では、先に使わせてもらいますよ」
ローゼン「ああ、どうぞ。じゃあヴァトルダー、あの人を呼んできてくれ」
ヴァトルダー「え?アレクラストさん……だっけ?」
ティグ「大陸が依頼人(?)なんですか?」
 怪訝そうな顔つきで、ティグが聞く。
ローゼン「馬鹿、違うだろ!え……と、アルストレイト……っつったっけなぁ」
ティグ「何だ、あの人ですか」
ヴァトルダー「あれ?知り合い?」
ティグ「昔、一緒に冒険した仲ですよ。いやぁ、懐かしい名前ですねぇ」
ローゼン「へぇ、そうだったんだ。……あ、そうだ。あの人、大賢者と称しているけど、本当なんですか?」
ティグ「うーん、そうでもあり、そうでなくもあり……」
ローゼン「どっちなんです?」
ティグ「あのですねぇ、知識が思いっきり偏っているんですよ。彼が研究してたのは、古代の遺跡と、そういう場所にいるモンスターなんかでしてね。そういうことの知識については長けているんですが、何というか……一般常識みたいなものが欠けてるんですよ」
ローゼン「例えば、どんな?」
ティグ「そう、ワイバーンについて言えば……それの知識……翼があるとか、そういったことは知ってるんですが、ワイバーンの恐ろしさというものを知らない……といったところです」
ローゼン「そりゃ、大いに問題があるぞ」
ティグ「ええ。彼の護衛は、結構大変だと思いますよ」
ローゼン「心に留めておきます」

フィップ「ティグさーん、準備が出来たよぉ!」
ティグ「そうですか。ではダッシュさん、ちゃーんと調査をしてきて下さいね」
ダッシュ「うむ、任せられい」
フィップ「あのぉ、僕とダルスは?」
ティグ「ニコニコ(フィップ君とかダルスさんに頼むと、どうも不安なんですよねぇ)」
フィップ&ダルス「???」
 笑顔の意味がわからないフィップと、何も考えていないダルス。
ティグ「じゃ、頑張ってきて下さいねぇ!!」
 エキュ君の上の3人に言うティグ。
フィップ「任しといて!では!エキュ君、レッツ・ゴー!!」
 バサァッ!!
 翼を羽ばたかせ、エキュ君+3人は大空へ舞い上がった。
ティグ「……はぁ……。行ってしまいましたね」
ローゼン「ところでさ。エキュ君でないと行けないとこって、一体どこなの?」
ティグ「教えてあげましょうか?」
ローゼン「たぶん、竜の神殿でしょ?」
ティグ「……何でわかったんです?」
ローゼン「アルストレイトさんが、目的地は竜の神殿だって言ってたからな」
ヴァトルダー「ティグさん、何なんだ?その竜の神殿っつーのは」
ティグ「竜の神殿っていうのはですね、ユセリアス山脈の中腹にある神殿のことですよ」
ヴァトルダー「ユセリアス山脈……っつーと、ここから西の方角だな」
ティグ「ええ、そうです」
ローゼン「結構遠そうだな」
ティグ「ま、それなりには。なにしろ、人間ではそう簡単に行けませんからね、あんなところ。でも、エキュ君を使えば、そんなにかかりませんよ」
ヴァトルダー「確かに」
ティグ「ところで、あなた達とアルストレイトの他に、誰か行くんですか?」
ヴァトルダー「そうだなぁ……ソローは連れていくつもりだが……」
ティグ「……死んじゃっても、生き返らせる金は出しませんよ。そーいう無茶をさせるんなら」
ヴァトルダー「だいじょーぶだって」
 ……そうか?
ティグ「ものは相談なんですが、一人連れていってもらえません?」
ローゼン「まさか……」
ティグ「何です?」
ローゼン「ラエンさんあたりが、『うおぉーっ、暇だぁーっ!』なーんて吠えてて、厄介払いに連れてってくれ、なんて言うんじゃないでしょうね」
ティグ「近いんですけど、ちょっと違いますね。ラエンはね、ここんとこ、ほら、ずーっといろんな所についてきてたでしょ。で、その間に支部の業績がガタ落ちしちゃいましてね、いまは支部でたまりにたまった仕事をヒーヒー言いながら片づけてますよ」
ローゼン「(そ、想像できん……あの人がそんなことをしてる姿なんて……)」
ティグ「連れてってほしいのはそっちじゃなくて、リーハの方です」
 ピクンッ!
