一週間後、チャ・ザ神殿。
リーハ「ソローちゃん、気分はどう?」
ソロー「あ〜、リーハお姉ちゃん。ティグおじちゃんも」
ティグ「お見舞いに来ましたよー。もう大丈夫なようですね」
ソロー「うん☆」
ティグ「そりゃよかった」
ソローは暖かな雰囲気に囲まれている。それに対し、ヴァトルダーは……。
ヴァトルダー「あのー……俺の見舞いは?」
ティグ「あ、ヴァトルダー君。いやあ、復活おめでとうございます」
ヴァトルダー「あ、ありがとうございます、ティグ様々」
復活するための金の大半を出したティグには、一生頭が上がらないヴァトルダー。
アルストレイト「や、どうも。無事に生き返られたようですし、早速行きますか」
アルストレイトもひょこっと顔を出す。
ヴァトルダー「行きますか……って、まさか!?」
アルストレイト「もちろん、例の遺跡ですよ。もう皆さん用意をして待っていますから、お急ぎを」
ヴァトルダー「い、いやだぁ!あんなとこ、二度と行きたくねぇ!」
アルストレイト「……ヴァトルダーさんっ!!」
ヴァトルダー「な……なんだよ」
急に声の調子が強くなったアルストレイトに、幾分怯えるヴァトルダー。
アルストレイト「あなた、一度やりかけたことを、たかが一回死んだぐらいで断念するんですか!」
いや……誰でも断念すると思うぞ……それは。
ヴァトルダー「そ、そんなこと言ったって、あのスペクターには二度と会いたくないし……」
アルストレイト「えーい、問答無用っ!冒険者っちゅうもんは、言われたことを実行すればいいんですっ!さ、来なさい!」
そう言って、ようやく体が元に戻ったヴァトルダーをロープでフン縛ってズルズル引きずっていく。
ティグ「お達者でー」
ソロー「パパー、お土産、よろしくー」
リーハ「ソローちゃんは、責任持って預かりますからー」
ヴァトルダー「だ、誰かぁ、助けてくれー!!」
ヴァトルダー「……で、結局こうなるわけね」
エキュ君に縛りつけられたままボヤくヴァトルダー。
ローゼン「今回は、あのスペクターのいたところにはいかない予定だから安心しな。この前行かなかった、階段を降りてすぐの右の道を行くつもりだ」
アルストレイト「ソローちゃんも置いてきましたから、彼女が死ぬ心配はないですよ」
ヴァトルダー「それだけだな、唯一の救いは……」
アルストレイト「さ、そろそろつきますよ」
再び中へ入った一行は、問題の分岐点を右へ曲がった。
ヴァトルダー「……階段か」
フィップ「どうする?」
アルストレイト「行きましょう。止まっても、埒はあきません」
ローゼン「そうですね」
ヴァトルダー「よし、行くか」
コツ、コツ、コツ……。
一行は、下へと降りていった。道は前へ少し続いたあと、左へ折れ曲がった。そこを少し行くと……。
フィップ「ちょっとストップ!」
フィップが一行の進行を止めた。
ヴァトルダー「どうした?」
そう言って、フィップのいる方へランタンを向ける。
フィップ「……この岩、簡単に崩れそうだよ。ほら」
フィップがちょっと触っただけで、壁から岩がガラガラと崩れた。
ダッシュ「よし、ちょっと離れい」
ダッシュがその場所から一行をどかし、グレートアックスで岩を砕いた。
ガラガラッ!
