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赤毛の戦士の独壇場

ソロー、誘拐さる?!

「なぁーにぃー?!」
 ばきっ!
 グレート・ソード二本を背中に背負った、顔におかしな模様を描いた男が、宿屋の備品のテーブルを叩き潰して主人に迫った。
 年齢不詳。ただし自称二十歳。一部にロリ○ンとの噂もあるが定かではない。本人は断固として否定している。剣の腕は一流だが、それとは見事なまでに対照的な境遇に身を置いている。これを、通称GMと呼ばれる、神のような存在の陰謀との見方もある。そして当のGMも否定していない(笑)。
 そう、この男こそが、知る人ぞ知る(もちろん知らぬ人ぞ知らぬ)無敵の戦士、ヴァトルダーである。巷で主役を張っている、と自称していたが、今回は正真正銘、本物の主役である。やったね兄さん!
 その問題のヴァトルダーは、荒れに荒れていた。ちょっとした仕事……荷物をT・F・K氏の所へ届ける、といったもの……を受けている間に、宿屋に置いてきた娘……つまり、ソローがいなくなった、というのだ。
ヴァトルダー「どういうことだぁ?説明してもらおうか、あーん?」
 口をパクパクさせる主人の胸ぐらを掴み、ゆっさゆっさと揺する。これじゃあんた、どっかの悪党だよ……。
ローゼン「おいヴァトルダー、そのぐらいで……」
 ぶわきゃあっ!
 止めに入ったローゼンを、ヴァトルダーは有無を言わさず殴り飛ばした。
ヴァトルダー「おのれは出てこなくていいーっ!」
 哀れローゼン、たった一言の台詞で退場。まだ台詞があっただけましだ、という声も、本編主役陣の中にはある。
ヴァトルダー「はぁっ、はぁっ……。ローゼンよ、今回は家で兄貴といちゃついておけ……」
 おいおい……。
ヴァトルダー「さて……さぁっ、吐けぃ、おやじっ!」
主人「は……話しますから、その手、離して下さいよ……ウゲホッ、ゴホッ」
 咳き込む主人を、ヴァトルダーはようやく離した。
ヴァトルダー「で?なーにがあったんだ?あぁ?」
 相変わらず口調はきつい。
主人「あのぉ……ヴァトルダーさんが出ていかれたのが、たしか六時間ほど前でしたよね?」
ヴァトルダー「おう」
 頷くヴァトルダー。
主人「で、その後一時間ぐらいして、お昼時なんでソローちゃんを下に呼んで食事をとったんです」
ヴァトルダー「メニューは?」
 ……さらわれたことと何の関係があるんだ?ヴァトルダー。
主人「いえ、あまり大したものは……。それで、そのあと三十分ぐらいで、ソローちゃんは部屋へ帰りました」
ヴァトルダー「そこまでは問題ないな」
主人「はい。そこから三時間ぐらいたった時に、一人のお客様が見えました」
ヴァトルダー「どんな?」
 ヴァトルダーが身を乗り出して尋ねる。主人は額に手をやって、記憶の糸を手繰りながら答えた。
主人「そう……ローゼン君ぐらいの青年……いや、少年かな?髪は、やや長めで金髪……そうそう、耳の感じからして、エルフだと思いますよ」
ヴァトルダー「エルフ……ダルスか!?」
 そんなわけないだろうがっ!
主人「それは絶対に違いますけど……。で、こういった感じの少女はいないか、名前はソローだ、と尋ねてきたので、ああ、その子ならいますよって、ご案内させていただきました」
 ヴァトルダーの手が、心なしか震えている。
主人「でも、変なんですよねぇ。部屋に入ったきり、出てこないんですよ。いやぁ、世の中不思議なこともあるもんだ……って、ヴァトルダーさん!?」
 グレート・ソードを抜いたヴァトルダーを見て、主人が悲鳴を上げた。
ヴァトルダー「そこまで知ってて、なぜ調べない……」
 淡々とした言葉の奥底に燃えたぎる怒りの炎。
主人「ま……まぁ、話は最後まで聞いて下さい。で、不思議だなぁ、と思ってると、それから小一時間ほどで出てきたんですよ、その人」
ヴァトルダー「……命拾いしたな、主人」
 フッと冷やかな笑みをこぼし、ヴァトルダーは剣を収めた。
主人「それで、その人が出ていく前に言ったんですよ。『なるほど、ラエン様が気に留めるわけもわかる』とね」
ヴァトルダー「そうか!すべての元凶はラエンにあり!」
 ヴァトルダーはいきなり、店を飛び出して走っていった。
主人「で、そのあと……あ、あれ?ヴァトルダーさーん」
 主人の呼び声に、応える者はいなかった。

