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ユセリアスの神殿・4

ドラゴンVS……

 一週間後、チャ・ザ神殿。
リーハ「ソローちゃん、気分はどう?」
ソロー「あ〜、リーハお姉ちゃん。ティグおじちゃんも」
ティグ「お見舞いに来ましたよー。もう大丈夫なようですね」
ソロー「うん☆」
ティグ「そりゃよかった」
 ソローは暖かな雰囲気に囲まれている。それに対し、ヴァトルダーは……。
ヴァトルダー「あのー……俺の見舞いは?」
ティグ「あ、ヴァトルダー君。いやあ、復活おめでとうございます」
ヴァトルダー「あ、ありがとうございます、ティグ様々」
 復活するための金の大半を出したティグには、一生頭が上がらないヴァトルダー。
アルストレイト「や、どうも。無事に生き返られたようですし、早速行きますか」
 アルストレイトもひょこっと顔を出す。
ヴァトルダー「行きますか……って、まさか!?」
アルストレイト「もちろん、例の遺跡ですよ。もう皆さん用意をして待っていますから、お急ぎを」
ヴァトルダー「い、いやだぁ!あんなとこ、二度と行きたくねぇ!」
アルストレイト「……ヴァトルダーさんっ!!」
ヴァトルダー「な……なんだよ」
 急に声の調子が強くなったアルストレイトに、幾分怯えるヴァトルダー。
アルストレイト「あなた、一度やりかけたことを、たかが一回死んだぐらいで断念するんですか!」
 いや……誰でも断念すると思うぞ……それは。
ヴァトルダー「そ、そんなこと言ったって、あのスペクターには二度と会いたくないし……」
アルストレイト「えーい、問答無用っ!冒険者っちゅうもんは、言われたことを実行すればいいんですっ!さ、来なさい!」
 そう言って、ようやく体が元に戻ったヴァトルダーをロープでフン縛ってズルズル引きずっていく。
ティグ「お達者でー」
ソロー「パパー、お土産、よろしくー」
リーハ「ソローちゃんは、責任持って預かりますからー」
ヴァトルダー「だ、誰かぁ、助けてくれー!!」

ヴァトルダー「……で、結局こうなるわけね」
 エキュ君に縛りつけられたままボヤくヴァトルダー。
ローゼン「今回は、あのスペクターのいたところにはいかない予定だから安心しな。この前行かなかった、階段を降りてすぐの右の道を行くつもりだ」
アルストレイト「ソローちゃんも置いてきましたから、彼女が死ぬ心配はないですよ」
ヴァトルダー「それだけだな、唯一の救いは……」
アルストレイト「さ、そろそろつきますよ」