岩は崩れ落ち、隠されていた鉄板が剥き出しになった。
フィップ「ほー、ほー。どれどれ……」
早速フィップが鉄板を調べる。
フィップ「……これは、扉みたいだね。鍵穴があるもん」
フィップが、左端の方にあった穴を見つけて言った。
ローゼン「鍵ねぇ……」
ダッシュ「そういえばこの間、椅子の中から鍵が出てきたのではなかったかな?」
フィップ「この間のは……ここかな?」
ポケットをゴソゴソと探る。
フィップ「……あった」
ポケットから、この間の鍵を取り出した。
フィップ「合わないと思うんだけどなぁ……」
がちゃ。
フィップ「……合っちゃった……」
そのまま、扉は自然に中側へ開いていった。
ダッシュ「どれ、ちょっと中を拝見……」
暗いところでも普通に見えるドワーフ(エルフもだけど)の特権を生かし、中を覗く。
ダッシュ「……!!」
ダッシュの目には、確かにドラゴンらしきものが見えた。
ダッシュ「……ふう」
扉から顔を出すと、ダッシュはため息をついた。
ダッシュ「どうやら疲れているようじゃ……」
フィップ「?変なダッシュ」
フィップはランタンをヴァトルダーからもらって、中へ入った。あとにローゼンとダルスが続く。
フィップは上の方をランタンで照らした。
フィップ「!!」
ローゼン「げっ!!」
ダルス「あれは……レッサードラゴン?!」
レッサードラゴンは、ドラゴン族の中で一番弱いとはいえ、10レベルのモンスターである。頭はあまりよくなく、リザードマン語を解する。
レッサードラゴン『人間風情が、何の用だ?』
フィップ「え?え?」
ローゼン「俺に任せろっ!『やあ、こんにちは、ドラゴン君』」
気まぐれで学んだリザードマン語が、まさかここで活きるとは、夢にも思っていなかったローゼン。
ドラゴン『お前たち、何が目当てだ……?』
ローゼン『うーん……何って言われても……』
フィップ「……あ、あれは!」
フィップの視線はドラゴン……の後ろの方に注がれていた。そこには、綺麗な宝石が山のように積み上げられていた。
フィップ「すごい……」
ローゼン「宝石か……欲しいが、ちょっとな……」
フィップ「ねえローゼン、何とか交渉できない?ちょっとわけてちょーだい、とか」
ローゼン「やってみるか。『ドラゴン君、ちょっとその、後ろの宝石をわけて欲しいんだが……どうだ?』」
ドラゴン『貴様ら、これが目当てか。できぬ相談だな。どうしても欲しくば、自力で奪ってみせい』
ローゼン『あ……やっぱだめ?じゃ、また出直してくる』
ローゼンはゆっくりと後ろを向くと、そのまま駆け足で部屋から出た。
ローゼン「フィップ、交渉は失敗だ。どうしてもと言うなら、力ずくで取ってみろ、だと」
ローゼンが、あとから出てきたフィップに言った。
フィップ「えー、そうなの?じゃ、あきらめよっか」
ヴァトルダー「じゃ、帰るか」
フィップ「とりあえず、鍵をあのスペクターに返しに行こう」
ヴァトルダー「なにぃ!?」
ヴァトルダーが不満を露にする。ま、当然と言えば当然だろう。
ヴァトルダー「どうしても、と言うのなら仕方がないが……。手前までなら行ってやる」
ローゼン「それでいい。この前ので、お前が役に立たないのはわかったからな」
ヴァトルダー「ぐ……」
戦士の弱点は、実体を持たない亡霊には攻撃できないことだろう。ゾンビぐらいなら何とかなるんだけどね。
ローゼン「ここからは、俺とフィップで行く。アルストレイトさんと残りの連中は、ここで待機していてくれ」
ダッシュ「わかった」
ローゼン「よし、フィップ、行くぞ!」
フィップ「うん!」
フィップとローゼンは、スペクターのいた部屋へ侵入した。
ボォッ……。
元椅子のあったところに、スペクターが現れる。
スペクター「貴様らか……。おとなしく鍵を返すのだ……」
フィップ「はい」
フィップは、鍵をスペクターの元へ投げた。
かしゃーん。
鍵はスペクターの足元に落ちる。