 いまをときめくクレイン・ネットワークのトップ、ティグ・フィー・クレインの邸宅(一時、ヴァトルダーとソローはここに住んでいたことがあったりする)。
ヴァトルダー「あーけーろーっ!」
 ヴァトルダーが扉に向かって怒鳴り散らすと、ややあって眠そうな顔をした執事が出ていた。どうやら昼寝の最中だったらしい。夕方になって昼寝とは、なかなか大胆というか、変わっているというか……。
執事「ふあー……むにゃ……おやぁ、ヴァトルダー様じゃあございませんか?何か御用……」
ヴァトルダー「そうだ、ご・よ・う・だ!早くティグさんを……いや、ラエンの奴を出せっ!」
 執事はヴァトルダーの気迫に圧されながらも、しっかりと応対をした。
執事「ら、ラエン様は現在いらっしゃっておりません。すぐに旦那様をお呼びいたしますので、少々お待ちを……」
 ヴァトルダーは腕を組み、ティグが出てくるのを待った。ほどなくして、ティグは出てきた。
ティグ「や、ヴァトルダー君。どうかしましたか?」
ヴァトルダー「おう、ラエンに会いたいんだが、奴はどこにいる?」
ティグ「ラエン君ですか?うーん……いまは、多分ロマール支部にいると思いますよ。彼、結構仕事をため込んでいましてね。この間も……」
ヴァトルダー「ロマールか!サンキュッ!」
ティグ「書類の数字が一つずつ……あ、ヴァトルダー君!?」
 すでにいなかった。

ヴァトルダー「ローゼンくーん☆」
 ティグのところから走り去ったヴァトルダーは、ローゼンの家に来ていた。
レンディ「はぁい……あ、ヴァトルダーさん」
 例によって、レンディが出てきた。
レンディ「ローゼンは、まだ帰ってませんよ。何か御用でも?」
ヴァトルダー「おう、確かあいつ、乗用馬を持ってたよな?」
 第三回あたりから、出番がパッタリと途絶えている、あのルーザー号のことである。
レンディ「あ、いますよ。いまは預けてますけど」
ヴァトルダー「え……どこへ?」
レンディ「ほら、クレインさんのところに、厩舎があるでしょ。あそこですよ」
 カックンと首を落とすヴァトルダー。
ヴァトルダー「そうか……そうだよな、ローゼンでも持ってるんだもんな。ティグさんとこにあっても、何ら不思議じゃあないか……」
レンディ「他に、何か?」
ヴァトルダー「あ……いや、何もない、それだけだ。これ以上、奴が出ることは許さん。この話は俺が主役だ」
 何を力んでるんだか……。
ヴァトルダー「じゃあ、レンディさん、俺、帰るわ」
レンディ「はぁ……」
 あっさりとしているな、ヴァトルダー。

ティグ「馬……ですか。いいですけど、高いですよ」
 ヴァトルダーの「馬を出せ」のセリフに、ティグは懐からメモを取り出しつつ応えた。
ティグ「ローゼン君のみたいな、いわゆる乗用馬でも、そこそこ値が張りますね。バッチリ調教された軍馬クラスだと、そうとうの金額になりますよ」
ヴァトルダー「いや、別に売ってくれと……」
ティグ「ま、他ならぬヴァトルダー君ですから、お安くしておきますよ。どうしてもいうなら、低金利がモットーの『クレインの人に優しいローン』がありますが」
ヴァトルダー「だ、か、ら。話は最後まで聞けよ。貸してくれるだけでいいんだってば」
ティグ「そ、そうですか?……もしかして、ロマールに行くんですか?」
ヴァトルダー「ああ、そうだ。ソローをさらったラエンのところへ行くんだ。あの野郎。人のことをさんざんロリ○ンだとか言っておきながら、自分がそうじゃねぇか!」
 自分のことを棚に上げてよく言う……。
ティグ「ラエンがねぇ。何かの間違いではないか……とは思いますが、あなたに言っても無駄ですね」
ヴァトルダー「まあな」
 胸を張るようなことではないと思うぞ、それは。
ティグ「よろしい。特別に、500ガメルで貸しましょう」
 そういって、メモ用紙にサラサラッと何かを書く。
ティグ「これを持って、厩舎の管理人のところへ行きなさい。あ、そうそう、お金はここに置いていって下さいね」
 言われた通りに金を置き、ヴァトルダーは厩舎へ向かった。