 ヴァトルダーの耳が動いた。
ティグ「ヴァトルダー君があっちこっちへソローちゃんをほったらかして遊び回っている間、ずっとリーハにソローちゃんの面倒を見させていたんですがね、この前とうとう切れちゃいまして。『私は保母さんするためにこんなところにいるんじゃありませんっ!!気晴らしにどっかへ遊びに行かせて下さいっ!!』って言われちゃいましてね。本当はフィップくん達に同行させるつもりだったんですが、ちょっと都合がありまして」
ヴァトルダー「で……俺達に同行させてやってくれ、と言いたいんですね☆」
ティグ「何です、そのハートマークは……。それに、妙に嬉しそうですね。あ、ローゼン君も」
ヴァトルダー「だってさぁ、一連の話の中に出てきた女性って、リーハさんとソローだけだもんな」
ローゼン「そーそー。まさに『女人禁制・男の花園』って感じだよな、この話」
 貴様ら、あとで覚えとけよ。
ヴァトルダー「この前の話じゃ、リーハさんはオランに残って出てこなかったし」
ローゼン「かわりにグプターさんみたいなおっさんが出てきたし」
 と、ここでヴァトルダーはふと思いついた。
ヴァトルダー「そーいや、あの国はあの後どうなったんだ?」
 あ、話が逸れる……。
ティグ「いやぁ……それがですね」
 ティグが言いにくそうに話した。
ティグ「ほら、墜ちた都市・レックスってのがあるでしょ?クルカには、カストゥール王国の技術が残ってたらしくてね、グプター王は、第二のレックスを作るっていう夢を持ってまして、自分が王位についたらクルカの上空に空中都市を作るつもりだったんですよ」
ローゼン「で、その計画は実行されたのか?」
ティグ「はい」
ヴァトルダー「で、その結果は?まさか成功したとか?」
ティグ「失敗しちゃいました」
 あっさり言えることか?
ティグ「もし成功したなら、私がさっさと賢者の学院に報告してますよ」
ローゼン「てことは、空中都市になる予定だったものは、浮かなかったんだな?」
ティグ「いえ、浮きましたよ。けど、すぐに力を失いましてね。空中都市は呆気なく落下、クルカ島の大半が消し飛んじゃいました」
ヴァトルダー「あややや……そりゃ悲惨だな」
ローゼン「それじゃあ、クルカに住んでいた人は……全滅?」
 深刻そうな表情で訪ねる。
ティグ「いえ、一部の人を除いて無事でした」
ヴァトルダー「なぜだ?」
ティグ「グプター王は、国民を一応避難させといたんですよ。王の趣味で国民が全滅だなんて、シャレになりませんからね。もっとも、島が消し飛んじゃいましたから、帰る場所がなくなりましたけど」
ローゼン「うーん、偉いっ!さすがグプターさん」
ティグ「その言葉、本人に聞かせたかったですねぇ……」
 遠くを見つめて呟く。
ローゼン「もしかして……」
ティグ「グプターさんは、即位後わずか10日で、チャ・ザの元に召されました」
 別にチャ・ザと決まったわけでは……。
ローゼン「あらら……」
ティグ「では皆さん、ご一緒に」
『合掌』

 ……では、話の軌道を修正して、と。
ヴァトルダー「で,リーハさんを連れてってもいいんだな?」
ティグ「ええ……というより、こっちからお願いしたいんですが。でも、なんとなくお二人に預けるのが不安になってきたんですが……」
ローゼン「心配ないって。じゃ、リーハさん、貰っていくからね☆」
ティグ「貰う……って、あんた、嫁にやるっていうわけじゃないんですから……」
ヴァトルダー「まあ、いいからいいから、安心しろって、ティグさん。リーハさんは、大事にするから、ね☆」
ティグ「断っときますけどね。リーハが本気を出したら、あなた、殺されますよ」
ヴァトルダー「なーにをまた。なんで女に、しかもプリーストに負けるんだよ、戦士のこの俺が」