スペクター「え゛?」
これは、スペクターの側にとっても意外なことだったようである。
スペクター「あ……ありがとう……」
思わずお礼の言葉まで出たりする。心なしか、目も潤んでいるようだ。
フィップ「あ、そうだ」
フィップはここで、あることを思いついた。
フィップ「あのさ、地下にドラゴンが住み着いてるでしょ?」
スペクター「ん……ああ、あの部屋のドラゴンのことか。知っているぞ」
フィップ「あれをやっつけるのに、手を貸してくれない?」
スペクター「うーむ……ただで、というわけにはいかんな……。わしはスペクターになってからも、古代のあらゆる知識を求めて世界中を駆け回っておるんじゃが、そう……何か、珍しい文献を持っておらんか?」
ローゼン「古代の……すでに失われたようなものですか?」
スペクター「うむ。こう見えてもわしは、失われた古代語魔法を少々知っておってな。失われたものならいっそう大歓迎じゃ」
ローゼン「確かダルスが、変なものを持ってたよな」
フィップ「え?『ヨガの奥義書』のこと?そうだね、あれなんかいいかもしんない」
スペクター「何かあるのか?」
ローゼン「ええ。ちょっとついてきて下さい」
ヴァトルダー「ひょえぇぇーっ!!」
ヴァトルダーが絶叫した。
ヴァトルダー「お、おま、お前らーっ!俺を裏切ったのかーっ!?こんなとこにスペクターを連れてきやがって!!」
ローゼン「違う、違う。おい、ダルス。お前、『ヨガの奥義書』っつーもんを持ってたよな?あれ貸せ」
ダルス「わしでもわからん部分があるというのに、ソーサラーでもないお前が見ても……」
ローゼン「見るのは俺じゃないって。こっちのスペクターだよ」
ダルス「……ちょっとだけぢゃぞ」
ゴソゴソと荷物をあさり、やがて一つの古ぼけた巻物を取り出した。それを床の上に広げる。
スペクター「ふむ……こっ!これはっ!!」
スペクターは巻物を、食い入るように見ている。
スペクター「ふむ……ふむ……むぅ……いやあ、素晴らしい!こんな内容のものは見たことがない」
そりゃそうだろう。
ダルス「ほう、あなたにもこのよさがわかりますかな?」
スペクター「わかるとも!この、神秘のベールに包まれた内容、通にはたまらんわい!」
ダルス「いやあ、賢者の心をよく知ったお方ぢゃ。あなたとは、いい友人になれそうですな」
賢者の心って、「ヨガ」なるものを知ることだったのか……?
スペクター「よし、約束は守ろう。お前たちに力を貸してやる」
フィップ「へっへー、どうも」
ローゼン「ようし、ドラゴンを倒してやるぞ!」
再びドラゴンの部屋。
ローゼン『ドラゴンよ。先ほどの言葉に従い、お前を倒して宝を頂く』
ドラゴン『そのような道を選んだか……。それもまた一興。さあ、力の限りかかってくるがよい!』
スペクター『久しぶりだな、ドラゴンよ』
スペクターがドラゴンに話しかけた。
ドラゴン『貴様……ベイルか?』
スペクター『そうだ。訳あって、お前を倒しにきた』
ドラゴン『30年ぶりだというのに、ずいぶんだな。何故に、スペクターである貴様がこのような下賤の手助けをする?』
スペクター『すべては究極魔法たるヨガ魔法の研究のため……』
ドラゴン&ローゼン『なにっ!?』
この一匹と一人に限らず、リザードマン語を解せていれば誰でも驚いたであろう。まったく、研究者っちゅうのには、どうしてこういう変わり者が多いのだろうか。
スペクター『では、そういうわけでくたばってくれい!』
スペクターが呪文を咏唱する。
スペクター「おぬしら、よーく見ておけい!これが、長年に渡って研究した末に得た失われた呪文、『スタン・クラウド』!!」
スタン・クラウドは、効果範囲内の目標の肉体を麻痺させ意識を失わせる呪文である。あくまで効けば、の話だが……。
ドラゴン『ふん、効かんな』
というわけで、ドラゴンには効かなかった。
スペクター「な、なんと、効かんとは……」