管理人「ほう……これはこれは」
 メモを受け取って眼鏡をかけ、すかしたりしながら(疑ってどーする)それを見、厩舎のある方向を指さして言った。
管理人「あそこの、14番の馬を使え。いいか、帰ってきたらちゃんと返しにくるんだぞ」
ヴァトルダー「ああ」
管理人「いいか、餌を与えることと水をやることを忘れるなよ」
ヴァトルダー「わかっている」
 こう言っているヴァトルダーだが、その昔、ルーザー号はパーティ全員に忘れられ、死に瀕したことがある。当然、ヴァトルダーも無関係者ではない。
 ヴァトルダーは指示された場所へ行き、馬を連れだすとその足(?)すぐにロマールへ向かった。……食事の用意など、むろんなしで。

無実のラエン

 ロマール。本編で多少説明してあるので、ここでは省く。
 ヴァトルダーは途中幾度となく生死の境を彷徨ったが、どうにかここまでたどり着いた。
 ネットワーク・ロマール支部は以外とあっさりと見つかった。中へ入ろうとすると、逆に向こうからラエンがやってきた。
ヴァトルダー「! ラエーンッ!」
 ラエンが振り向くと、そこには目を真っ赤にしたヴァトルダーの姿があった。
ラエン「よっ、ヴァトルダー。どうした、こんなところで。仕事か?」
 ヴァトルダーはそれには応えず、ラエンを睨み付けた。
ラエン「な……なんだ?どうかしたのか?」
ヴァトルダー「ソローをかえせぇー」
ラエン「はぁ?」
 ラエンは、そこでソローがいないことに気付いた。
ラエン「おい、ソローちゃんはどうしたんだ?」
ヴァトルダー「ちっ、しらばっくれやがって!お前がさらったのはわかってるんだぞ!」
 な、なんと自己中心的な……。
ラエン「ま、待て!なんのことか、俺にはさっぱりわからん!」
 身に覚えのないことを言われ、面食らうラエン。
ヴァトルダー「ええい、見苦しいぞ、ラエン!今なら、給料三ヵ月カットぐらいで勘弁してやる!」
 お前にその権限は、ない。
ラエン「知らんと言ったら知らんっ!……だいたい、俺がさらって何になるんだ?」
ヴァトルダー「ぐ……そ、そりゃあお前、目の保養とかだな……」
ラエン「それはお前だ」
 ヴァトルダーは凍った。
ラエン「はっきり言う。俺は、神に誓ってそんなことはしていない」
 どの神に誓ったのかはともかくとして、とりあえずヴァトルダーはラエンの態度に幾分落ち着きを取り戻した。
ヴァトルダー「……それなら、ソローはいったいどこに?」
 首を傾げて真剣に悩むヴァトルダー。こいつが悩むのは、それこそ年に一回、あるかないかだ。
ラエン「どうも話が見えんのだが……」
 ヴァトルダーは、それまでのことを手短に話した。
ラエン「ふぅむ……そのエルフって、もしかしたら、コールヴァーンさんとこの息子さんじゃないかなぁ」
ヴァトルダー「コールヴァーン……?」
 ヴァトルダーは初めて聞く名である。
ラエン「うん、うちのお得意様のガルファー卿が資金援助をしている人でな、いろいろと古代の研究をしているんだ。あそこの家の息子が、確かちょうどお前の言っていたようなやつだった。母親がハーフエルフなんだ、コールヴァーンさんとこは」
 説明ありがとう、ラエン。
ヴァトルダー「だが、そいつがソローのことを知っているはずがないだろ?やっぱりおかしいぜ」
ラエン「ところが、だ。俺は、ガルファー卿のところへこの間行ったとき、ソローちゃんのことを話したんだ。そしたらえらく興味を示されてな。そこから情報が伝わっていったとすれば、話が合う」
ヴァトルダー「……よし、そのコールヴァーンのところへ案内しろ」