 再び中へ入った一行は、問題の分岐点を右へ曲がった。
ヴァトルダー「……階段か」
フィップ「どうする?」
アルストレイト「行きましょう。止まっても、埒はあきません」
ローゼン「そうですね」
ヴァトルダー「よし、行くか」
 コツ、コツ、コツ……。
 一行は、下へと降りていった。道は前へ少し続いたあと、左へ折れ曲がった。そこを少し行くと……。
フィップ「ちょっとストップ!」
 フィップが一行の進行を止めた。
ヴァトルダー「どうした?」
 そう言って、フィップのいる方へランタンを向ける。
フィップ「……この岩、簡単に崩れそうだよ。ほら」
 フィップがちょっと触っただけで、壁から岩がガラガラと崩れた。
ダッシュ「よし、ちょっと離れい」
 ダッシュがその場所から一行をどかし、グレートアックスで岩を砕いた。
 ガラガラッ!
 岩は崩れ落ち、隠されていた鉄板が剥き出しになった。
フィップ「ほー、ほー。どれどれ……」
 早速フィップが鉄板を調べる。
フィップ「……これは、扉みたいだね。鍵穴があるもん」
 フィップが、左端の方にあった穴を見つけて言った。
ローゼン「鍵ねぇ……」
ダッシュ「そういえばこの間、椅子の中から鍵が出てきたのではなかったかな?」
フィップ「この間のは……ここかな?」
 ポケットをゴソゴソと探る。
フィップ「……あった」
 ポケットから、この間の鍵を取り出した。
フィップ「合わないと思うんだけどなぁ……」
 がちゃ。
フィップ「……合っちゃった……」
 そのまま、扉は自然に中側へ開いていった。
ダッシュ「どれ、ちょっと中を拝見……」
 暗いところでも普通に見えるドワーフ(エルフもだけど)の特権を生かし、中を覗く。
ダッシュ「……!!」
 ダッシュの目には、確かにドラゴンらしきものが見えた。
ダッシュ「……ふう」
 扉から顔を出すと、ダッシュはため息をついた。
ダッシュ「どうやら疲れているようじゃ……」
フィップ「?変なダッシュ」
 フィップはランタンをヴァトルダーからもらって、中へ入った。あとにローゼンとダルスが続く。
 フィップは上の方をランタンで照らした。
フィップ「!!」
ローゼン「げっ!!」
ダルス「あれは……レッサードラゴン?!」
 レッサードラゴンは、ドラゴン族の中で一番弱いとはいえ、10レベルのモンスターである。頭はあまりよくなく、リザードマン語を解する。
レッサードラゴン『人間風情が、何の用だ?』
フィップ「え?え?」
ローゼン「俺に任せろっ!『やあ、こんにちは、ドラゴン君』」
 気まぐれで学んだリザードマン語が、まさかここで活きるとは、夢にも思っていなかったローゼン。
ドラゴン『お前たち、何が目当てだ……?』
ローゼン『うーん……何って言われても……』
フィップ「……あ、あれは!」
 フィップの視線はドラゴン……の後ろの方に注がれていた。そこには、綺麗な宝石が山のように積み上げられていた。
フィップ「すごい……」
ローゼン「宝石か……欲しいが、ちょっとな……」
フィップ「ねえローゼン、何とか交渉できない?ちょっとわけてちょーだい、とか」
ローゼン「やってみるか。『ドラゴン君、ちょっとその、後ろの宝石をわけて欲しいんだが……どうだ?』」
ドラゴン『貴様ら、これが目当てか。できぬ相談だな。どうしても欲しくば、自力で奪ってみせい』
ローゼン『あ……やっぱだめ?じゃ、また出直してくる』
 ローゼンはゆっくりと後ろを向くと、そのまま駆け足で部屋から出た。
ローゼン「フィップ、交渉は失敗だ。どうしてもと言うなら、力ずくで取ってみろ、だと」
 ローゼンが、あとから出てきたフィップに言った。
フィップ「えー、そうなの?じゃ、あきらめよっか」
ヴァトルダー「じゃ、帰るか」
フィップ「とりあえず、鍵をあのスペクターに返しに行こう」
ヴァトルダー「なにぃ!?」
 ヴァトルダーが不満を露にする。ま、当然と言えば当然だろう。
ヴァトルダー「どうしても、と言うのなら仕方がないが……。手前までなら行ってやる」
ローゼン「それでいい。この前ので、お前が役に立たないのはわかったからな」
ヴァトルダー「ぐ……」
 戦士の弱点は、実体を持たない亡霊には攻撃できないことだろう。ゾンビぐらいなら何とかなるんだけどね。

ローゼン「ここからは、俺とフィップで行く。アルストレイトさんと残りの連中は、ここで待機していてくれ」
ダッシュ「わかった」
ローゼン「よし、フィップ、行くぞ!」
フィップ「うん!」
 フィップとローゼンは、スペクターのいた部屋へ侵入した。
 ボォッ……。
 元椅子のあったところに、スペクターが現れる。
スペクター「貴様らか……。おとなしく鍵を返すのだ……」
フィップ「はい」
 フィップは、鍵をスペクターの元へ投げた。
 かしゃーん。
 鍵はスペクターの足元に落ちる。
スペクター「え゛?」
 これは、スペクターの側にとっても意外なことだったようである。
スペクター「あ……ありがとう……」
 思わずお礼の言葉まで出たりする。心なしか、目も潤んでいるようだ。
フィップ「あ、そうだ」
 フィップはここで、あることを思いついた。
フィップ「あのさ、地下にドラゴンが住み着いてるでしょ?」
スペクター「ん……ああ、あの部屋のドラゴンのことか。知っているぞ」
フィップ「あれをやっつけるのに、手を貸してくれない?」
スペクター「うーむ……ただで、というわけにはいかんな……。わしはスペクターになってからも、古代のあらゆる知識を求めて世界中を駆け回っておるんじゃが、そう……何か、珍しい文献を持っておらんか?」
ローゼン「古代の……すでに失われたようなものですか?」
スペクター「うむ。こう見えてもわしは、失われた古代語魔法を少々知っておってな。失われたものならいっそう大歓迎じゃ」
ローゼン「確かダルスが、変なものを持ってたよな」
フィップ「え?『ヨガの奥義書』のこと?そうだね、あれなんかいいかもしんない」
スペクター「何かあるのか?」
ローゼン「ええ。ちょっとついてきて下さい」