フィップ「スペクターさん、ドラゴンをなめてたでしょ」
ドラゴン『では、次はこちらの番だな……くらえぃ!』
ドラゴンが口から炎を、スペクターに向かって吐いた。
スペクター「ふんふんふーん☆」
だが、肉体を持たないスペクターに物理的攻撃が通じるはずがない。つまり……スペクターは、ドラゴンと引き分けることはあっても、負けることは絶対にない。
ドラゴン『なに!?我が炎が効かぬとは……』
スペクター『なめてもらっては困るな、ドラゴンよ』
ローゼン「これじゃあ埒があかないな」
ローゼンが唸った。
フィップ「そだ。ダルス、なんか魔法、ない?」
ダルス「わしが使えるのは、全部スペクター殿が使えるわい」
ダッシュ「一度、初心に戻ってみたらどうじゃ?」
ダルス「初心のう……スリープ・クラウドでも使えというのか?」
フィップ「あ、それいい。拡大しまくれば、ドラゴンでも眠らせることができるよ、きっと」
ダルス「ふむ、やってみるか。幸い、ここに魔晶石があるし、20倍ぐらいいってみるとするかのう
」
また……20倍……。
フィップ「それ、ゴーゴー!」
ダルス「ようし、見とれ!」
スペクターは、あっちこっちを飛び回ってドラゴンを攪乱している。
ダルス「では……『スリープ・クラウド』20倍!」
ドラゴン『なにっ!?』
くらぁ……。
ドラゴン『う……』
ずぅぅぅん……。
ダルス「ど、どうじゃ!見たか、わしの力!」
ヴァトルダー「それー!!」
ヴァトルダー達はダルスを無視し、宝石へ飛びかかった。
ローゼン「うっひょー!こりゃ、結構あるな!」
フィップ「綺麗、綺麗!」
ヴァトルダー「……美しさは罪だ……」
おいおい。
ダルス「わしを無視するなぁ!!」
と言いつつも、宝石の元へ急ぐダルス。
ダルス「早う袋に詰め込むんぢゃ!そのうちに目を覚ますぞい!」
ローゼン「おうっ!」
一行は宝石を残らずかき集めた。
フィップ「あ、こんなとこに扉が」
積まれた宝石の向こうに扉があった。
ダルス「よし、わしが軽ーく開けて見せよう」
さっきので調子に乗ったダルスが、『アンロック』をかける。
フィップ「……開かないよ」
つつー、とダルスの頬を汗が伝う。
ローゼン「失敗しやがったな、こいつぅ」
ダルス「い、一生の不覚!」
こいつは、この状況で、世に言う「1ゾロ」を出したのである。許すまじ、ダルス……もとい、6面ダイス2個!
フィップ「しょーがないなぁ。じゃ、今度は僕が……」
フィップは懐から針金を取り出し、鍵穴に突っ込んでカチャカチャやった。
ポキ。
フィップ「あ……折れちゃった」
ローゼン「お、お前まで失敗してどーするっ!」
フィップ「いやあ、はは、こめん。でも困ったね。僕もダルスも失敗しちゃったら、もう鍵を開けられる人は……」
スペクター「わしがいる」
一行「どわっ!!」
いきなり目の前に現れたスペクターに驚く一行。
スペクター「わしにまかせい……『アンロック』」
かちゃ。
フィップ「よっ、お見事っ!」
ローゼン「さすがぁ」
スペクター「これでさっきの失敗の穴埋めはできたかな?」
できてない。
ローゼン「さ、行くぞ!」
一行は扉の向こうへ飛び込んだ。
ヴァトルダー「上、か……」
扉の向こうには上り階段があった。
ヴァトルダー「まあ、戻るわけにもいかんしなぁ……」
ダッシュ「さっさと行かんかい!」
ヴァトルダー「おうっ!」
タッタッタッタッ。
ヴァトルダー「おっ、ストップ!光が見えるぞ」
アルストレイト「地上ですか……?」
ヴァトルダー「きっとそうだろ?」
アルストレイト「変ですね、地下を歩いた距離からして、遺跡の場所からは外れているのですが……」
ヴァトルダー「出てみりゃわかることだ。行くぞ」
スペクター「私はここで待っている。光は体にこたえるんでな」
ダルス「では、少々待っていて下され」
スペクター「うむ」
タッタッタッタッ。
ヴァトルダー「とうっ!」
たっ!