ローゼン「俺にこの前負けたくせに」
ヴァトルダー「……さ、ソローとリーハさんとアレクラストさんを迎えにいくか」
ローゼン「誤魔化すな……。それに、アレクラストじゃなくアルストレイトだろうが」

 その日の午後。
アルストレイト「くれぐれも言っとくが、中のものを傷つけてはならん。破壊するなど論外だ」
 歩きながら話をするアルストレイト。
ローゼン「わかってますってぇー、アルストレイトさーん」
 へらへら。
ヴァトルダー「そーそー、何度も言わなくたって、俺たちゃプロなんだから、安心しなさいって」
 へらへらへら。
 二人の視線の先には、言わずとしれたリーハがいる。
アルストレイト「(ムカッ!)……これでどうだ!」
 なんとなく無視されて寂しいアルストレイトは、二人とリーハとの間に割り込んだ。
ローゼン「どぉっ!……い……いかんいかん、何を考えてるんだ俺は!仮にも聖職者たるこの俺がこんなことでどーする!?」
 それはこっちが聞きたい。
ヴァトルダー「どけい、じじい」
アルストレイト「だ……」
 手に持った杖を振り上げるアルストレイト。
アルストレイト「誰がじじいだ、誰が!!」
 ばこぉっ!
ヴァトルダー「(じーん)……やりやがったなぁ!てめぇ!」
アルストレイト「おうっ、やったぞっ!」
ヴァトルダー「ゆ……許さんっ!!」
 言って超強力絶対無敵剣に手をかける。
ヴァトルダー「死ねぃ、じじい!」
 こん。
ヴァトルダー「リ……リーハさん……?」
 後ろには、木の棒を持ったリーハが立っていた。
リーハ「やめましょう、二人とも。ね☆」
ヴァトルダー「はーい☆」
アルストレイト「こ……このガキだきゃあ……」
リーハ「そちらの殿方も、ね」
アルストレイト「……婦女子の言うことは聞かねばなるまい……」
ティグ「(所詮、二人ともただの女好きですか……。ま、男好きよりはましですけど……)」
ローゼン「ところでさ、ティグさん。エキュ君をどーやって呼ぶんです?コントローラーはフィップが持ってるし」
ティグ「……し、しまったぁ!!」
ローゼン「まさか、何も考えてなかった、とか……?」
ティグ「……正解です……」
 こんなことで正解しても、嬉しくはない。
ティグ「まあ……何とかなるでしょ?」
ローゼン「なんない」
ティグ「ううっ……そ、そんなに私を責めなくったって……」
 さめざめと泣くティグ。
アルストレイト「ところでクレインよ」
ティグ「なんですか、旧友」
 一瞬で元の調子を戻す。
アルストレイト「お前はなぜ着いてこない?我々にとって、神殿の探索が夢だったじゃないか」
ティグ「いやあ、行きたいのはやまやまなんですけどねぇ」
 ティグが苦笑いをする。
ティグ「しばらく仕事を部下に任せていたら、派閥……っていうんですか?そういうのがネットワーク内にできちゃいましてね。しばらくはここを離れられないんですよ。下手すりゃ、クレイン・ネットワークが分裂しちゃいますからね」
アルストレイト「しかし、この機会を逃したら、一生行くことはできんかもしれんのだぞ」
ティグ「神殿は逃げたりしませんよ」
アルストレイト「しかしなぁ。もし、ここの馬鹿戦士(=ヴァトルダー)が神殿を破壊してしまったらどうする?」
ティグ「そ……それは十分ありえますねぇ」
 ヴァトルダー達の信頼度、0。
アルストレイト「夢をとるか、現実をとるか。それはお前次第だ」
ティグ「……夢っていうのはね、実現しないからこそ価値があるんですよ」
アルストレイト「……そうか。それも一つの考え方だろうな」
ティグ「しかしながら、夢は実現するためにこそ存在する、という考え方もありますし……」
 結局どっちなんだ?