ラエン「ここだ」
 ラエンは、一軒の家……というよりは、研究所といった感じのところの前で立ち止まった。
ラエン「しかしな、ヴァトルダー。俺から言いだしておいていうのもなんだが、もうちょっと証拠か何かを集めてからの方が……」
ヴァトルダー「却下」
 そんな身も蓋もないことを……。
ラエン「……おい、誰か出てくるぞ」
ヴァトルダー「よし、隠れろ」
 二人は、門の陰に隠れた。それとほぼ同時に、扉が開いて、一人の若者が出てき。耳の感じからいって、エルフの血を引いているのは間違いない。おそらく彼が、問題の青年だろう。
「父さん、行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
 青年の声に、家の中から中年の声が応える。
ラエン「あの声は、コールヴァーンさんだな」
 青年は扉を閉めると、外へ出ていった。
ヴァトルダー「よし、尾行するぞ」
ラエン「お、おう」
 なぜ自分までこんなことをしているのか疑問に思いながらも、律儀に付き合うラエンだった。

二人は魔術師ギルドの中へ入っていった。入り口の受け付けの人が二人を見て、笑みを浮かべながら応対した。
受け付け「何かご用でしょうか?」
ヴァトルダー「ん、ご用だ」
 受け付けの目が一瞬点になった。
ラエン「お前は喋らんでいい!……あ、失礼。先ほどここに、ハーフエルフの青年が入ってきたと思うのだが」
 受け付けは少し困ったような顔をして言った。
受け付け「大変失礼ですが、そういった個人のプライバシーに関わることは、お答えできないことになっております」
 ラエンは軽く溜息をつき、懐から手のひらに収まるほどの大きさの紙切れを取り出した。
ラエン「あんまりこういう手は使いたくないんだが……」
 その紙切れを、受け付けの方に差し出した。
ラエン「俺は、こういう者なんだが」
 受け付けはそれを見て、一瞬立ち眩み……いや、座り眩みを起こした。
「あなたの街のクレイン・ネットワーク ロマール支部長 ラエン・バーム」
ラエン「教えて……貰えますな?」
 受け付けははっと我に返り、こくこくと頷いた。……恐るべし、クレイン・ネットワーク!

「どうぞ。こちらの部屋です」
 受け付けから、そういう係の人のところへ話が回り、その人の案内によって、二人はある部屋へ通された。
「失礼します」
 中から、先ほどの青年の声が返ってきた。
青年「何か?」
「は……どうしてもお会いしたいという方がいらっしゃいまして、お連れいたしました」
青年「はあ……」
 青年としても、事態を把握しかねている様子だ。
青年「まあ、とりあえずお通しして下さい」
 かくして、戦士二人は青年との対面と相成った。
青年「えっと……どこかでお会いしましたっけ……?」
 二人の顔を見て、青年が首を傾げる。
ラエン「いや、一応君の父君とは面識があるんだが、君自身とは……。実は、こいつ……ヴァトルダーって名前なんだが……君のことを、娘の誘拐犯だって言い張るもんでね、それなら直接本人に聞いてみたらどうかってことで……」
青年「はあ……で、その、問題の娘さんの名前は……」
ラエン「ソロー。ソローフネートだ」
 その名前を聞いて、青年はポンと手を叩いて頷いた。
青年「ああ、なるほど。その名前なら知っていますよ。父がクレイン・ネットワークの支部長さんと話しているのを聞いたことがあります……って、ああ、そうか!」
 ここで青年ははたと気がついた。
青年「あなた、あの支部長さんですね。そうか、道理でどこかで見たことがあると思った」
 青年が一人頷いて納得していると、ヴァトルダーが彼を怒鳴りつけた。
ヴァトルダー「すると、誘拐したのはやはり貴様か!」
 ヴァトルダーは反論の余地も与えず、いきなり剣を抜いて突っかかった。
ヴァトルダー「さぁ……おとなしく吐け!そうすれば、この温厚かつ平和的な俺のこと、命まで奪おうなどとは言わん!」
 お前のどこが温厚かつ平和的なんだ……?ついでに言うが、その台詞、どこかで聞いたような気がするぞ。
ラエン「ええい、落ちつけ、ヴァトルダー!」
 そのヴァトルダーを、ラエンが後ろから羽交い締めにした。
ヴァトルダー「は、放してくれ、ラエン!武士の情けだぁ!」
 必死にもがくヴァトルダー。
青年「あ、あの……」
ヴァトルダー「ぬおぉぉぉっ!」
青年「すいませんが……」
ヴァトルダー「うががががぁっ!」
 ぴしっ!
 青年はそばにあった杖を手に取ると、古代語魔法の詠唱を始めた。
ヴァトルダー「はーなーせー、ラーエーンー!」
青年「スリープ・クラウド」
 ぼわっ!
 ヴァトルダーは、寝た。