ヴァトルダー達は地上に出た。
アルストレイト「これは……」
アルストレイトは息を飲んだ。
そこは、かつて街だったであろう場所だった。辺りには古ぼけたレンガ造りの家々が立ち並び、整備された道が街を走っている。少し離れた所には、大きな広場がある。この街に住んでいた人は、ここでどのような生活を送っていたのだろうか……。
ヴァトルダー「すげぇ……」
ローゼン「人が来られない場所だからこそ、残っていたんだな……」
一行はしばらくの間、感慨に浸っていた。
ダルス「あ、失礼。コロッと忘れてましたぢゃ」
階段を降りたところで、スペクターが欠伸をしながら待っていた。亡霊が欠伸などするか?ということに関しては、後日機会があれば議論することにしよう。
スペクター「ん……終わったのかね?」
ダルス「まあ」
スペクター「あの街は、何百年か前に滅んだものだ。原因は、何かの病気だったと思うが……」
ダルス「よく知っておられますのう」
スペクター「だてに何百年もスペクターをやってはおらんわい」
アルストレイト「あの……もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
スペクター「おぬしは?」
アルストレイト「あ、私、賢者の学院所属の、アルストレイトと申すものでございます。この街の研究の助けにしたいと思いまして」
スペクター「そうか……。では、わしの持っている資料を貸してやろう」
アルストレイト「本当ですか!?」
スペクター「わしは嘘はつかんわい。ちょっとついてまいれ」
スペクターに従って下へ降りていったアルストレイトは、やがて一冊の書物を手に戻ってきた。
スペクター「それは私が生前に書き置いたこの街の資料だ。下位古代語で書かれておるから、おぬしらにも解読できるだろう。よいか、あとで必ず返すのだぞ」
アルストレイト「はい!では、お借りします」
アルストレイトは、巻物を懐にしまった。
ヴァトルダー「さて……どうする?」
ローゼン「もう、ドラゴンは起きているだろうしなぁ……。街の広場にエキュ君を呼ぶか?」
アルストレイト「街は傷つけないで下さいよ……」
ローゼン「大丈夫だって」
ダルス「では、スペクター殿、残念ですがここでお別れぢゃな」
スペクター「うーむ……もう少し、あの奥義書を研究したかったが、やむを得まい」
ダルス「きっと、また会えるぢゃろうて」
まさか、この言葉が本当になろうとは、想像もしていないダルス。
ダルス「では、我々はこれで……」
スペクター「うむ、さらばだ」
スペクターは一行に会釈をすると、扉の中へ吸い込まれるようにして消えた。中でドラゴンがバタバタ暴れる音がしたが、それもすぐにおさまった。
ヴァトルダー「じゃ、行くか」
フィップ「エキュくーん、カモーン!」
フィップが腕輪に向かって叫び、エキュ君を呼ぶ。どうやら、あの時のコントローラーは張りぼてで、中に収まっていた腕輪が本当のコントローラーだったらしい。
まもなく、翼を羽ばたかせてエキュ君がやってきた。
ばっさばっさ……どんがらどんがらぐわっしゃちゅどーん!!
どーやら、エキュ君が広場へ舞い降りた際に、そばの家が2、3軒、風圧で倒壊したらしい。
フィップ「あ、ちょっと壊れちゃった」
アルストレイト「ああーっ!!街がーっ!!貴重な街がーっ!!」
アルストレイトは絶叫している。
フィップ「さ、乗ろ乗ろ。あれ?アルストレイトさん、乗らないの?」
アルストレイト「うう……もう、ぜーったいに壊さないで下さいよ」
フィップ「だ、大丈夫ですって。早く、乗って。……それ、エキュ君、はっしーん!」
ばっさばっさ、ちゅどーん!
また何軒か壊れた。
アルストレイト「ああーっ!!ああああーっ!!」
アルストレイトは泣き叫んだ。
アルストレイト「いやー、ご苦労様でした。まず、これが900ガメルです」
ヴァトルダー「あ、それいらない。そんなもの、あの、山のような宝石に比べれば些細なもんだ」
アルストレイト「そ、そうですか?では……遺跡で発見されたものですが、宝石が額にしてざっと9万ガメル分ありましたので、私が1万5千ガメル分ほどいただきまして、残りを差し上げます」
ヴァトルダー「一人頭1万5千ガメルか」
アルストレイト「では、私はこれで。資料をまとめて、賢者の学院の方へ提出しないといけませんので。それでは」
アルストレイトはお辞儀をすると、人混みの中へ消えていった。
フィップ「あんなとこへ、どーやって調査団を派遣する気かな?」
ローゼン「盗賊でも雇うんじゃないか?」
ヴァトルダー「何にしろ、派遣される奴は大変だな」
と言うわけで、アルストレイトは街の遺跡の資料を賢者の学院に提出。まもなく調査団が何組か派遣されたが、一組として帰っては来なかった……。結局、この遺跡の調査は断念された。
一方、ヴァトルダー達の方はと言うと……。
ソローは神殿に預けられていた間に神官たちの影響をモロに受け、清楚かつ温和な少女に変身。バールス以下大勢のものが喜んだが、ただ一人ヴァトルダーだけは涙を流した。
ダルスはあのスペクターにすっかり魅入……もとい気に入られ、夜な夜な『ヨガの奥義書を見せてくれー』とせがまれ、連日寝不足の状態が続いている。
ヴァトルダー「うおーっ!どーして俺たちの回りには、ワイバーンだのスペクターだのといった化けモンばっかり集まるんだーっ!!」
類は友を……。