ティグ「弱りましたねぇ……。じゃ、こうしましょう」
ヴァトルダー「なんだ?」
 ヴァトルダーも、一応気になるらしい。
ティグ「この、エキュ君が帰ってくるまでに何日もありますし、暇な時間を利用して決闘してもらいましょう。そして、ヴァトルダー君が勝ったら、行くことにしましょう」
ローゼン「その決闘をする人って、まさか……」
ティグ「はい、ご推察の通り、あなたたち二人です」
 うーん……。
ヴァトルダー「そりゃ、いつかは昔負けた時の仕返ししたいと思っちゃいたが……」
ローゼン「別に、今戦ったって、俺たちになんの利益もないしなぁ」
ティグ「……私が報酬を出しましょうか?」
ローゼン「金ならいらんぞ」
ヴァトルダー「俺もだ。こんな時にもらっても仕方がないし……」
ティグ「ちっちっち。甘い、甘いですよ。報酬はなんと!ココア10杯現物支給!!」
ヴァトルダー&ローゼン『誰が、そんなもんで決闘をするかぁ!!』
 ばきゃあっ!!
ティグ「ううっ……かるーいジョークじゃないですか……」
ローゼン「で?本当の報酬はなんだ?」
ティグ「その前に、あなたたち、リーハは好きですか?」
ヴァトルダー「そりゃあ、愚問っつーもんだ。連載開始から通算二人しかいない女性で、しかもそのうちの一人はお子様だというのに、嫌いだという奴がいるか?」
ティグ「ロリコンのあなたには、ソローちゃんの方が……」
ヴァトルダー「俺はロリコンじゃなーいっ!!」
ティグ「そっ……そうですか?じゃ、ローゼン君の方は?」
ローゼン「俺も勿論キライじゃないが」
ティグ「よろしい。じゃ、報酬は決まりですね。お二人のうち勝ったほうに、リーハをあげましょう」
リーハ「ティグ様、そんな無茶苦茶な……」
 ゴゴゴゴ……。
ヴァトルダー「……うおおおっ!!ローゼンっ、俺の未来の妻のために死んでくれっ!!」
ローゼン「ぬぁにをおっしゃる!それは、俺のセリフだぁっ!!」
 おおっ、二人が珍しく燃えている!
ティグ「いやー、おもしろいものが見られそうですねぇ」
 こ……こいつ……。
ティグ「じゃ、勝負は明日の昼から、場所は例の広場で。二人とも、しっかり体を休めといて下さいね」
 横では、ソローとリーハが白い目でティグとヴァトルダーとローゼンを見ていた。

ティータイム2──リーハを賭けた戦い──

 翌日、太陽はいつものようにサンサンと輝いていた。
 二人は30メートルほど離れて向かい合っていた。
ヴァトルダー「フッ。手加減はせんぞ、ローゼン」
ローゼン「俺もだ。安心しろ、お前が傷をおっても、腕が吹っ飛んだりしない限りは責任を持って治療してやる」
ヴァトルダー「はっはっはっ、治療が必要になるのはお前じゃないのか?」
ローゼン「ハッ、減らず口を叩いて……」
 バチバチィッ!
 よくあるパターンだが、二人の視線が火花を散らす。
ティグ「おおーっ!これこれ、この迫力ですよ、私が求めていたのは!」
 すでに、自分が神殿に行くかどうかを決めるという当初の目的を忘れているティグ。
ヴァトルダー「……行くぞ!!」
ローゼン『偉大なるファリスよ、我に力を……!』
 神聖魔法の咏唱に入るローゼン。
ティグ「ローゼン君の力なら……」
リーハ「フォースあたり、ですわね」
 ティグも一応ラーダを信仰しているし、リーハに至ってはマーファの高司祭なので、どちらも神聖語は理解できる。ちなみに、もしここでリーハならば、上位の呪文であるフォース・イクスプロージョンを使っている。
ローゼン『フォース!』
 ……しーん。
 ローゼンの指から衝撃波が……放たれなかった。
ティグ「……おや?」
ローゼン「そんなーっ!こ、この大神官ローゼン様がよもやしくじろうとは……っ!」
ヴァトルダー「うははは、死ねぇい!!」
ローゼン「どわっ!」
 ヴァトルダーが切り込んできたのを、ローゼンは慌てて横に避ける。
ヴァトルダー「だだだだっ!!」
 至近距離で剣を振り回すヴァオルダー。
ローゼン「わわわっ!」
 ……ブシャッ!