ヴァトルダー「ひょえぇぇーっ!!」
 ヴァトルダーが絶叫した。
ヴァトルダー「お、おま、お前らーっ!俺を裏切ったのかーっ!?こんなとこにスペクターを連れてきやがって!!」
ローゼン「違う、違う。おい、ダルス。お前、『ヨガの奥義書』っつーもんを持ってたよな?あれ貸せ」
ダルス「わしでもわからん部分があるというのに、ソーサラーでもないお前が見ても……」
ローゼン「見るのは俺じゃないって。こっちのスペクターだよ」
ダルス「……ちょっとだけぢゃぞ」
 ゴソゴソと荷物をあさり、やがて一つの古ぼけた巻物を取り出した。それを床の上に広げる。
スペクター「ふむ……こっ!これはっ!!」
 スペクターは巻物を、食い入るように見ている。
スペクター「ふむ……ふむ……むぅ……いやあ、素晴らしい!こんな内容のものは見たことがない」
 そりゃそうだろう。
ダルス「ほう、あなたにもこのよさがわかりますかな?」
スペクター「わかるとも!この、神秘のベールに包まれた内容、通にはたまらんわい!」
ダルス「いやあ、賢者の心をよく知ったお方ぢゃ。あなたとは、いい友人になれそうですな」
 賢者の心って、「ヨガ」なるものを知ることだったのか……?
スペクター「よし、約束は守ろう。お前たちに力を貸してやる」
フィップ「へっへー、どうも」
ローゼン「ようし、ドラゴンを倒してやるぞ!」

 再びドラゴンの部屋。
ローゼン『ドラゴンよ。先ほどの言葉に従い、お前を倒して宝を頂く』
ドラゴン『そのような道を選んだか……。それもまた一興。さあ、力の限りかかってくるがよい!』
スペクター『久しぶりだな、ドラゴンよ』
 スペクターがドラゴンに話しかけた。
ドラゴン『貴様……ベイルか?』
スペクター『そうだ。訳あって、お前を倒しにきた』
ドラゴン『30年ぶりだというのに、ずいぶんだな。何故に、スペクターである貴様がこのような下賤の手助けをする?』
スペクター『すべては究極魔法たるヨガ魔法の研究のため……』
ドラゴン&ローゼン『なにっ!?』
 この一匹と一人に限らず、リザードマン語を解せていれば誰でも驚いたであろう。まったく、研究者っちゅうのには、どうしてこういう変わり者が多いのだろうか。
スペクター『では、そういうわけでくたばってくれい!』
 スペクターが呪文を咏唱する。
スペクター「おぬしら、よーく見ておけい!これが、長年に渡って研究した末に得た失われた呪文、『スタン・クラウド』!!」
 スタン・クラウドは、効果範囲内の目標の肉体を麻痺させ意識を失わせる呪文である。あくまで効けば、の話だが……。
ドラゴン『ふん、効かんな』
 というわけで、ドラゴンには効かなかった。
スペクター「な、なんと、効かんとは……」
フィップ「スペクターさん、ドラゴンをなめてたでしょ」
ドラゴン『では、次はこちらの番だな……くらえぃ!』
 ドラゴンが口から炎を、スペクターに向かって吐いた。
スペクター「ふんふんふーん☆」
 だが、肉体を持たないスペクターに物理的攻撃が通じるはずがない。つまり……スペクターは、ドラゴンと引き分けることはあっても、負けることは絶対にない。
ドラゴン『なに!?我が炎が効かぬとは……』
スペクター『なめてもらっては困るな、ドラゴンよ』
ローゼン「これじゃあ埒があかないな」
 ローゼンが唸った。
フィップ「そだ。ダルス、なんか魔法、ない?」
ダルス「わしが使えるのは、全部スペクター殿が使えるわい」
ダッシュ「一度、初心に戻ってみたらどうじゃ?」
ダルス「初心のう……スリープ・クラウドでも使えというのか?」
フィップ「あ、それいい。拡大しまくれば、ドラゴンでも眠らせることができるよ、きっと」
ダルス「ふむ、やってみるか。幸い、ここに魔晶石があるし、20倍ぐらいいってみるとするかのう