 気がついたときには、ヴァトルダーの体は椅子にくくりつけられていた。
ヴァトルダー「……う……うぉっ!?どういうことだ、これはっ!?」
 横でラエンが笑いながらヴァトルダーの方を見ている。
ラエン「なぁに、お前があんまり暴れるもんだから、ちょいとな」
青年「一応、だいたいの話は、こちらの方からうかがいました。どうも大変な誤解があるようですね」
ヴァトルダー「誤解……?」
 ヴァトルダーは眉を潜めた。
青年「はい。まぁ、そのソローという子に多少の関心のあることは認めますが、僕は生まれてからまだ一度も、オランの方に行ったことがないのです。というより、このロマールからさえも出たことがないんですがね」
 ヴァトルダーはラエンの方を見た。
ラエン「おそらく間違いない。コールヴァーンさんは、俺の知っているところじゃ、一番の過保護だからな」
 ヴァトルダーは頭を抱え……たかったが、手が動かせないためにできなかった。
ヴァトルダー「それじゃあ、ソローはどこに……」
ラエン「さあな。だが、このティム・コールヴァーン君が連れ去ったわけじゃないってことは確かだな」
 ラエンはヴァトルダーを見据えながら、
ラエン「理由は他にもある。お前、確かここには、馬で来たんだったよな。しかも、オランのネットワークの中でも一二を争う駿馬に乗って。だったらどう考えたって、お前の方が犯人より先にここへ着くんじゃないのか?……もっとも、犯人がここ、ロマールに向かっているという前提に基づいての話だが、な」
 ヴァトルダーは思わず唸った。
ヴァトルダー「そうか、犯人がラエンじゃなかった時点で、ロマールに来た意味はなくなってたんだよな……」
 ラエンはヴァトルダーの肩を叩き、諭すように言った。
ラエン「とりあえずオランに戻ることだ。ここにいても、何の解決にもならんからな」
 ヴァトルダーは、素直にその言葉に従うことにした。
 ……それにしても、この青年……ティム・コールヴァーン君、意味もなく巻き込まれていい迷惑だなぁ。

エピローグ……真犯人(?)は意外な人物

 再びオランに帰ってきたヴァトルダーは、ネットワークに馬を返した後、宿屋へ向かった。
ヴァトルダー「よぉ、おやじ……」
「あ、お帰んなさーい」
 ヴァトルダーは一瞬耳を疑った。
ヴァトルダー「う……幻聴が……。いよいよ俺も長くないな……」
「ねぇ、どうしたの、パパ」
 今度こそ間違いなく聞こえた。
ヴァトルダー「そ、ソローっ!」
ソロー「なぁに?」
 ヴァトルダーは思わず入り口にへたり込んだ。
ヴァトルダー「な、なぜに……」
 そのまま絶句する。
主人「やぁ、やっと戻ったようだね」
 手を拭きながら、奥から主人が姿を現した。
ヴァトルダー「……」
 ヴァトルダーは口をパクパクさせながら、ソローの方を指さし、主人の方を見ている。
主人「あなたがいなくなってから一時間後ぐらいだったかなぁ。私の言っていたハーフエルフの人が来てね。ソローちゃんも一緒に」
ヴァトルダー「……???」
 ヴァトルダーはソローの方を見た。
ソロー「あのね、ローゼンさんのお兄ちゃんが来てね、その人のところでお菓子を食べてたの。おじさんが心配するといけないっていうから、あたしだけこっそり裏口から出てったんだけど……」
 ヴァトルダーにも、ようやく事情が飲み込めてきた。
ヴァトルダー「つまりだ……レンディさんが来て、お菓子を食べにこいって誘いを受けて、それについていったと……?」
 ソローは力一杯頷いた。
ヴァトルダー「……うおぉぉぉぉっ!!」
 そこへ運悪く(?)、ローゼンが入ってきた。
ローゼン「ヤッホー。お?ヴァトルダー、久しぶりだな。どうしてたんだ……っておい!」
 ヴァトルダーは、目の前に現れた怒りのはけ口を前に、にたぁっと笑みを漏らした。
ローゼン「ぴぎょえぇ〜っ!!」
 それから数瞬後、まったく事態の把握できていないローゼンの、この世のものとも思われぬ絶叫が響きわたったのだった。哀れなりローゼン……。


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