ローゼン「ぐっ!!」
 ヴァトルダーの剣が、ローゼンの肩に食い込む。
ヴァトルダー「ぬんっ!!」
 ザンッ!!
 ローゼンの肩口から鮮血が吹き出す。
ローゼン「ぐぅっ!」
 ローゼンは持っていたモールを捨て、肩を押さえて身を後ろに引き、そのまま崩れ落ちるようにしゃがみ込む。
ヴァトルダー「どーだ!やっぱ、俺の方が強いだろ?」
ローゼン『ファリスよ……』
 小声でローゼンが神聖魔法を唱える。
ヴァトルダー「これで、リーハさんは俺のもんだなっ!」
ローゼン『今度力を貸さなかったら、ただじゃおかねぇぞ……』
 神に喧嘩を売ってどうする。
ヴァトルダー「じゃ、止めをさすか」
ローゼン『キュアー・ウーンズ』
 ヒュイィ……。
 血まみれになった鎧の下で、傷が見る間に癒えていく。
ヴァトルダー「安心しろ、命まではとらん。ちょっと気絶させるだけだ」
 お前、知ってるか?気絶を通り越したら死ぬってこと。
ティグ「おやおや、ヴァトルダー君は気づいていないようですねぇ……」
リーハ「ここが、神を信じるものと信じないものとの差でしょうね」
 それは違うと思うぞ。ヴァトルダーは単に洞察力に欠けるだけだ。
ローゼン「(ファリスよ、おかげで助かりました。ありがとうございます……。……にしてもあの野郎、本気で切りつけやがって!今のは、本当に死ぬと思ったぞ!しかし、あいつ、こっちがまだ深手を負ってると思ってる見たいだし、しばらく苦しんでる振りをするか)……ぐぅ……があぁ……」
 いよっ、名演技!
ヴァトルダー「そんなに痛いか?気絶したら、すぐに治療してやるからな」
 勿論、実際に治療するのはリーハである。
ローゼン『ファリスよ……』
 グググゥ……。
 ヴァトルダーはしゃがみ込んだローゼンの前に立ち、剣の柄を下向きにしてローゼンの頭上に構える。
ヴァトルダー「では……」
 ヴァトルダーが剣の柄を振り下ろして気絶させようとした時、ローゼンは指先をヴァトルダーの腹部目掛けてバッと突き出した。
ヴァトルダー「なぁっ……!?」
ローゼン『ヴァトルダーを仕留めさせてくれっ!フォース!!』
 次の瞬間、ローゼンの指先から衝撃波が放たれた。超至近距離である。かわせるはずがない。
 ぶぢゅっ。
ローゼン「あ?」
ティグ「はて?今、変な音が……」
リーハ「しました……わねぇ……」
 首をかしげる二人+ローゼン。
ヴァトルダー「うごわぁあっ!!」
 一気に後ろへ吹っ飛び、地面をザアァッと滑る。
ローゼン「さっきのは、なんの音だ……?」
 ローゼンは、さっきと逆の立場で不用心にヴァトルダーに近づいていく。ヴァトルダーはピクリとも動かない。
ヴァトルダー「……」
ローゼン「おーい……もしもぉし……」
 しぃーん。
 不安になったローゼンはヴァトルダーを覗き込む。
ローゼン「変だなぁ……。全然外傷はないのに……。ねぇ、ティグさん、ちょっと来てくれる?」
ティグ「ヴァトルダー君、死んじゃいました?」
 あんた、そんなことをよくもまぁあっさりと……。
ローゼン「こいつ、どこも怪我をしてないのに動かないんだ」
ティグ「気絶したんでしょ?こーいう場合はですねぇ、酒を飲ませるのが一番なんですよ」
ローゼン「ふーん……。じゃ、俺の荷物のなかにキュキュラ・ワインが入ってるからさ、取ってきてくれる?」
ティグ「ほぉ、キュキュラ・ワインを飲んでいるとは通ですね」
 ティグが感心したように言う。
ティグ「ちょっと待ってて下さいね……」
 タッタッタッ。ゴソゴソ……。タッタッタッ。
ティグ「さ、どうぞ」
ローゼン「じゃ、飲ませるか」
 ポンッと栓を開け、瓶をヴァトルダーの口にあてる。
ローゼン「ほーれほれ、さっさと飲まんか」
 無理やり口をこじ開け、瓶を口の中へ突っ込んでワインを流し込む。
 ドックドック……。
ヴァトルダー「……」
 ゲホゲホッ!!