 また……20倍……。
フィップ「それ、ゴーゴー!」
ダルス「ようし、見とれ!」
 スペクターは、あっちこっちを飛び回ってドラゴンを攪乱している。
ダルス「では……『スリープ・クラウド』20倍!」
ドラゴン『なにっ!?』
 くらぁ……。
ドラゴン『う……』
 ずぅぅぅん……。
ダルス「ど、どうじゃ!見たか、わしの力!」
ヴァトルダー「それー!!」
 ヴァトルダー達はダルスを無視し、宝石へ飛びかかった。
ローゼン「うっひょー!こりゃ、結構あるな!」
フィップ「綺麗、綺麗!」
ヴァトルダー「……美しさは罪だ……」
 おいおい。
ダルス「わしを無視するなぁ!!」
 と言いつつも、宝石の元へ急ぐダルス。
ダルス「早う袋に詰め込むんぢゃ!そのうちに目を覚ますぞい!」
ローゼン「おうっ!」
 一行は宝石を残らずかき集めた。
フィップ「あ、こんなとこに扉が」
 積まれた宝石の向こうに扉があった。
ダルス「よし、わしが軽ーく開けて見せよう」
 さっきので調子に乗ったダルスが、『アンロック』をかける。
フィップ「……開かないよ」
 つつー、とダルスの頬を汗が伝う。
ローゼン「失敗しやがったな、こいつぅ」
ダルス「い、一生の不覚!」
 こいつは、この状況で、世に言う「1ゾロ」を出したのである。許すまじ、ダルス……もとい、6面ダイス2個!
フィップ「しょーがないなぁ。じゃ、今度は僕が……」
 フィップは懐から針金を取り出し、鍵穴に突っ込んでカチャカチャやった。
 ポキ。
フィップ「あ……折れちゃった」
ローゼン「お、お前まで失敗してどーするっ!」
フィップ「いやあ、はは、こめん。でも困ったね。僕もダルスも失敗しちゃったら、もう鍵を開けられる人は……」
スペクター「わしがいる」
一行「どわっ!!」
 いきなり目の前に現れたスペクターに驚く一行。
スペクター「わしにまかせい……『アンロック』」
 かちゃ。
フィップ「よっ、お見事っ!」
ローゼン「さすがぁ」
スペクター「これでさっきの失敗の穴埋めはできたかな?」
 できてない。
ローゼン「さ、行くぞ!」
 一行は扉の向こうへ飛び込んだ。

ヴァトルダー「上、か……」
 扉の向こうには上り階段があった。
ヴァトルダー「まあ、戻るわけにもいかんしなぁ……」
ダッシュ「さっさと行かんかい!」
ヴァトルダー「おうっ!」
タッタッタッタッ。
ヴァトルダー「おっ、ストップ!光が見えるぞ」
アルストレイト「地上ですか……?」
ヴァトルダー「きっとそうだろ?」
アルストレイト「変ですね、地下を歩いた距離からして、遺跡の場所からは外れているのですが……」
ヴァトルダー「出てみりゃわかることだ。行くぞ」
スペクター「私はここで待っている。光は体にこたえるんでな」
ダルス「では、少々待っていて下され」
スペクター「うむ」

 タッタッタッタッ。
ヴァトルダー「とうっ!」
 たっ!
 ヴァトルダー達は地上に出た。
アルストレイト「これは……」
 アルストレイトは息を飲んだ。
 そこは、かつて街だったであろう場所だった。辺りには古ぼけたレンガ造りの家々が立ち並び、整備された道が街を走っている。少し離れた所には、大きな広場がある。この街に住んでいた人は、ここでどのような生活を送っていたのだろうか……。
ヴァトルダー「すげぇ……」
ローゼン「人が来られない場所だからこそ、残っていたんだな……」
 一行はしばらくの間、感慨に浸っていた。

ダルス「あ、失礼。コロッと忘れてましたぢゃ」
 階段を降りたところで、スペクターが欠伸をしながら待っていた。亡霊が欠伸などするか?ということに関しては、後日機会があれば議論することにしよう。
スペクター「ん……終わったのかね?」
ダルス「まあ」
スペクター「あの街は、何百年か前に滅んだものだ。原因は、何かの病気だったと思うが……」
ダルス「よく知っておられますのう」
スペクター「だてに何百年もスペクターをやってはおらんわい」
アルストレイト「あの……もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
スペクター「おぬしは?」
アルストレイト「あ、私、賢者の学院所属の、アルストレイトと申すものでございます。この街の研究の助けにしたいと思いまして」
スペクター「そうか……。では、わしの持っている資料を貸してやろう」
アルストレイト「本当ですか!?」
スペクター「わしは嘘はつかんわい。ちょっとついてまいれ」
 スペクターに従って下へ降りていったアルストレイトは、やがて一冊の書物を手に戻ってきた。
スペクター「それは私が生前に書き置いたこの街の資料だ。下位古代語で書かれておるから、おぬしらにも解読できるだろう。よいか、あとで必ず返すのだぞ」
アルストレイト「はい!では、お借りします」
 アルストレイトは、巻物を懐にしまった。
ヴァトルダー「さて……どうする?」
ローゼン「もう、ドラゴンは起きているだろうしなぁ……。街の広場にエキュ君を呼ぶか?」
アルストレイト「街は傷つけないで下さいよ……」
ローゼン「大丈夫だって」
ダルス「では、スペクター殿、残念ですがここでお別れぢゃな」
スペクター「うーむ……もう少し、あの奥義書を研究したかったが、やむを得まい」
ダルス「きっと、また会えるぢゃろうて」
 まさか、この言葉が本当になろうとは、想像もしていないダルス。
ダルス「では、我々はこれで……」
スペクター「うむ、さらばだ」
 スペクターは一行に会釈をすると、扉の中へ吸い込まれるようにして消えた。中でドラゴンがバタバタ暴れる音がしたが、それもすぐにおさまった。
ヴァトルダー「じゃ、行くか」

フィップ「エキュくーん、カモーン!」
 フィップが腕輪に向かって叫び、エキュ君を呼ぶ。どうやら、あの時のコントローラーは張りぼてで、中に収まっていた腕輪が本当のコントローラーだったらしい。
 まもなく、翼を羽ばたかせてエキュ君がやってきた。
 ばっさばっさ……どんがらどんがらぐわっしゃちゅどーん!!
 どーやら、エキュ君が広場へ舞い降りた際に、そばの家が2、3軒、風圧で倒壊したらしい。
フィップ「あ、ちょっと壊れちゃった」
アルストレイト「ああーっ!!街がーっ!!貴重な街がーっ!!」
 アルストレイトは絶叫している。
フィップ「さ、乗ろ乗ろ。あれ?アルストレイトさん、乗らないの?」
アルストレイト「うう……もう、ぜーったいに壊さないで下さいよ」
フィップ「だ、大丈夫ですって。早く、乗って。……それ、エキュ君、はっしーん!」
 ばっさばっさ、ちゅどーん!
 また何軒か壊れた。
アルストレイト「ああーっ!!ああああーっ!!」
 アルストレイトは泣き叫んだ。

オランに帰還後……

アルストレイト「いやー、ご苦労様でした。まず、これが900ガメルです」
ヴァトルダー「あ、それいらない。そんなもの、あの、山のような宝石に比べれば些細なもんだ」
アルストレイト「そ、そうですか?では……遺跡で発見されたものですが、宝石が額にしてざっと9万ガメル分ありましたので、私が1万5千ガメル分ほどいただきまして、残りを差し上げます」
ヴァトルダー「一人頭1万5千ガメルか」
アルストレイト「では、私はこれで。資料をまとめて、賢者の学院の方へ提出しないといけませんので。それでは」
 アルストレイトはお辞儀をすると、人混みの中へ消えていった。
フィップ「あんなとこへ、どーやって調査団を派遣する気かな?」
ローゼン「盗賊でも雇うんじゃないか?」
ヴァトルダー「何にしろ、派遣される奴は大変だな」
 と言うわけで、アルストレイトは街の遺跡の資料を賢者の学院に提出。まもなく調査団が何組か派遣されたが、一組として帰っては来なかった……。結局、この遺跡の調査は断念された。
 一方、ヴァトルダー達の方はと言うと……。
 ソローは神殿に預けられていた間に神官たちの影響をモロに受け、清楚かつ温和な少女に変身。バールス以下大勢のものが喜んだが、ただ一人ヴァトルダーだけは涙を流した。
 ダルスはあのスペクターにすっかり魅入……もとい気に入られ、夜な夜な『ヨガの奥義書を見せてくれー』とせがまれ、連日寝不足の状態が続いている。

ヴァトルダー「うおーっ!どーして俺たちの回りには、ワイバーンだのスペクターだのといった化けモンばっかり集まるんだーっ!!」
 類は友を……。


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