 ワインが気管支の方に流れ込み、呼吸が出来なくなって咳き込むヴァトルダー。
ティグ「変ですねぇ、意識が戻りませんよ、ヴァトルダー君」
リーハ「……あのぉ、私が見て差し上げましょうか?」
ローゼン「おお、我が妻」
リーハ「だっ……誰が『我が妻』ですかっ!?」
 妻と言われ、慌てふためくリーハ。
ローゼン「リーハさん」
リーハ「あの……そうあっさり言われると、こっちも返しようがないんですけど……」
ティグ「お二人とも、結婚する前から夫婦漫才はやめて下さいよ、このこのー、ひゅーひゅー」
 ティグが二人を冷やかす。
リーハ「ティグ様……!」
 リーハの後ろに稲妻が迸る。
リーハ「今度そんなこと言ったら、ただじゃ済みませんよ……」
ティグ「は……はい……ごめんなさぁい……」
 ティグでさえも押される気迫を、リーハはごく稀に発する。
ローゼン「どうでもいいけど、見てくれる?」
リーハ「あ、はい」
 リーハはヴァトルダーのそばに近づき、あっちこっちを触ったりして調べる。
リーハ「これは……」
ローゼン&ティグ「これは?」
 ごく……。
リーハ「内蔵破裂です」
 げ。
ティグ「……いやはや、こりゃ何というか……お腹に受けた衝撃がよっぽど大きかったんですね……」
ローゼン「いやぁ、なんか今回のは、いつもと撃ち応えが違うなぁ、とは思ったんだけど……さすがはファリスっ!」
ティグ「とにかく、ほっとくとまずいですね?」
リーハ「はい、とってもまずいです」
ティグ「じゃあ、リーハ、あとは任せましたよ」
 てなわけで、リーハは早速リジェネレーションを唱えた。

ローゼン「ティグさぁん、今日はもう、行くのをやめますよ」
 ヴァトルダーの治療が終わったあと、ローゼンが草の上に座り込んで言った。
ローゼン「もう、だいぶ精神力を使っちゃったからさぁ」
 それもこれも、フォースn倍を使った賜物である。
ティグ「そーした方がいいですね。それじゃあ、今夜は家に泊まって行きます?」
ローゼン「そーする」
ヴァトルダー「うーん……何があったのか、さっぱり覚えてない」
 今頃寝ぼけた台詞を吐くヴァトルダー。
ヴァトルダー「アレク何とかって名前の人の仕事を受けた所までは覚えてるんだけどなぁ……」
アルストレイト「アルストレイトだっ!!」
 いい加減覚えてやれよ、ヴァトルダー。
ティグ「さ、早く行かないと真っ暗になっちゃいますよ」
 もう、すでになってたりして。
ローゼン「さー、さっさと寝て、明日は早い目に出発だ。フィップ達にだいぶ遅れをとっちまうからな」
ヴァトルダー「どうも腹のあたりに違和感が……」

 同時刻、フィップ・チーム。
フィップ「どこにもないよぉ!ティグさんの嘘つきぃ!」
ダッシュ「わしは、この一杯さえあれば構わんわい……くぅっ、たまらんのぉ、この酒は!」
ダルス「ううぅ、さ、寒いぃ……」
 ……まだ目的地にたどり着いていなかった。


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